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第三十一話

「……何故、こんなことに」


 辺境伯の会談から数日後。

 私は自室の中、呆然と椅子にもたれかかっていた。

 机にあるのは貴族達から送られてきた複数の手紙。

 それを眺める私の顔に浮かぶのは、紛れもない絶望だった。


 貴族達から一斉に交易を辞めたいという旨の手紙が送られてきたのに私は動揺しながらも、必死に貴族達に手紙を出し、頼み込んだ。

 このままでは、侯爵家は立ち行かなくなってしまうと。


 だが、どれだけ頼み込んでも侯爵家との交易を再開しようとする家は一つとして無かった。

 エレノーラがいない侯爵家との交易はどうしても無理、そんな旨の内容が貴族達から返ってきた手紙のほとんどに書かれていた。

 その手紙の山の前、呆然と座りながら私は口を動かす。


「……ふざけるな! これではまるで、侯爵家ではなくエレノーラがいたからこそ、交易が成り立っていたようではないか!」


 激しい憎悪と怒りが胸に沸き上がり、が目の前の手紙の山という現実に、すぐに消え去る。

 どうしようもない状況であることを理解しながらも私は、よろよろと力なく立ち上がる。

 どれだけ致命的な状況であれ、今の私に立ち止まることなど許されはしなかった。

 何とか少しでも状況を良くするために、私は動かざるをえない。


「そうだ、アイーダとソイラの実家なら……」


 今まで散々可愛がっていた愛人達の実家が私の頭に思い浮かぶ。

 たしかにアイーダとソイラの実家は高位の貴族ではない。

 しかし、一人でも味方が欲しい今、贅沢など言っていられない。


「今まであの二人の実家に支援してやったんだ。今回だって味方になってくれるに違いない」


 小さな希望を見出した私は、早速愛人二人に話を通そうと走り出す。


 ……けれど、どれだけ探してもアイーダとソイラの姿はどこにもなかった。


 嫌な想像が私の頭によぎる。


「……い、いやそんなことありえるわけがない。あれだけ可愛がっていた二人に限って……」


 呆然としながら私は必死にアイーダとソイラを探す。

 が、屋敷で愛人達の姿が見つかることはなかった。


 その時になって、ようやく私は理解する。

 もう私の愛人達は自分の屋敷にはいないことを。


 ──彼女達は、私を見捨てて逃げ出したことを。


 屋敷の中、憎悪と怒りに満ちた叫びが響いた……。

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