第十一話
「……え?」
最初、私はマリーナの言葉が何をさしているのか分からなかった。
この状況をどうにかする方法を、私が思いつけなかったから。
そんな私へと、マリーナは優しく微笑み口を開いた。
「この二年間、お一人にしてしまったことは本当に申し訳ありません。ですが、その二年間で私達はお嬢様を離縁させるための手筈を整えることが出来ました」
「……っ!」
マリーナの言葉に、私は動揺を隠すことが出来ない。
私も何とか離縁できないか動いてきたからこそ、その困難さを知っている。
だから、マリーナの言葉が信じられない。
「商会の伝手で協力してくれた方のおかげで、この縁談が不当なものであることを証明することが出来たんです! お嬢様がここから逃げても、責められる人間なんていません!」
だが、私にそう告げるマリーナは真剣そのものだった。
その表情に、私は悟る。
マリーナは本気で私を逃がそうとしてくれていることを。
私は、マリーナへと口を開く。
「……本当に、私は離縁できるの?」
「はい。そのために準備を整えてきました」
「……離縁するために商会が被害にあったりはしていない」
「はい。それどころか、離縁するに動いたことで潰れるのを回避出来ました」
大きく頷き、断言するマリーナ。
彼女の言葉が本当だと理解した上で、次の質問を口にした。
「──私は、本当にここから逃げられるの?」
それは、あまりにも情けなく震えた声だった。
期待と不安、そして恐怖が滲んだその声に、マリーナが顔を歪めるのが見える。
次の瞬間、私はまたマリーナによって抱きしめられたていた。
「……エレノーラ様、遅くなってしまって本当に申し訳ありませんでした。ですが、もう大丈夫です。──エレノーラ様は、自由です」
「──っ!」
私の胸から、今までなんて比にならない感情が湧き上がってきたのはその時だった。
大粒の涙と嗚咽を漏らしながら、私はようやく理解する。
ようやく、この孤独な日々から自分は抜け出せるのだと。
マリーナに抱きつきながら泣くことで、今までの苦しみが流れ出ていくような感覚を抱く。
気づけば、強い安堵を最後の記憶に私の意識は薄れて行った……。
次回から、少しマリーナ視点となります。




