2000年間の旅
*1
精霊はこの世界の頂点に立つ、聖体である。
我々こそが、神に一番近い存在なのである。
人類はその事実を受け入れ、抵抗せず我らに従わなければならない。
精霊は、再びこの世界を導く存在として、17年前に長い眠りから目覚めた。
世界平和への道標となる我々を自らの兵器として悪用していた人類を、我々は永遠に赦しはしないだろう。
23年間の人類による支配への報復の刻は来た。
この殺戮を以って我々精霊、そして世界の永続的な平和は盤石なものとなる。
すべての精霊を代表して、私は断固たる意志をもって人類に立ち向かうことを誓う。
精霊誓文 序文(著者不明)
*2
周りの景色すべてが、真っ赤に染まっていた。
何もかもを喪失した俺は、それを呆然と見ていた。
なにもせず───いや、"それ"を何もすることができない俺を叱るように、四方八方から声が聞こえた。
助けを乞う声。
世界の終わりに絶望する声。
この世を終焉へと導いた神に怒りをあげる声。
ここは、誰もが狂ったように声をあげ、ただ叶わぬ願いを叫び続ける渾渾沌沌の異境と化した。
名前を失ったこの町に、かつて世界一の電波塔といわれていた残骸が倒れ落ちていく。
走馬灯のように、かつての戦いを思い出す。
"───人類の存続なんざ興味はない。あいつが生きていないことだけが、俺が動く理由に値するんだ。"
いつものような言い訳を繰り返し、俺はまた────
「だからって、傷つくことがいいことだとは、僕は思わないよ」
もう誰かも分からなくなってしまった人が、手を差し伸べてくる。
俺は、その手を取ったのだろうか。