第十四話
「ソーラス……!」
あの屑男が目の前にいれば、私は確実にその首をねじ切っていただ程の怒りを覚えていた。
もし出来ることなら、今すぐこの屋敷にいるソーラスを、使用人ごと殺してやりたい。
だが、今自分がやるべきことは、お嬢様を連れ出すことだった。
「……ふぅ」
激情を何とか落ち着かせた私は、強度を確認した後に、扉の取手にロープを結びつける。
こうすれば、安全に降りられるだろうし、もしばれても部屋があくまでの時間を稼ぐことが出来る。
そして私は、逃げ出すためにお嬢様の身体を担ぎ。
「……っ!」
……信じられないほどお嬢様の身体が軽いことに気づいたのは、その時だった。
こんな環境で長い間お嬢様を一人にしてしまったことに、強い後悔を抱く。
その考えを、私はすぐに振り払う。
「いえ、今は早くお嬢様を安心出来ることに連れていかないと……」
後悔なら、後でいくらでも出来る。
今すべきことは、お嬢様の身を守ることなのだ。
ただ、私はソーラスの部屋あたりを睨みつけ、口を開いた。
「……覚えておきなさい。そう遠くない未来、貴様に相応の罰を与えてやる」
二年間もお嬢様の側を離れてしまったこと、それは後悔するしかないことである。
だが、その期間のおかげで私と協力者は十分な準備を整えることが出来た。
もう侯爵家が逃げることなんて出来はしない。
それは、ソーラスも使用人達も同じく絶対に。
その言葉を残し、窓からロープを使って部屋から出た私は、屋敷を睨みつけながら小さく呟いた。
「さて、あとは協力者に任せることになってしまうのが口惜しいですが、仕方ありませんね」
侯爵家を潰すのは、協力者に任せた方がいいと知るからこそ、私は私怨のために自分が手を出すつもりはなかった。
それに、お嬢様に侯爵家がしたことを知れば、彼が侯爵家を徹底的に潰すのは分かり切っている。
故に私は、自分の心にある黒い感情を押し込め、代わりにここにはいない協力者に向けて小さく呟く。
「その代わり、きちんと侯爵家を潰して、二年間も待たせたお嬢様を幸せにしてくださいよ。──公爵家新当主様」
その言葉を最後に、お嬢様を抱えた私はその場から走り去った……。
ここでマリーナ視点が終了し、次回からソーラス視点になります。
おまたせしてしまいましたが、次回からざまぁも開始予定です!