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第八話

「……っ! あのぼんくら侯爵!」


 ソーラスに公爵家に目をつけられたことを教えられてから、こうして倒れるまで経緯を語り終えたあと、マリーナの顔に浮かんでいたのは怒りだった。

 マリーナは激情を持て余したように、拳を強く握りしめる。


「侯爵家はどれだけお嬢様から搾取すれば!」


 怒りを露わにするマリーナに、私は場違いだと分かりながらも、嬉しさを感じていた。

 今まで、どれだけ私が虐げられていようが、それを心配してくれる人間などいなかった。

 それどころか、使用人が嘲ったような目を向けてくる始末。


 だから、私を心から心配し、怒りを露わにするマリーナに感謝を抱く。

 何故、この場所に来たのか分からないが、今日この場所にマリーナが来てくれたのは、私にとって救い以外の何者でもなかったのだから。


 その思いが、今まで強い疲労感を覚えていた身体にさえ力をくれるように感じ、私は思わず口元を緩めてしまう。


 だが、そんな私の内心を他所にマリーナの顔は曇る。


「……私は、こんな場所にお嬢様を置き去りにしてしまったのですね」


「そんなことはないわ!」


 強い悔恨が滲み出たその言葉に、私は咄嗟に首を横に振る。

 マリーナのことを思いこそすれ、恨んだことなど私にはなかった。

 それどころか、今日ここに来てくれたことに感謝さえしている。

 しかし、私の疲れ切った頭では、マリーナにその気持ちを伝えることができない。


 気持ちが上手く伝えられず、もどかしさを覚える私に、マリーナは優しく微笑む。


「エレノーラ様のお優しいところは本当に変わりませんね……。ですが、今回ばかりはその優しさには甘えられません」


「……っ!」


 そう告げたマリーナの顔には、悔恨だけではなく何か覚悟のようなものが浮かんでいた。

 その決意の強さを感じ取り、私は息を呑む。


 私の目を真っ直ぐに見返しながら、マリーナは口を開いた。


「エレノーラ様、長々とお独りにしてしまって申し訳ございません。けれど、もう貴女様をこんな場所に一人残すことは出来ない」


 そして、真っ直ぐした目に射すくめられるように固まった私の手を取り、マリーナは告げる。


「──ですので、一緒にこの侯爵家からに出ていきましょう!」


「……え?」


 次の瞬間、私の口から呆然とした呟きが漏れた。

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