第三十三話
カーシャ視点です。
「とうとう見つけたぞエレノーラ!」
背後から、主の叫びが聞こえる。
喜び隠そうとしない、歓喜の叫びだ。
それを耳にした瞬間、私カーシャの頬は自然と緩んでいた。
まだ、こんな人目のある場所で笑う訳にはいかない。
そう私は必死に表情を整えながら、誰もいない自室の中に入り、扉を閉める。
今なら、メイド長である私が自室に入っても、ソーラスの命令を聞いて手紙を書こうとしているようにしか見えないだろう。
私の口から押し殺した笑いが漏れ出たのは、扉が閉まったその直後だった。
「うふ、ふふふ! 本当に馬鹿な人。──まだ、私の実家が侯爵家の味方をしているなんて嘘を信じてくれているなんて」
毛布を口に押し付けながら、私はくぐもった笑声を漏らす。
あの女がいなくなって、ようやく。
本当にようやく、私にもツキが巡ってきたと考えて。
「……エレノーラ、ようやくあの女の呪縛から私は自由になれる!」
そう呟いた私は、エレノーラが来てからの恐怖の日々を思い出す。
天国から一転、地獄のような恐怖に襲われることになった日々を。
エレノーラが来る前、私はあの愚かなソーラスの下で好き勝手動くことが出来た。
権限が強いが、貴族達から疎まれる侯爵家のせいにすれば、私が大抵のことをしても特に問題にはならなかったからだ。
主であるソーラス自身も問題を起こしていたこともあり、私や他の使用人達が問題を起こそうとも、問題を問われることは無かったのだ。
だが、侯爵家の悪名のせいでほかの貴族達に交易を断れる事態に陥った時は、さすがの私も焦った。
特に辺境伯との関係が立たれかねない状況になったのは大きな痛手で、私も不正はやりすぎたかもしれないと反省した。
あのままでは、侯爵家の力は大きく削がれることになっただろう。
そんな状況を覆した人間こそが、エレノーラだった。
あの絶望的な状況から、天才的とも言える商才を利用し、様々な貴族達に取り入って侯爵家との交易を再開させた。
それは尋常ならざる手腕あってのもので、侯爵家の問題を次々と解決していたエレノーラには、私だって感謝さえしていた。
……そう、エレノーラが侯爵家の不正に関する問題に手を出そうとするまでは。
更新遅れてしまい申し訳ありません……
予約を間違えておりました。次からはそんなことがないようにさせて頂きます。