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第八十一話

アルフォート視点となります。

 侯爵家は、客観的事実として、もはや貴族として末期の状態だった。

 使用人達はほとんど他の家で問題を起こし、侯爵家以外勤め先がなかった者達だ。

 それ以外で侯爵家の使用人達になろうとするものはほとんどいない。

 メイド長であるカーシャが家令の代理となっていたのも、唯一まともだった家令が逃げ出した結果。

 侯爵家は、明らかに末期の状況だった。


 そんな状況にありながら、侯爵家は強い影響力を誇っていた。

 亡国という背景があれ、公爵家当主である私に対して高圧的な態度であったのもそれが理由だ。

 公爵家よりも爵位では劣りながらも、立場的に侯爵家の方が上。

 それが今の侯爵家の歪な立場。


 その原因となったのが、何代か前の愚王の言葉だった。

 その国王は、何も影響を考えず臣下に下る弟に向けて告げたのだ。


 ……その当時公爵家だったソーマライズ家を、王家唯一の跡継ぎに認める、と。


 結果、ソーマライズ家の立場は、準王族というかつてない身分となり、それこそが現在の侯爵家という害悪を作り出す原因となることになった。


 何せ、なんの功績を出す必要もなく無条件でソーマライズ家は優遇され、問題を起こしても公爵家から侯爵家に落とされた程度の罰しか与えられない。

 その上、準王族のため、爵位関係ない権限を与えられる。

 そこまで特権を与えられ、腐敗しない訳がなかった。


 それでも、ソーマライズ家にそれだけの権限を与えた王族ならば、ソーラスの暴走を止められるはずだった。

 が、今までの王族がソーマライズ家の暴走を止めようとすることなどなかった。

 王家のメンツを守るため、なんてどうしようもない理由で。


 ……それが今まで、辺境伯でさえ侯爵家を潰せなかった理由だった。


 侯爵家を完全に潰そうとすることは、王族を敵に回すと同義だったのだから。


 そんな状況の中、侯爵家からエレノーラを解放するために、今まで私は必死に動いてきた。

 どれだけ貴族達と協力し、侯爵家の犯罪の証拠を見つけようが、ソーマライズ家の爵位が侯爵位から伯爵位に落とされるだけ。

 それでは、準王族という侯爵家の立場は変わらず、なんの意味もない。

 それを理解していたからこそ、私は侯爵家から完全に爵位を奪うために、動いてきた。


 その成果こそが、私がソーラスに署名さた書類だった。


 あの書類派王族がソーマライズ家に対処した、そう強引にこじつけるために必要なアイテムだった。

 それを私は何とか条件付きだが、王族から引き出し、ソーラスを追い詰めることで思考能力を奪い署名させた。

 あそこまで行くのに、私がどれだけの手間をかけたのか、思い返したくないほどだ。


 ……だが、それは決して自分の手柄だなんて私は思っていなかった。


 なぜなら、それはエレノーラを助けるために様々な人間が動いたからの結果だったのだから。

 貴族達が動かねば、そもそもあの書類さえ私は王族から引き出せなかっただろう。

 それに、エレノーラを侯爵家から解放するために動いたのは貴族達だけではなかった。


 ──様々な商会に、裏社会の人間だと思える匿名の協力者に、王女まで。


 どれだけの人間がエレノーラを助けるために動いていたのか、その中心であった私にも正確には判断できないほどだ。

 それらの人間が必死に動いたからこそ、準王族である侯爵家を完全に潰すことができたのだ

 そしてそれを知るからこそ、私はおかしさを堪えられなかった。


 これだけ多くの人間が何としても助けようとするぐらい人を助けて起きながら、自分は誰にも認められていないなんて思い込めるエレノーラに対して。


「知っていますか、マルレイア辺境伯様。エレノーラ様は、この状況に至っても自分は無駄な二年間を過ごしてきたと言っていたんですよ」


「…………は?」


 その言葉に、呆然とした顔をこちらに向ける辺境伯に、私は苦笑する。

 そんな私へと、憮然とした表情で辺境伯は告げた。


「……この様子では、聖女という名前もエレノーラ嬢には伝わっていないのか」


「せ、聖女!?」


 次の瞬間、辺境伯の口から出てきたまさかの言葉に、私は思わず声を上げていた。

 そんな私に、辺境伯は説明してくれる。


「他の貴族達がエレノーラ様に救われたことについては知っているか?」


「え、ええ。大増税で財政難になった時、エレノーラ様に商会の伝手や、新しい商売に関して手ほどきを受けたことで難を逃れたと聞いたことがあります」


「聖女とは、彼らが広めているエレノーラ様の二つ名だよ。あくまでまだ身内間のものだがな」


 そこで一度言葉を区切り、口元に笑みを浮かべ辺境伯は続ける。


「が、この勢いであれば、あと一年もあれば聖女の名は広まるだろう。──強欲令嬢、なんてつまらない蔑称の代わりにな」


「それは、面白そうですね」


 どうしようもなく愉快な気分を私が覚えたのは、その時だった。

 聖女という二つ名が広まって行けば、もう他の貴族達がエレノーラのことを誤解することはないだろう。

 そして、エレノーラ自身が新たな自分の名前に気づいた時、一体どんな反応をするだろうか。

 そう、想像して私は笑みを浮かべる。


 辺境伯が真剣な顔をして、私に向き直ったのはその時だった。


「もう一つ、公爵家当主アルフォート様によろしいでしょうか?」


「っ!」


 今まで私の要望に応え、一商人として扱ってくれていたはずの辺境伯の態度の変化。

 突然のことに、私は動揺を隠せない。

 そんな私に頭を下げ、辺境伯は口を開いた。


「──我々ができなかったエレノーラ様を救出して下さった貴方にも感謝を。この恩は絶対に返させて頂きます」

 短編だった時の想定できてしまったことや、二章の伏線として想定していたこともあり、最後に設定を放出しようと考えていたのですが、溜め込みすぎて少し荒っぽくなってしまったかもしれないです。申し訳ありません。

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