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第五十一話

アルフォート視点となります。

 それから、ソーラスが何かを口にすることも、立ち上がることもなかった。

 顔に浮かぶのは、取り繕うこともできない絶望。

 その姿に、私はソーラスの心が折れたことを理解する。


 あれ、を渡すべきだと私が判断したのは、その時だった。


 私は鞄へと手に入れ、一枚の書類を取り出し、それをソーラスへと投げつけた。


「せめてもの情けだ。この書類に署名しろ」


 地面に落ちたその書類を、血だらけのソーラスが拾う。

 次の瞬間、その書類に刻まれた刻印に気づいたーラスは、動揺を隠せない様子で口を開いた。


「王家の紋章……?」


「陛下からの最後の温情だ」


「……っ!」


 私の言葉に、ソーラスは呆然とした態度から一転、夢中で書類へと目を通し始める。

 が、その顔はすぐに不可解そうなものへと転じた。


「これに署名した者の爵位が王家に返上されたものとし、以後王家との関わりをなかったものとする……?」


 不信感を隠そうとしないソーラスの態度に、横目にバルトの顔が緊張で強張るのが見える。

 だが、私は一切動揺も漏らさず告げる。


「爵位を王家に自主的に返上するならば、王家の名を語った罪をなかったことにする、そういうことだ」


 まるで、動揺も見せない私の態度にソーラスの顔に浮かぶ不信感が薄まっていく。

 それを確認した上で、私はとどめのことばを告げる。


「不服なら、その書類を返してもらうが?」


「い、いや! まさか不服など一切抱いていません!」


 私の言葉に、ソーラスは慌てたようにその書類に署名し始める。


 ──それが、最後にして最大の罠であることに気づかずに。


「こ、これでいいのだろう?」


「署名は確認した。この書類に関しては私が陛下へと渡しておこう」


 ソーラスから書類を受け取った私は、緩みそうになる口元を必死に引きしめながら、あえて無愛想にそう告げる。

 ソーラスが、私が嫌々受け取っていると勘違いしてくれるように。


 そして、顔に安堵を滲ませるソーラスは、罪人として護衛に引き連れ部屋を後にするその最後まで、書類に署名した意味に気づくことはなかった……。

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