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第七十一話

 アルトの言葉に、私は一瞬想像してしまう。

 貴族達に自分が感謝されている光景を。

 が、その未来をすぐに私は否定した。


「……そんなことありえないわ」


 できる限り冷たく吐き捨てた私の胸にあったのは、危機感だった。

 少しでも想像してしまえば、自分はありもしない希望を抱いてしまう。

 そう理解していたからこそ、私は必死に自分に想像するなと言い聞かせる。


 それは、後で自分の首を締めるだけだと私は理解出来ていたからこそ。


「私がどれだけ貴族に嫌われているのか知らないから、そんなこと言えるだけよ。私に感謝する貴族なんていないわ」


 それが私の本心だった。

 ……少なくとも、今まで私を評価してくれる貴族なんていなかった。


 自分を虐げてきた家族を思い描きながら、私は唇を噛み締める。

 家族は決して優秀な人間でないのはたしかだ。

 けれど、家族達は一つだけ真実を私に教えていた。


 貴族社会に私が馴染むことは今後絶対にありえないという真実を。


「待ってください! 少なくとも私は、エレノーラ様が貴族社会で強欲令嬢と耳にしたことはありません!」


「嘘よ!」


 故に私は、アルトの言葉を信じられなかった。


 助けたにも拘らず、一切の連絡がなかったことを考えれば、貴族達が私を感謝していることを信じないのは決しておかしなことではないだろう。


 だが、それ以上に自分が感情的になっていることに私は気づいていた。

 商会ならともかく、貴族社会に関しては私はほとんど情報を得ていない。

 公爵家お抱えの商人であるアルトの方が貴族社会に感じて詳しいだろうし、強欲令嬢の件については確認すべきだと感じていたし、いつもの私ならば実際に行動を起こしただろう。


 それを理解しても、私はアルトの言葉を受け入れられなかった。


 ──今までの過去が、私の思考を制限していた。


 その感情に背を押されるままに、私はアルトへと感情をぶつけようとする。

 それをやるべきでないと頭のどこかで警告を上げている自分に気づきながら。

 それでも私は、アルトに感情をぶつけかけて。


「失礼します」


 ──突然、扉が開いて中へと男性が入ってきたのはその時だった。


「……っ!」


「なっ!」


 それは、貴族社会で疎まれているとはいえ、貴族令嬢である私にとっては、まさかのできごとだった。

 貴族に対し、使用人がそんなことをすれば不敬を買うどころの話ではない。

 だから私とアルトは驚愕を隠せず、中に入ってきたその人間へと反射的に目をやる。


 入ってきた男性が、知り合いであることに私が気づいたのはその時だった。


「ば、バート!?」


 ──それは、かつて私がアルトと共闘した時、唯一部下としてアルトの味方をしていた男性だった。

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