第二十二話
「ま、待ってくれ! いや、待ってください!」
辺境伯の言葉に、私は咄嗟に縋りつく。
それどころか、その場に深々と頭を下げ、懇願する。
「先程の無礼は謝罪します! だから、それだけは!」
最悪公爵家とエレノーラ抜きでやり合わなければならない現状、今ここで辺境伯との繋がりが切れるのは絶対に避けたい。
故に私は、プライドを投げ捨て謝罪する。
だが、そんな私をみると辺境伯の目に浮かぶのは、どうしようもない呆れだった。
「……もうこれはそんな話ではない」
話の流れが分からず呆然とする私に、辺境伯は冷ややかに言い放つ。
「二年前の不正さえ解決していないのに、侯爵家との交易を続ける気など私にはない」
「……え?」
二年前の不正、辺境伯が告げたその言葉に私は自分の耳を疑う。
たしかに二年前、辺境伯は交易に不正があると交易を打ち切ろうとしたが、その問題はもう既に解決したはずだった。
そう、他ならぬエレノーラの手によって。
それを知るからこそ、私はただ純粋に疑問を口にする。
「その不正の問題は、辺境伯の勘違いで終わったものでは……?」
「──は?」
「ひっ!?」
辺境伯の纏う雰囲気が激変したのは、その時だった。
今までは冷ややかであれども、敵意はなかった辺境伯の目に、私に対する怒気が宿る。
「ああ、なるほど。どうりで不正が解決しないわけだ」
私に怒気を向けたまま、辺境伯は言葉を続ける。
「不正が解決した? 何があればそんな風には思い込めるのですか?」
怒りを隠そうともせず、淡々と言葉を重ねてくる辺境伯に私はただ震えることしか出来ない。
しかしその時になっても、私はどうして怒りを向けられるのか、状況を理解出来ずにいた。
私はカーシャから、辺境伯の不正の件はタダの勘違いだと聞いて……隣にいるカーシャの様子がおかしいことに私が気づいたのは、その時だった。
「か、カーシャ?」
顔から血の気の引いたカーシャは、がたがたと震えていた。
その様子は尋常ではない。
そんなカーシャを気にすることなく、辺境伯の言葉は続く。
「不正が勘違いだった? いつ私がそんなことを言ったのか。私はただ、不正解決までの時間を伸ばしただけに過ぎない。──辺境の問題を解決して下さったエレノーラ様に免じて」
「なっ!」
次の瞬間、辺境伯の口から告げられたのは衝撃的な言葉だった。




