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第六十二話

カーシャ視点となります。

「……それは、一体どういう?」


 アルフォートの言葉に、呆然と問い返した私の声は震えていた。

 頭には、一つの答えが浮かんでいる。

 それでも、私はその答えを認めることができず、希望を求めアルフォートに目を向ける。


 そんな私を嘲笑い、アルフォートは告げた。


「公爵家があの程度の装飾品を買い替えられないわけがないだろうに。想像以上に簡単に騙されてくれたな」


「っ!」


 ……ソーラスへと告げた言動さえ、偽りだったと私が理解したのはその時だった。


 今さらながら、私はようやく認識する。

 自分は、敵の罠にのこのこと入ってきた獲物にすぎないと。

 もう、ここからどうしようが逃げられることはないのだと。

 全てを理解した私の口から、呆然とした言葉が漏れる。


「……そんな、公爵家がトップクラスの商会と結びついている訳が」


 公爵家がトップクラスの商会と結びついているならば、私だってこんな大事になる前になりふり構わず逃げていた。

 故に私は、動揺を隠せない。


 次の瞬間、そんな私へとアルフォートは、嘲りを隠さない口調で告げた。


「……商会に逃げようとしながら、何も知らないのか」


「……なっ!」


 自分が商会に逃げようとしていたことさえ知っていたアルフォートに、私は呆然と立ち尽くす。


 私の行動は全部、アルフォートの手のひらの上だったこもを知って。


 その事実に衝撃を隠せない私へと、アルフォートはさらに言葉を続ける。


「エレノーラ嬢とは比べるのがおこがましい程の無能だったな」


「エレノーラ嬢と比べたら、大体の人間が無能になると思いますよ」


「エレ、ノーラ!」


 ー公爵家とは絶対にことを構えるな


 エレノーラがソーラスに告げたというその警告が、私の頭に蘇る。

 私が、その警告の意味を理解できたのは、全てが手遅れとなった今だった。


 エレノーラは、公爵家がトップクラスの商会と繋がっていたことに気づいたのだろう。

 だから、絶対に公爵家には敵対するなと、ソーラスに警告したのだ。

 自分でさえ、公爵家は手に負えないと。


 ……公爵家に睨まれた時点で、私達は既に終わっていたのだ。


 その事実に、私の頭は真っ白になった。

 次々と明かされていく想像もしなかった状況に、私はもはや呆然とすることしかできない。


 が、次の瞬間アルフォートが告げた言葉に、私は強制的に正気に戻らされることとなった。


「──まあ、そんな話は鉱山奴隷となる人間には関係ない話か」


「………………え?」


 鉱山奴隷、それは重罪人に待つ実質死刑と変わらないとされる立場。

 私の覚えている限り、鉱山奴隷とは平民でも余程のことがなければ与えられることのない罪だった。

 鉱山奴隷の労働環境は最悪で、四、五年でた大半の鉱山奴隷が死に至る。

 その上、女性にとっては地獄のような環境だ。


 だから、私はまるで私が鉱山奴隷となるのが決まっているように語るアルフォートの言葉を信じていなかった。

 他の使用人達は強制労働なのに、私だけ鉱山奴隷なんて有り得るわけがない。


 ……だが、こちらを眺めるアルフォートの冷ややかな目に、鉱山奴隷という言葉が冗談などではないことを、私は理解することになった。


「うそ、でしょ……」


 救いを求めるように、私はバルトの方へも目をやる。

 が、そのバルトの目もアルフォートとまるで変わらない冷ややかな光を宿していて、次の瞬間私の身体を激しい恐怖がおそうことになった。


「いや! それだけは絶対に!」


 次の瞬間、私はアルフォートの膝にしがみつき懇願していた。

 鉱山奴隷、そんな未来どうしたって認められるわけがなかった。

 そこに待っているのは、強制労働なんて比にならない絶望なのだから。


「お願いします! どうか、鉱山奴隷だけは辞めてください!」


 だから、私は必死に懇願する。

 人の目も気にせず、必死にアルフォートに慈悲をこう。

 それに、私は自分がどうしてこんな重い罰を受けるのか、理解できなかった。


「わ、私は重罪人なんかじゃないわ! 私はあくまで、少し横領しただけで……」


「……少し?」


 ……今まで何も言わなかったアルフォートが、低い声を出したのはその瞬間だった。


 アルフォートは、思わず肩を震わせる私の髪をつかみ、強引に顔を上げさせる。

 そして私の顔に映ったアルフォートの顔は、私に対する蔑みを隠せない表情だった。


「自分の行いで、辺境でどれだけの被害が起こりかねなかったのかも知らないのか。本当にどうしようもないな」


 それからアルフォートは、私から目を離しいつの間にか集まってきていた護衛の一人に告げる。


「この女を拘束しておけ。所詮重罪人だ。ある程度手荒に扱っても構わない」


「そんな!」


 私は何とか、アルフォートに慈悲をこおうとするが、その前に近づいてきた護衛に強引に立ち上がらせられる。


「手を離しなさい!」


 私は何とか振り払おうと暴れるが、全て無駄だった。

 万力のような護衛の手を離すことはできない。


「はあ、邪魔だな。眠っていてくれ」


「……うっ!」


 それどころか、私は護衛に腹部を殴打されあっさりと意識を手放すことになった。


 その最後、私の頭に浮かんだのはエレノーラの言葉を聞かなかったこと、いや、まるで何も考えずに利益を追求した自分への後悔だった……。

次回、アルフォート視点となる予定です。

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