第三話
ソーラスの顔を見た時、私の胸に浮かんだのはまたか、という思いだった。
侯爵家に来た時、私はあまりも愚かだった。
そしてその時、私は致命的なある大きな失態を犯した。
……ソーラスが起こした問題を解決するべく、手を出してしまったのだ。
今まで商会の主として働いてきた私にとって、その問題を解決するのは決して難しくはなかった。
だから私は、ただ侯爵家で認めてもらいたいがために、自分の能力を使った。
だが、それは決してやってはならないことだった。
それに私が気づいたのは、全てが終わった後。
──問題を解決した直後、ソーラスが自分を都合の良い駒として使い始めた時だった。
必死に動き、問題を解決したにもかかわらず、私の侯爵家内での立場が上がることはなかった。
それどころか、ソーラスが問題を起こす度に私は問題解決に使われるようになった。
侯爵家のために働くのが当然、とでも言いたげな態度で。
最初は私も、その扱いを良しとすることは無かった。
侯爵家の一員として認めはしないくせに、なぜ侯爵家に尽くさなければならないのか?
納得出来るわけが無かった。
……しかし、家族でさえ敵である孤立無援な私が抵抗し続けることなど出来るわけがなかった。
いつからだったのか、もうはっきりとは覚えていない。
私の中から、抵抗するための気力はなくなっていき、もう今となってはただ言われた通りに動くようになっていた。
「……なんの御用でしょうか?」
食べている途中だった食事をおき、いつも通りそう告げながら、私は自分を嘲る。
なぜ、マリーナが来るかもしれないなんて思えたのだろうか、と。
そんなことあり得るはずもないのに。
私にはこの場所で生きていく未来しかないのだから。
その考えに心が冷えていくのが分かる。
そのことから目をそらすため、私は感情を押し殺してソーラスを見つめる。
「公爵家の新当主、アルフォートにはめられた!」
「……え?」
……が、ソーラスが告げた言葉に押し込めていた感情が吹き出し、私の顔から血の気が引くことになった。