始まりの記憶
白髪の髪に不気味なほど白い肌、それを打ち消すような真っ赤な眼を持つ少女ーーー千冬は昼休みの時間に異世界転移をしてしまう。
自分の目的を果たすため、使い魔のフェイレストーーーこの世界の最高神と共に旅をしながら世界を変える物語。
昼休みを告げるチャイムが鳴る。
教室の一番端に座っている少女ーーー千冬はカバンの中の弁当を取ろうとカバンを取る。
白髪赤眼と言う外見で普段から口数が少なくアルビノで陽が出ているうちはまともに外に出歩けない性質のせいもあり友達は一人もいなく誰も近寄ろうとしなかった。
千冬にとってはそれが当たり前で陽を遮るためにしているカーテンがあり外の景色は見えないのにぼーっと眺めていた。
教室の中はしだいに他クラスから集まってき騒がしくなっていく。
ただ、今日はその騒がしさはどよめきの方だった。
何事かと思い皆が見ている下を見る。
この教室には似合わない落書きが床に描かれていた。もっと妙なのがその落書きが描いている人がいないのにもかかわらず書き加えられていて光始めていることだ。
チリンチリンーーー
二つの異なる鈴の音が聴こえる。
私の記憶はここで途切れていた。
♢
頭の中で聴こえる鈴の音に起こされて目を開ける。
落ち着け、まずここはどこだ?
頭の中の記憶を辿っていく。
学校の昼休みの時に謎の落書きから光が出る。そこからーー?思い出せない?子供の頃見た本だって一言一句間違えずに言える私が思い出せない?
とりあえず今、異常な事態に巻き込まれているということは分かった。
体を起こそうと力を入れるが自分と同様に倒れているクラスメイトを見つけ立ち上がるのを止めた。
一度様子見で誰が起きるのを待ってみよう。
千冬は目を閉じ耳を澄ませて音を聞く。
しばらく経ってから誰かが動いた音がして目線を少しだけ上げる。
「ここどこだ……?」
ふらふらと立ち上がりながら頭をおさえている。その様子を見て周りから歓声や拍手、喜びの声が止まることなく続く。
その声に起こされて次々と周りも立っていき同じように千冬も立つ。
「勇者様、どうか、どうか我々を救ってくださいませ……!」
王様らしき人が膝をつき祈るようにこちらに向かって言う。
ここまで来たら誰だって分かる。世に言う異世界転移と言うやつなのだろう。
王様の切羽詰った顔は明らかに緊急事態。私たちが元の世界に帰れる可能性は限りなくゼロに近い。
千冬の頭の中にはこれからの生活をどうするかを着実に組み立てていった。
「こちらでお過ごしください」
メイドの人に連れてこられた一人部屋。私がいたら周りの人が落ち着けないと思って頼んでみたがかなりこの部屋広いな。
さすがに皆も異常事態と理解し誰かが異世界転移と気づき「帰る手段は!?」と聞いたがその後王様達が一斉に口ごもり確定した。帰る手段はない。一人が泣くとつられて我慢していた人も泣く。それが続き事態が収集つかなくなり一度部屋で休むことになった。
勇者という程ならそれなりに強いはずだし一度やってみたいことがあったのだ。むしろこの状況はわりと転機なのではないだろうか。
と言っても自分の力がどれほどあるかにもよるが確かめてみないと意味が無い。
この世界には魔法がある。それは私たちを召喚した時点で確定。なら問題はその魔法がどれくらい使えるかだろう。体力がない分補えるものがないと意味が無い。
来る時にメイドさんに能力値を見る方法を聞いといて正解だった。
「ステータスオープン」
目の前に水色の透明な板が現れる。
久住 千冬 女 十六歳
適正職業 魔術師
使い魔 フェイレスト
魔力 ∞
適合魔力 火 水 風 光 闇 時空 精霊
スキル 時空の旅人 魔法制作 黒猫の世界 白猫の世界 誓約の光 遅咲きの花 空間跳躍 春夏秋冬 蘇る意思 月光花 奏雨 天夢の鏡時計 ジョーカー 意思者
じっくりと見て無言で消す。そしてまた出す。内容は変わらない。確かに補えるものが欲しいとは思った。だけど限度ってものがあると思うんだ。
ステータスが高すぎるのはまずい。厄介事に巻き込まれる可能性が高くなりやりたいことが出来なくなる。
いや、それよりもいったん落ち着こう。魔力の上にあるやつの方に嫌な気配を感じる。明らかに人名でさらにおかしな事態を招きそうな、そんな予感。
立ち止まっていても仕方がないとりあえず呼んでみるか。
決心した千冬は誰かに呼びかけるように虚空に向かっていった。
「フェイレスト」
鈴の音がする。ここに来る時に聞こえた鈴の音が。
「はいはーい初めまして、僕の名前はフェイレスト。気軽にフェイって呼んでね」
大き目のフードに季節外れの長いマフラー。後ろの方をヒモで一つくくりにしている。紐には小さな鈴が二つ着いており音を奏でながら空中をたなびいている。
見た目はすごく軽そうだが他の人とは何かが違う。敵意はない、むしろ好意的だけどとても人の次元じゃない。
「フェイレスト、あなたが?」
「フェイでいいよ千冬。で、何か質問かな?」
笑顔を崩さずに千冬に話しかけてくる。
「人?」
「神様、一番偉い神様」
へえー最高神………。
明らかに少しづつ千冬のテンションは下がっていく。
「大丈夫、君のやりたいことは邪魔しない。むしろ意見は一致してる」
「したいの、なにが?」
「明日話されると思うけどこの世界に魔王と呼ばれる人がいるんだけど数年前から急に性格が変わっていてね。その原因、及び戦いを止める。その手伝いをして欲しいんだ」
戦いを止めるのには賛成だ。血を流さないで戦うことはとても難しい。でもその分結果はいいから。原因追求は私も興味が出てきた。元々旅に出る予定だったし。
「聞いていい?」
「なんでもどうぞ」
「私なの、なんで?」
「一つはステータス。最高神ともなるとそれなりの力がいる。ちなみに足りてないのに付くと付かれた方は体が追いつけなくなって死んじゃうね」
サラッと怖いこと言ったな。自分より上位のものは使い魔に出来ないってことなのか。
「二つ目はさっきの魔王の件。何かと動くなら自分の目で確かめた方がいいからね」
見て見ないと分からないこともあるからね。
「そして最後、コレはただの好奇心だね」
そんな好奇心で最高神が付いていいのだろうか……。
「そうそう、鏡見た方がいいよ」
鏡と言うのを千冬は嫌いだった。自分の嫌われる姿が、恐ろしく不気味な容姿が見えてしまうから。ほら、今も見えてしまった。
白髪の髪に不気味なほど白い肌。それを打ち消すような真っ赤な眼。それとは逆に透き通るような青い……眼……?
千冬の眼の色は両眼とも赤だったはずだ。決してオッドアイではない。
「この世界に転移する時にスキルとして現れたようだね。スキルに時空の旅人ってあっただろう?」
一番最初にあったスキルか。
「あのスキルはね、過去と未来が見える。千冬の赤い方、右眼の方は過去を、反対の青い眼、左眼こ方で未来が見える」
試しに左眼を閉じて過去を見る。
左眼が赤く光る。
部屋の掃除やシーツを変えたりしているメイドさんの姿が見える。
「大丈夫、見られても?」
「全然大丈夫。たまに君たちの世界の人がやってくる時があるんだけど髪の毛染めたりカラコン?だっけ、それをつけてる人もいるから容姿で何か言われるのはないね」
見られても問題はない。外以外はフードを外しても良さそうだ。
「あと加護で日光反射付けといたから日に当たっても大丈夫だよ」
つくづく神様とは凄すぎる。
♢
この世界に転移して一日が過ぎた。特に何もなく、思ったより早く起きてしまった。
時間になったらメイドさんが呼びに来てくれると思い千冬は本棚の一番分厚そうな本を取る。
だいたい歴史書というものはどの本より分厚い。なぜ予測で語っているのかと言うと背表紙の文字が一目見ただけでも分かる日本語と違う言語だったからである。
それを解読するようにすらすらと読み解いていく。
この文字、子供の頃に見たことがある。
少し前の記憶を思い出しながら一ページ、一ページとめくっていく。
へぇー、昔にも魔王が攻めてきたことがあったのか。
数年後に魔王から平和条約が結ばれた。
なんで今になって攻めてきたんだ?魔王はあれから変わっていないようだし攻めてきてもメリットはあるんだろうか?
フェイご不思議になるのも分かる。所々がおかしいのだ。まるで誰かが操っているかのように行動が不自然なのだ。しかもその操っているものの姿は全く見えないのがさらに不思議だ。
確かに、これは放ってはおけないな。
ーーこんこん
「朝食をお持ちしました」
ノックが終わると中に入ってき机の上において一礼して出ていく。
持ってこられたパンを口に入れる。
朝食はいたって普通の量。だけど千冬は少食でいくらか残してしまいそうで少しどうしようか悩んだ。
そうだ。
「フェイ」
「んー?なに?」
「食べる?」
パンを半分に割って食べていない方を渡す。
「味する?」
「私じゃないから、作ったの、するよ?」
「そう」
再び口に入れて他のも食べる。
このパン普通に美味しいけどな……?
「はい、ごちそうさま。そうそう、ステータスだけど魔法で変えといたからね」
「ありがと」
よし、あとは無事に終わることを祈る。そしてどうにか討伐隊から抜けれるように行動する。
王様の話長い……。みんなのリアクションもあいまってさらに長い。単純に「魔王に滅ぼされそうだから助けて!」でいいじゃん。
やっと入ったステータス確認の時間にちょっとイライラしていた。
出席番号順に確認していっているのでそろそろ千冬の番が来る。
水晶に手を触れて確認する。
よし、問題なし。ここから上手く抜ける!
こっそりと王様のところへ行き話をする。
「どうかしましたか?」
「出たいです、旅に」
「すまんが今は少しだも戦力が欲しいんじゃ」
「します、情報集め」
「しかし……」
昨日の夜にこっそりと作っておいた紙を出す。
「いる場所、魔王軍幹部が」
ある程度目星をつけフェイに確認を取ったので間違いない。
「これは……!」
「駄目ですか?」
「お父様、何しているんですか?」
一人の女性が近寄ってくる。
お父様と呼ぶことは王女様かな。
「……情報収集は大切ですし、一人くらいいなくても大丈夫ですわ」
「……お前がそう言うなら」
王女様が最後のひと押しをしてくれて許可がおりた。
よし、後で部屋に戻りカバンを持ってこよう。
あの中には薬とか色々入っている。偶然転移する時に持っていたのが幸をそうした。
あくまで念の為だけど持っておいて損はない。
ステータス確認も全員終わりみんなが練習場に行ったのを見計らって荷物を持って外に出る。
動くのなら何か仕事を持っていた方が都合がいい。何かと理由を付けられるから。
となると冒険者かな。王様にも資金を貰ったができるだけ使わないようにしよう。
冒険者ギルドの前に着きドアを押して中に入る。
千冬に一斉に視線が集まるが何事もなかったかのように元に戻る。若干チラチラと視線を感じるが許容範囲内だと思い我慢する。
「登録を」
「はい、了解しました。それではステータスの確認を取りたいのですが」
王様に頼んで作ってもらったステータス表を机の上に置く。
「これは……凄いですね。犯罪経歴もありませんので問題なく登録できます」
そのステータス偽装してるから後ろめたさがあるが気にしてはダメだ。
「それでは、初めはFランクからスタートとなります。こちらが冒険者カードと飾緒になります。こちらの二つは無くすと一定期間の冒険者資格の剥奪、再発行に金貨百枚を支払ってもらいます。もちろん何か理由があって無くしたのなら話は別ですけど稀なケースなのでしっかりと管理してくださいね」
飾緒は一番下のFランクで銅で作られている。昔、これを換金してお金を手に入れる人がいたのだろうか。
「それとこちらのフードを。着なくても大丈夫ですがフードを来ている=初心者なので命が危険な時優先的に助けられます」
白色のフードをありがたく貰う。
フードは一定の力量を図るためのものってことか。
「色はご自由に変えてもらって結構です。……サイズ調整致しましょうか?」
「大丈夫です」
少しぶかぶかだったがまあいいだろう。元の世界から着ていたフードもあるがこっちの方が体全体を隠せていい感じなのでこっちにしておこう。
今来ているフードをカバンの中にしまう。
飾緒と冒険者カード、フードをもらいぺこっとお辞儀をして外に出た。
『次にどこ行くかは目星つけてるの?』
『決める、朝、明日の』
この世界の地図は部屋で見たので覚えている。そこから一番近く治安が良さそうな所に行く。
そろそろ暗くなってきたので近くの宿を一泊借りることにした。
夜更かしはあんまり得意ではないので吸い込まれるようにベットに横たわって千冬は寝てしまった。
こんな作品を読んで下さりありがとうございます。
もし次が上がっていたら読んでやってください。