表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/86

第六十話

カーシャ視点となります。

 扉が開いた音に反応し、アルフォートはすぐに私に気づく。

 私の存在に気づいた時、彼がその顔に浮かべたのは、あからさまな嫌悪感だった。


「……まだ何かあるのか?」


 敵意を隠そうともしないアルフォートの態度に、一瞬私は緊張を覚える。

 が、すぐに私はその緊張を笑みで覆い隠した。

 アルフォートが私にいい感情を抱いていないことぐらい、最初から想定内。

 その態度も、すぐに変わると自分に言い聞かせながら口を開く。


「アルフォート様にご提案があり、屋敷を後にする許可をバルト様に頂きました」


 まるでバルトから屋敷の外へと行く許可を貰っている、そんな口ぶりで私はそう告げる。


 もっとも、それはただの嘘でしかない。

 後々それに気づかれれば、アルフォート達の心象は悪くなるだろう。

 だが、それも後の話。

 大金を渡した後であれば、アルフォートも嘘については口を噤むに違いない。

 とにかく今は、少しでもアルフォートの心象を良くするために、私は緊張を覆い隠し、必死に笑顔を顔に貼り付ける。


 私の言葉をうけてもなお、最初アルフォートの態度が軟化することはなかった。

 不機嫌そうな様子を隠そうともせず、私へと口を開く。


「余計なことを。私が不機嫌だと先程も言ったことを覚えていないのか? 金銭的にも時間的にも公爵家に多く奪われた。その上また余計なことで時間を奪おうと……」


 しかしその途中で、アルフォートは言葉を中断した。

 言葉を途中で止めたアルフォートの目が捉えていたもの、それは私が持つ鞄だった。


 アルフォートが黙ったことで、沈黙が場を支配する。

 それから、アルフォートは重々しく口を開いた。


「……カーシャ、その鞄は一体なんだ?」


 その声に込められた何かを期待するような声に、私は思わず笑いだしそうになる。

 ああ、やはりアルフォートは私側の人間だったのだと。

 アルフォートはもう、私の鞄の中身を理解できているだろう。

 また、鞄の中身が想像できれば、どうやってその中身を調達したか、辺境伯の不正の件が頭によぎらないわけがない。

 それを理解した上で、アルフォートが告げた第一声は咎める内容のものではなかった。


 それだけで、私は確信できた。

 アルフォートは、私と同じように自分の利益のためなら、善悪の判断などどうでもいい人間だと。


 この人間ならば、絶対に交渉は上手くいくと。

 その思いに口元に笑みを浮かべながら、私は鞄の中身がアルフォートに見えるようにもち、その鞄を開いた。


「はい。これは私からの謝罪の気持ちです」


「……っ!」


 鞄の中身を見たアルフォートの顔を、一瞬驚愕が支配する。

 が、すぐにその表情は喜びへと変化した。


 アルフォートの表情に、私の顔にも笑みが浮かぶ。

 これで私は、破滅を逃れたとそう思い込んで。


「よし。証拠は容疑者が持ってきてくれた。バルト、すぐにマルレイア辺境伯に使いをだせ。横領した人間を捕らえたと」


 ──故に私は、次の瞬間アルフォートが告げた言葉を信じることができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ