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第二十八話

エレノーラ視点です。

「……ここは?」


 私が目を覚ました時、目の前に広がっていたのは見覚えのない部屋だった。

 長年過ごしていた伯爵家にあるぼろぼろの自室でもなく、二年間過ごした侯爵家の部屋でもない。

 それに疑問を覚えた私は、今までのことを思い出そうとして……違和感に気づいたのはその時だった。


「……頭が、重い」


 なぜか分からないが、どうしようもなく頭が重かった。

 別に痛い訳ではない。

 だが、まるで頭が働かず、思考がまとまらない。

 考えるそばから霧散していってしまうのだ。

 そんな自分の状態に混乱しながらも、私は今までのことを思い出そうとして。


 聞き覚えのある声が響いたのはその時だった。


「エレノーラ様! お目覚めに!」


「……っ!」


 それは今までずっと聞きたいと切望していたはずの言葉で、それを聞いた私の頭の中マリーナと逃げ出した時の記憶が蘇る。

 その瞬間、私は衝動的に身体を起こそうとする。


 ……だが、身体まで言うことを聞かなかった。


 決してどこかが悪いわけではない。

 なのにどうしようもなく身体が怠くて、私はすぐに身体を起こせない。


「エレノーラ様、ご無理をなさらないでください」


 いつの間にか近くにやって来ていたマリーナが、そんな私を抱きしめたのは次の瞬間のことだった。

 一瞬私は身体を強張らせるが、胸から溢れ出した安堵の心が、身体から力を抜いていく。

 そんな私を優しく抱きしめ、マリーナは優しく告げる。


「ここでは、誰一人としてエレノーラ様を虐げるものなどいません! もう、何も心配することなどないのですよ」


「……っ!」


 ──私が、侯爵家から逃げられたことを確信したのは、その時だった。


 ここがどこのなのか、そして今自分の身に何が起きているのかもわからない。

 だが、マリーナのその言葉だけで私には十分理解することが出来た。

 もう私は、あの場所で恐れて暮らす必要はない。

 あの場所から開放されたのだと。


 いつの間にか、私の目には安堵の涙が滲んでいた……。

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