プロローグ
「エレノーラ・マーレイト。私は君のような出しゃばりで強欲な女を妻と認めはしない」
夫である侯爵家当主、ソーラス・ソーマライズから告げられたのは二年前。
伯爵令嬢である私が、侯爵家に嫁ぎ屋敷に足を踏み入れたその瞬間だった。
……その言葉は、ようやく自分を認めてくれるかもしれない、なんて希望を持っていた私に強い衝撃を与えた。
私だって、好きでこうなった訳ではなかった。
本来であれば私も、妹と同じようにドレスを身にまとい貴族令嬢として過ごしたかった。
だが、財政難に陥っていた伯爵家を立て直す為には、貴族として領民から税金を搾り取ることしか考えない両親にとって代わり、お金を稼ぐしか無かっただけなのだ。
結果、私は他の貴族達に疎まれるようになった。
女の身でありながら、商人として働くはしたない女。
または、でしゃばりで強欲な、女としての立場を分かっていない愚者。
それが貴族社会の中、私を示す言葉。
私が助けたはずの家族だって、そう私を呼ぶ。
だから私は、この婚姻に希望を抱いていた。
相手は問題をよく起こすと聞く侯爵家の次期当主。
妹を溺愛する両親が、厄介払いするために多額の持参金を積んで私を嫁がせたことなんて分かっている。
それを知りながらも、私は環境が変われば自分を見てくれる人が現れるのではないかと期待を抱いてしまった。
私の夫となるはずのソーラスの言葉は、そんな私の淡い期待を粉々に打ち砕いた。
「それに、私には愛する人がいる。だから私には近づかないでくれ。いいな?」
それだけ言って私の前から立ち去ったソーラス。
二年前の私はそれを呆然と見送ることしか出来なかった。
その時に出ていく決断をする勇気さえ、私にはなかった。
……なのに、私は最後まで心に希望を抱いていた。
今回の縁談は、財政難となった侯爵家に伯爵家から多額の持参金を持ち込んだことで強引に成り立った縁談だ。
ソーラスの私へのイメージが悪くても、仕方ないことなのだと。
私が、侯爵家の役に立つと分かれば、彼だって私を認めてくれると。
そんなこと、ありえるわけが無かったのに……。
6月30日Mノベルスから発売する拙作「パーティーから追放されたその治癒師、実は最強につき」の宣伝もかね、他サイトからの転載という形で新作を始めさせて頂きます。
ファンタジーではありますが、かなり恋愛要素も強い作品なので興味があれば是非!
本作に関しては、短めの代わりに一日二話を当分の間投稿させて頂く予定ですが、書き溜めが尽きた場合は1日一話になると思います。
申し訳ありません。