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第六十九話

「ええ私は知っておりますよ。その謙虚さこそがエレノーラ様の美点の一つであることも。ええ。よく理解しております」


 そう淡々と告げるマリーナの顔には笑顔が貼り付いていたが、明らかに怒っていた。

 そんなマリーナの威圧に、なぜ扉の前にいたのかとさえ聞けず、私は無言で頷くことしかできない。


「ですが、どこまで自分を追い詰めれば気が済むのですか!」


「ご、ごめんなさい!」


 マリーナの剣幕に、私は反射的に謝罪の言葉を口にする。

 が、それはさらにマリーナを怒らせただけだった。


「心がこもってません!」


 マリーナは顔を明らかに不機嫌そうなものにしながら、言葉を続ける。


「そもそも、私達に何もできなかったという前提はなんの冗談なんですか? 私達の商会を守るためにと、誰にも言わず侯爵家に嫁ぐことを決めた上、何も言わずに私を侯爵家から追い出しておいて、私達に何もできなかったと? やかましいわ! です!」


 言葉を続け内に、どんどんとマリーナの目がつり上がってくる。

 それに私は思わず身体を縮こめる。

 が、それでもマリーナは止まらない。


「エレノーラ様が、仕事ができないとネガティブになる根っからのワーカーホリックであることは知っていますが、そんな身体で禁断症状を発症しないでください!」


 ……マリーナは私を何だと思っているんだろう?


 文句を言いたい気持ちになるが、何も言えず私はただ俯く。

 そんなマリーナを止めたのは、アルトの静かな声だった。


「熱くお説教しているところ悪いんだけど、少しいいかい?」


「……え?」


 怒りが浮かんでいたマリーナの顔が固まったのはその瞬間だった。

 ぎこちない動きで、マリーナはアルトの方向へと振り向く。


 そこにいたのは、顔に笑顔を浮かべたアルトの姿だった。

 その目は笑っておらず、マリーナの顔がひきつる。

 そんなマリーナへと、淡々とアルトは尋ねる。


「何でここにいるの?」


 マリーナの顔に冷や汗が浮かび、青ざめたのはその瞬間だった。

 言い訳を探すような、助けを求めるような顔でこちらを見てきた後、マリーナは意を決したように口を開いた。


「えっと、ヘタレなアルト様のサポートにと」


「あ?」


 次の瞬間、アルトの顔に青筋が浮かび、マリーナがやってしまったとでも言いたげに目を逸らすことになった。

 居心地の悪い沈黙が部屋を支配し、マリーナの顔が青から白へと変わる。

 が、そんな中アルトは一旦息を着いて怒りを霧散させて、口を開いた。


「……もういいので、とりあえず私の鞄を取って来てください」


「は、はい!」


 これ幸いとそそくさと部屋を後にするマリーナに、アルトは笑顔で告げる。


「あ、次に同じことをしたら許しませんからね?」


「……っ!」


 青い顔をしたマリーナは、逃げるように部屋を後にする。

 それを確認しながら、アルトはため息つく。


「本当にどいつもこいつも……」


 それから少しの間アルトは項垂れていたが、少しして頭を振って切りかえる。

 そして私の元に向き直り、口を開いた。


「私からも一つ、エレノーラ様に言いたいことがあるのですが、よろしいですか」


「……え?」


 そのアルトの真剣な眼差しに、私は小さく動揺の声を漏らした……。

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