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第八十二話

アルフォート視点となります。

「いくら準王族と呼ばれ、暴走していた侯爵家を対処してくれたこと、感謝します。……私には、エレノーラ様を救うことはできなかった」


「なっ!?」


 その辺境伯の言葉に、私は少しの間呆然としていた。

 辺境伯の言葉を私は受けとることができなかった。

 たしかに、私が主導して侯爵家を対処するために動いていたことはたしかだ。


 が、自分の尽力などほんの一部でしかないことを私は知っていた。

 故に私は、辺境伯に首を横に振って告げる。


「……いえ、その感謝は私に向けられるものではありません。私もまた、自分だけでは侯爵家をどうしようもできなかった人間ですから」


 侯爵家を潰すにあたり、協力してくれた数々の人々の姿が私の頭によぎる。

 彼らの協力がなければ、私は未だエレノーラを助けるためにどうすればいいのか、必死に頭をひねっていたことだろう。


「私が個人でできたことなど、全体の四割にもいかないでしょう。それどころか、礼を言わなければならないのはこちらの方です」


 だからこそ、私は逆に私は辺境伯に礼を告げようとする。

 辺境伯の顔に浮かぶ、なんとも言えない表情に気づいたのはその時だった。


「……アルフォート様がエレノーラ嬢とお似合いなのがよく伝わってきました」


「……え?」


 その言葉の意味が分からず、呆然とする私に辺境伯は嘆息と共に小さく何事かを呟く。


「……あの侯爵家を潰すためにあれだけの下準備を整えて起きながら、本当に自分が何もしていないと思い込んでいる? そこまで無自覚だったとは……」


 そして少しの間、辺境伯は顔に疲れを滲ませ、考えこんでいたが、覚悟を決めたように私の方へと振り向いた。


「この際、アルフォート様のご意思について何か言うつもりはございません。ですが、これだけは頭に入れて置いてください」


「あ、ああ」


 そう告げる辺境伯の迫力に、私は思わず商人としてではなく、アルフォートとして頷いていた。

 今まで私も少なくない死線を潜ってきたが、それでも動揺させられたその姿に、辺境伯の戦士としての能力の高さを私は知らされる。

 そんな私の態度の変化を突っ込むことはなく、辺境伯は言葉を続けた。


「もし、アルフォート様がエレノーラ嬢と婚姻するようなことがあれば──この私、辺境伯ハイリッヒ・マルレイアが、エレノーラ嬢の後ろ盾になりましょう」


「……っ!」


 その言葉に、思わず私は目を瞠る。

 辺境伯の宣言は、私に対する感謝を何より雄弁に物語っていた。

 その厚遇に驚きを隠せない私へと、辺境伯は笑って告げる。


「元気を取り戻された際には、エレノーラ嬢に私が改めてお礼を伝えたいと申していた、そう伝えていただければ幸いです。民衆達の中にも、エレノーラ様にお礼をお伝えしたいと、望んでいた者がいたことも合わせて」


「……はい。必ずお伝えさせて頂きます」


「ありがとうございます」


 そう決意した私に、辺境伯は笑って頭を下げた……。




 ◇◆◇




「……エレノーラ様は変わらなかったのだな」


 辺境伯が屋敷を去った後、私はそばにいるバルトへとそう漏らしていた。

 私の言葉に、バルトは頷く。

 そして懐かしそうに、目を細めながら告げる。


「ええ、本当に。私達を助けてくださったあの時と変わらず、様々な方達を助けてこられていたのでしょうね」


 あれ程にぼろぼろになって、以前のように弱気な自分を隠せなくなって、それでもエレノーラは変わっていなかった。

 その姿にどうしようもない何かを胸に感じながら、私は呟く。


「……まだ、私は恩を返し切ったとは思っていない。エレノーラ様が下を向いている内はまだ、な。──エレノーラ様に私は心まで救ってもらったのだから」


 そう話す内に私の胸に宿るのは熱い思いだった。

 それを鮮明に意識しながら、長年の腹心に私は誓う。


「いつか、いつか私はエレノーラ様の心まで救ってみせる。絶対に」


「ええ。貴方ならできると思いますよ」


「……珍しく素直だな」


「私はいつも素直ですよ」


「なお悪いだろうが」


 いつも通り、バルトと軽口を叩きながらその内心で私はある決意を抱いていた。

 これからのことに思いを馳せながら、バルトに尋ねる。


「エレノーラ様の行方を公表するまでに期間はあるか?」


「侯爵家が爵位を返したことに対する混乱がある内は隠しておけるかと。一年近くは隠せると思います」


「そうか。それならば、それまでに諸々のことを片付けねばな」


 そう告げて歩き出した私の顔には、決意が浮かんでいた……。

次回、エピローグを書いて二章投稿までのお休みを頂くと思います。

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