第四十七話
アルフォート視点となります。
「た、頼みます! なんでも言うことを聞く! だ、だから、どうか王家に取り成してください!」
机の上に額を擦り付け、叫ぶソーラスの態度は先程とは比較にならないほど、真剣なものだった。
必死に私へと媚を売りながら、ソーラスは懇願する。
「そ、そうだ! 侯爵家当主として、もう公爵家のことを亡国の人間と呼ばないよう規制してみせます! 侯爵家がそういえば、もう誰も公爵家を馬鹿にするものはいますまい!」
「当主、様……!」
突然、若い女性の声が響いたのはその時だった。
ふと、私が横を見ると、そこにいたのはお茶を持ってきたらしい、一人の若い侍女だった。
彼女の手に持つトレイの上のお茶は冷めており、彼女が長い間そこにいたことが分かる。
どうやら、取り込んだ話のせいで今の今まで声をかけることさえできなかったのだろう。
その時、侍女の存在に気づいたのは私だけではなかった。
「……っ!」
頭を擦り付けた状態のソーラスの肩が震えるのが見える。
プライドの高いソーラスにとって、使用人にこんな姿を見られるというのは耐え難いことに違いない。
だが、それでもソーラスが頭を上げることはなかった。
そのまま、必死にソーラスは懇願する。
「お願いします、どうか王家だけは……」
それこそが、どれだけソーラスが王家との関係の断絶を恐れているかを示していた。
それも当然だろう。
侯爵家は王家との関係があったからこそ、好き勝手できたのだから。
故にソーラスは、必死に私に縋り付く。
「公爵家にはもう、何も手出しをしませんから!」
しかし、全てが今さらすぎた。
私は椅子から立ち上がり、歩きだす。
「……え?」
その進路方向にあったのは、お茶を持った侍女。
その侍女のもつトレイからお茶の入ったカップを取りながら、私は口を開く。
「なるほど。侯爵家の気持ちはよくわかった」
「──っ!」
私がそう告げた瞬間、僅かにソーラスの肩が動き、彼が希望を抱いたことが伝わってくる。
それを冷ややかに見つめながら、私はソーラスの頭上でカップを傾けた。
「なっ!?」
水がソーラスを濡らす音が、部屋の中響く。
私の行動に、部屋の中を静寂が包む。
その静寂の中、頭を濡らしたソーラスは呆然とした様子で顔を上げた。
そんなソーラスへと私は笑顔で口を告げる。
「で、それが? ──今さらそんな言葉で私を説得できるわけないだろうが」
その私の言葉に、ソーラスの顔から表情が消えた……。
更新遅れてしまい、申し訳ありません!