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第七十二話

 バートが現れる可能性に思い至っていたにも拘らず、突然のできごとに驚きも隠せない。

 アルトも少しの間固まっていたが、すぐに我に戻り叫ぶ。


「バル……バート、不敬だぞ!」


 そのアルトの言葉に、バートは抵抗することなく頭を下げた。


「……申し訳ありません。いち早くお渡ししたいものがあり、気がせいでおりました」


 そんなバートに、どうするかとでも言いたげな視線をアルトが向けてくる。

 その時になってようやく動揺を抑えられた私は、アルトへと首を振って告げる。


「いえ、私は怒ってないわ」


 本来であれば、貴族に平民がこんなことをすれば罰せられるところの話ではない。

 が、私とバートは顔見知りであるし、驚きはすれ罰する気など欠片もなかった。

 その意図を組んだアルトもバートをたしなめるだけで済ませようとする。


「次は意識した方がいい。……ところでなぜお前がそれを持っている?」


 が、次の瞬間アルトは半目でバートを睨む。

 その言葉を聞いて、私もバートが鞄を手に持っていることに気づいた。


「それは、マリーナさんに頼んだはずのものなのだが?」


「偶然お会いしましたので、私がお持ち致しました」


「ほう、偶然ね……」


 そのバートの言葉に、アルトは扉を疑わしそうに見るが、ため息をついてバートから鞄を受け取る。

 そして、バートが私の方へと向き直ったのは次の瞬間のことだった。


「エレノーラ様にもこれを」


「……え?」


 その言葉ともにバートが差し出した紙袋を、私は戸惑いながら受け取る。

 渡す際のバートの表情は、真剣そのもだった。

 それ見て、これが彼の言っていたいち早く渡したかったものだと私は理解する。


 一体中に何が入っているのかまるで分からぬまま、それでも丁寧に私は紙袋を開ける。

 その中に入っていたのは、杜撰に扱われていたのか、折り目が所々に見える手紙の山だった。

 その手紙の宛名が自分の名前であることを確認して、私は目を瞠る。


「……これは」


「どうやら、エレノーラ様に来た手紙を侯爵家当主、いえ、元当主ソーラスが隔離していたようです。たしかにエレノーラ様にお渡ししました」


 そう告げた後、バートは非礼を詫びるように一礼して部屋を後にした。

 まるで、後は私に確認しろと言いたげな様子で。


 私は息を飲んで覚悟を決めたあと、その手紙を裏返して行く。


 ──その送り主の名前として書かれていのは、かつて私が領地に干渉した貴族達の名前だった。

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