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第四十四話

アルフォート視点となります。

「──これで、なんの遠慮もなしに侯爵家を潰せる」


 今まで被っていた貴族の仮面を投げ捨て、そう呟いた私の胸にあったのは、溢れんばかりの憎悪だった。

 ようやくこの憎悪を、なんの遠慮もなしにぶつけることができる。

 そう考えた私の口元が、自然と弧を描く。


 そう、今までの私がソーラスに告げた言葉は本心ではなかった。

 全てはソーラスを騙すための演技でしかない。

 本当の目的を隠し、公爵家新当主アルフォートはただ辺境伯の遣いでしかないとソーラスに思わせるための。


 ソーラスへの憎悪を、敵意を隠すのは本当に至難のことだった。

 なにせ、その顔を見るだけで殴りかかりたい衝動に襲われるていたのだから。

 が、それだけの価値はあった。


「上手く騙される程度の人間でありがとう。お陰で手間が省けたよ」


 私は嘲笑共に、ソーラスに感謝する。

 今まで耐えてきた分とばかりに、敵意や嘲りを躊躇なくソーラスへとぶつける。


 それだけされても、ソーラスの顔に混乱以外の感情が浮かぶことはなかった。


「なに、を……」


 ソーラスはただ呆然と立ち尽くしている。

 怒りを露わにするのでもなく、私の突然の変貌に驚くのでもなく。


 その態度こそが、何より雄弁にソーラスの混乱を物語っていた。

 騙されたことにすら、ソーラスは認識できていないのだろう。


 だが、そんなことを丁寧にソーラスに説明する気など私にはなかった。


 目的を果たした今、ソーラスに一から丁寧に説明する必要などない。

 そんなことよりも、今は自分のやらなければならないことをするべきだ。

 そう判断した私はソーラスを無視し、護衛としてついてきた側近、バルトへと口を開く。


「用意してきたものを」


「はい」


 私の言葉に反応し、バルトがその身体を隠すローブの下から取り出したのは、鞄だった。

 なにごとかと言いたげなソーラスの視線を気にせず私はその中に手を入れ、そして書類の束を取り出す。

 そして、乱雑にそれを机の上に放り投げ、私はソーラスへと笑いかけた。


「それを見れば、さすがの侯爵家当主でも状況が分かるだろう?」


 私の声に、一瞬肩を震わせたソーラスは恐る恐る書類の束を持ち上げて慎重に読み始める。

 が、そうしてゆっくりと読んでいたのはほんの最初だけだった。

 次の瞬間、ソーラスは血走った目で、書類を次々と巡っていく。


「……っ!」


 書類を一枚巡る度、ソーラスの顔からはどんどんの血の気が引いていく。

 そして、書類の半分も読んだ時には、顔は蒼白になっていた。


 そんなソーラスへと、私はあえて満面の笑みで問いかける。


「気に入ってくれたか? 調べあげるのに二年間も要しただけのことはあるだろう」


 その私の言葉に反応し、頭を上げたソーラスの顔に浮かんでいたのは、絶望だった。


「これなら、侯爵家も潰せるとは思わないかい?」


 ──私がソーラスに手渡した書類の束、それはソーラス含めた歴代侯爵家当主が起こしてきた犯罪行為の証拠がまとめられたものだった。

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