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第四十二話

 アルフォートがエレノーラを虐げた罰則として告げたのは、慰謝料だった。

 虐げたにもかかわらず、離縁さえ認められない。

 それからも分かる通り、アルフォートが罰則として告げたのは軽すぎるものだった。

 何せ、所詮は立場の低い女性に起こした問題。

 大事になることはありえないし、そもそもが公爵家が裁ける程度の問題でしかないのだ。


 公爵家は王家からもっとも信頼できる臣下の証明として、司法権の一部を授与されている。


 つまり、普通の貴族は自分の一件に関して貴族を訴えることしかできないのだが、公爵家だけは独断である程度、貴族の有罪か無罪を決め、その罪を裁くことができるのだ。

 だが、あくまで公爵家が与えられた司法権は一部でしかなく、大きな事件まで裁くことはできない。

 所詮、エレノーラを虐げたことに対する罪はその程度のものでしかないのだ。

 そして、普段の侯爵家であれば痛い出費であっても、問題なく払うことができただろう。


 ……だが、今だけは別だった。


「……こんなもの、払えるわけがないだろう!」


 そう告げる私の手に握られていたのは、私が暴れたことによる彫刻などの装飾品の弁償額が記された書類。

 その期限は数日の内に払わねばならないこととなっており……それは今の侯爵家では不可能だった。

 エレノーラのおかげで侯爵家はある程度裕福にはなった。

 が、それはある程度でしかない。


 高額な公爵家の装飾品を今すぐ、弁償できるようなものではない。

 その上、エレノーラに対して慰謝料を払うことになれば、侯爵家は少なくない借金をおうことになる。

 それは、貴族社会から拒絶されている今、致命的になりかねない負担だった。

 故に私は、次の瞬間恥も忘れて頭を下げ、アルフォートに頼み込んだ。


「ま、待ってくれ! 数週間でいい! 何とか工面することを誓う。だから!」


 どうしようもなく惨めな自分の状態に、屈辱を感じる。

 それでも今は、こうしてアルフォートに縋るしかなかった。

 今、カーシャの実家がエレノーラの行方を掴みかけている。

 あともう少し時間を稼げれば、エレノーラを侯爵家に戻す可能性。


 この最悪の状況を一変できる可能性がある。


「……これだけ譲歩してもまだ足りないと?」


 しかし、その私にたいするアルフォートの返答は冷ややかな視線だった。

 その反応に、期間の延長が不可能だと理解した私の顔から血の気が引いていく。

 アルフォートが、優しく口を開いたのはその時だった。


「だが、一つ了承するならばエレノーラの慰謝料どころか、弁償額さえなかったことにしてやろう」


 全てをなくす、その言葉に私は思わず反応していた。

 そんな上手い話があるわけない、そんなこと私だって分かっている。

 が、それで諦めをつけるには今の現状はあまりに追い詰められていた。


「──エレノーラ嬢との離縁を了承するならば、全ての金額を私が肩代わりしよう」


 ……呆然と顔を上げた私に笑いかけるアルフォートの顔、それは誘惑する悪魔のように美しいものだった。

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