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第六十八話

「……そんな、どうして!」


 アルトが珍しく感情を露わにして、告げる。

 その態度は、アルトが私を認めてくれているからのもので、それを理解した私は喜びを覚える。

 が、すぐにその喜びは強い悔恨に転じ、私の胸を締め付けることとなった。


 今の私は、他人から優しさを感じるたびに強い罪悪感を覚えずにはいられなかった。

 なぜなら、私は知っているからだ。


 ……私は、そんな優しさや評価を受けられるような立派な人間でないことを。


「ねぇ、アルトがマリーナや商会の人達を助けてくれたのよね」


「え? は、はい?」


 いつもとは違い、覇気のない私の声に戸惑いながら、アルトは私の言葉を肯定する。

 まるで、それをするのが当たり前だったとでも言いたげな態度で。


 アルトのその態度に、私は自嘲の笑みを浮かべる。

 アルトにとっては、それが当然の話だったのだろう。

 それが理解できたからこそ、私は自分とアルトの違いに嘲りを隠せない。


 ……私は自分のことしか、考えられていなかったのだから。


「私は、商会の皆が伯爵家から解雇されていたことすら、知らなかった」


 俯く私に、アルトは何も言わなかった。

 そのことが、かえって私の胸を締め付ける。

 アルトにとっては、私が商会の人々を気づけないのも仕方ないことだと、流せることなのかもしれない。


 だが、そのアルトの態度さえ自分との違いを突きつけられるような気がしてならなかった。


 ……それは、マリーナや商会の皆も同じだった。


 私が商会が潰れたことを知らなくても、まるで責めなかった。

 仕方なかったのただと、私を責めることはなかった。

 その態度こそが、より私の惨めさを際立たせ、強い悔恨を抱かせる要因となっていた。

 頭が動き出すにつれ、より自分の惨めさを目の前に突きつけられることになって、それは私の心の中でしこりとなっていた。


「……それだけじゃないわ」


 そしてその溜まりに溜まった感情が、アルトを前にして吹き出した。


「私は最初、侯爵家の言いなりになんてならないと思っていた。なのに、いつの間にかそんな気持ちも無くなっていて……」


 頭が動かなかった。

 孤独で心が凍りついていた。


 言い訳しようとすれば、すぐに思いつくことができる。

 しかし、自分を犠牲にしても私を助けようと動いてくれた人達を知って、そんな言い訳をすることなどできるわけもなかった。


「この二年間、マリーナや商会の皆は私を助けるために必死に動いてくれていた。……でも、私はただ無駄に二年間を消費しただけだった」


 ソーラス達の言いなりになって、孤独に嘆いていた自分。

 本当にどうしようもないとしかいうことがてきない。


「……だから、私はアルトの好意を受ける資格はないの。本当にごめんなさい」


 そして、こんな状態でアルトの好意をさらに受けることなど恥知らずなことができるわけがなかった。

 今のまま、これ以上恩を重ねるなど許される行為ではないだろう。


 だから私は、真剣な表情でアルトへと告げる。


「もちろんアルフォート様にも、アルトにも恩は返す…………な、なに?」


 ……私が、アルトの顔に浮かぶ表情に気づいたのは、その時だった。


 まるで、可哀想なものを見るような、どうしようもない頑固な年寄りにあきれるような。


 そんな顔をアルトはしており、理由が分からないアルトの態度に私は居心地の悪さを隠せない。

 が、そこから一言も話さないアルトに、このまま黙っている訳にもいかないと口を開こうとして。


「エレノーラ様のワーカーホリック!」


「ま、マリーナ!?」


 ──去ったはずのマリーナが、扉を開け放って出てきたのはその時だった。

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