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第五十六話

アルフォート視点となります。

「愛人でさえ、借金を負った。だったら、自分達がそれ以下の罪だとは思っていないよな?」


 私が淡々と告げた言葉に、使用人達の顔に緊張が走る。

 が、それでもソーラス達のように抵抗しようとする人間はいなかった。

 先程までの私の対応を見て、使用人達も理解できたのだろう。


 抵抗しようが、もう無駄であることを。


「賢明な判断だと言っておこう。さすがの私も、これ以上抵抗する者がいれば容赦なく罪を重くするつもりだったからな」


 そんな使用人達に笑いかけ、私は告げる。


「二年間の強制労働、それが君達に課せられる罰だ」


「……え?」


 使用人達の顔に、隠しきれない驚愕が広がっていったのは、次の瞬間のことだった。

 それを無視して、私はバルトへと話しかけようとする。


「ありえない! なぜそんな重い罪を私達が!」


 が、その私の言葉を一人の侍女の言葉が遮った。

 振り返ると、そこにいたのは最初逃げ出そうとした侍女、カナリアだった。

 彼女は、剣幕を変え私へと叫ぶ。


「強制労働は、言い方が違うだけで奴隷ではないですか! なぜ、ソーラス様ではなく私達がそんな重い罪を被らないといけないのですか!」


 カナリアは、他の使用人達の方に手を向けながら、私へと訴えかける。


「ここにいる先輩方も私も、全てあのソーラスとメイド長であるカーシャに言われて、嫌々手を下していたものばかりです! どうか、ご慈悲を!」


 そしてカナリアは、私の目の前で深深と頭を下げた。

 それはまるで、健気に仲間を守ろうとするかのよう。

 その姿に、私は口元に微笑みを浮かべながら口を開いた。


「──バルト、この侍女は三年間の強制労働をお望みらしい」


「………は?」


 私の声に反応し、頭を上げたカナリアの顔に張り付いていたのは、信じられないといった表情だった。

 そんなカナリアを無視し、書類を書き換えはじめたバルトを確認した後、私は変わることのない微笑みのまま口を開いた。


「言ったよな。抵抗すれば罪を重くすると」


「……っ!」


 呆然としていたカナリアは、その言葉に反応し、呆然と私の顔を見上げる。

 そんなカナリアに、私は笑みを浮かべたまま続ける。


「そもそも、そんな言葉で本当に私が騙せるとよく本気で思えたな。アイーダとソイラが話した情報はソーラスのことだけではない、そう言ったら分かるか?」


「なっ!」


 ……失態を悟ったカナリアの顔から、血の気が引いたのはその瞬間だった。


「侯爵夫人に料理を運びながら、熱心に虐めに加担していた人間が、よく慈悲を乞えたものだ」


 その言葉に、カナリアの返答はなかった。

 だが、焦燥が浮かぶ彼女の顔が、私の言葉が真実であることを何より雄弁に物語っていた。


「時は金なり。この言葉を知っているか? 時は金と同じ価値があるという意味だ。そして私は現在、馬鹿達のせいで時も金も等しく失うことになった」


 言葉を続ける内に、私の声の中にはどんどんと怒気がこもっていく。

 それを受け、青白い顔で震えるカナリアの耳元へと、私は最後に囁く。


「……私をこれ以上不機嫌にするなよ」


 その言葉に、ようやく自分に逃れようのない破滅が待っていることを悟ったカナリアの顔に、絶望が浮かんだ。

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