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第十二話

ここから少しの間、マリーナ視点となります。

 泣き疲れてしまったのか、それとも今までの疲れが出たのか、お嬢様は私の胸の中穏やかな顔で寝息を立てていた。

 そんなお嬢様の頭を優しく撫でながら、私は口元を緩める。


「ふふ。こうしていると子供みたい」


 本来であれば、主の頭をこうして撫でるのはやるべきではないだろう。

 お嬢様はこういったことをされるのは照れるたろうし、不敬と取られる行為だ。

 それでも私は、お嬢様の頭を撫で続ける。

 今だけは、お嬢様を少しでも癒したかった。


 ─マリーナ、私は一人で大丈夫よ。


 二年前、私にお嬢様が告げた言葉は今もなお、頭に焼き付いている。

 当主が冷遇しているのをいいことに、私たちを嘲り、挙句の果てには虐げえきた使用人達。

 その矛先から私を守るに、お嬢様は私を逃がそうとしてくれた。


 結果、ここまで消耗した状態になりながらも。


「もう少し、早くお嬢様の元にこれれば……」


 疲れ果てていた先程までのお嬢様の様子を思い出しながら、私は後悔が滲んだ声を漏らす。

 もう少し早く準備を終わらせてくれれば、と八つ当たりじみた怒りを、私は協力者に覚える。


 だが、本当に悪いのは自分であることは分かっていた。


 あの時私は、お嬢様をこの状況から解放するために侯爵家から離れた。

 お嬢様を解放するには、侯爵家だけではなく伯爵家にも対処が必要だったからだ。


 ただ、今になって私はその判断が誤っていたのではないかと思う。

 こんなにもお嬢様がぼろぼろにならないよう、そばにいるべきだったんじゃないかと。


 ……そう思ってしまうほどに、先程までのお嬢様はぼろぼろの状態だった。


「まさか、離縁できる手段があるという言葉を信じてしまうなんて」


 先程までのお嬢様の態度を思い出し、私は小さく呟く。

 今のお嬢様に、以前の強気で聡明な姿は残っていない。

 その変化に思わず動揺した私は、かなり説明を省き離縁できると告げてしまったのだが、お嬢様はその私の言葉を疑うことさえなかった。

 その疑問に、私は一瞬気を奪われるが、今はそれどころではないとすぐに頭から振り払った。


「とにかく今は、お嬢様を連れて逃げ出さないと」


 何せ、今から私はお嬢様を抱えて侯爵家から逃げ出さなければならないのだ。

 見張りもおらず、大きな窓がある現状、私一人であれば容易に脱出できる。

 しかし今は、お嬢様を抱えている状態だ。

 いくら私が鍛えていても油断はできない。

 そう判断した私は、周囲を素早く確認して立ち上がろうとする。


「……っ!」


 ──私が、それにようやく気づいたのはその時だった。

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