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第三十九話

ソーラス視点となります

「どうやら、アルフォート様の得た情報は間違いだったようですね」


 私はアルフォートの掲げた時計を鼻で笑い、最後にそう断言する。

 嘲りが浮かんだ態度を隠そうともせずに。


 にもかかわらず、アルフォートは黙り込み何も言い返すことはなかった。


 沈黙が支配する客室の中、私は思わず笑いだしそうになる。

 エレノーラのことについて言及したということは、アルフォートもそれなりに調べていたに違いない。

 だが、どれだけ他の貴族から裏付けを取ろうが、そんなもの無意味だ。


 貴族令嬢は、実家にとっての道具でしかないのだから。

 侯爵家と実家である伯爵家が、エレノーラが全て悪いと言えば、それを覆すことは出来ない。



 ただ脇で見ていただけの人間の証言どころか、本人の訴えよりも実家や嫁ぎ先の家の言葉の方が信用があると決められているのだから。


 今の貴族社会での貴族令嬢という立場は、その程度のものでしかない。

 それは例えどんな身分の貴族であれ、覆すことはできない掟。

 だから、アルフォートのやっていることは無駄でしなかった。


 エレノーラの扱いを批判する貴族は、今までだって一定数存在する。

 だが、どの貴族も実家が認めていることを告げられれば、エレノーラの扱いを認めざるを得なかった。


 ──それは、あの辺境伯でさえ例外なく。


 だから私は、今回もアルフォートには何もできたい思い込んでいた。

 いくら天才と言われる公爵家だろうが、ただの密告では侯爵家を訴えることなどできないと。


 ……ただの密告ではない可能性など、まるで考えもせず。


 そんな私が違和感に気づき始めたのはその直後、沈黙していたはずのアルフォートが、笑いだした時だった。


「はは、あははは!」


「……なっ!」


 突然のことに、私は思わず声を上げる。

 だが、そんな私の反応を気にせずアルフォートは笑い続ける。


 さも、私のことがおかしくて堪らないと言いたげに。


「ふ、ふふ。し、失敬。まさか自信満々にこんな見苦しい言い訳を語られるとは思わなくてね」


 笑いすぎて息も絶え絶えに、そう告げるアルフォートの姿は、明らかに私を馬鹿にしていた。

 その態度に胸の中、苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 が、アルフォートの態度はあくまで虚勢だと、私は自分を落ち着かせる。


 私が余裕を保てていたのは、その時までだった。


「最初に密告と言ったのが適切でなかったな。今さらだが、訂正させて貰おう。──密告ではなく、自首や告白に値する行為だったと」


「……え?」


 私の胸の中、ある最悪の想像が浮かんだのはその時だった。

 その私の内心を見透かしたように片目を閉じ、アルフォートは片手を上げる。


 そう、まるで何かに合図するように。


 それに反応したのは、あるあの護衛だと思っていたフードを被った人間達のうちの二人だった。

 その二人は、アルフォートの合図に反応するよう前に踏み出し、顔を隠していたフードをまくりあげる。


「う、嘘だ……」


 露わとなった顔に自分が見ぼえのあることを認識た時、口から呆然とした声が口から漏れる。


 フードの下から出てきた青い顔を目にし、ようやく私は理解する。

 自分の頭に浮かんだ最悪の考えは、正解だったということを。


 フードの下から出てきた顔、それは。


 ──侯爵家を逃げ出したはずの私の元愛人達、アイーダとソイラだった。

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