旅立ちに鐘を・始まりに詩を
――――そこは水の都。
レンガ造りの趣ある街並み、張り巡らせれた水路は景観と相まって一際美しく。
水路を往く小舟、レンガ造りの橋をはしゃぎながら渡る子供。
空に淀みなく、日差しは穏やかで、吹く風は優しい。
今日も今日とて平和を享受し、喧騒に賑わう街中で――――。
「――――唄いましょう。異人の英雄譚を…………」
――――ポロロン♪
弦を弾くは、質素な服装の優男――――――――もとい、吟遊詩人。
歌い上げるは異世界より渡ってくる勇者の物語。
勇者の名は――――――――“トランジェスター”。
――――――
――――
――
――――それは今より約二十年も前。
剣があり、魔法があり、神が住まう美しき神秘と幻想の世界“アニスフェアード”。
銃があり、鉄の騎馬があり、人が力で支配する科学と発展の世界“チキュウ”。
この認識する事はおろか、すれ違う事すらなかった二つの世界。
それが何故か、ある日突然――――繋がった。
その結果が今であり、“トランジェスター”と呼ばれる“職業”を生んだ。
繋がった――――と言っても、自由に行き来する事は不可能。
しかも、困ったことに、だが…………。どこが|、どうやって繋がっているのか?
一番重要で、決して逃してはならない、解明しておかねばならぬ基点…………。
世界が交差してより約二十年経過しても、神秘でも科学でも解き明かせていない大いなる謎。
謎が謎を呼ぶ謎――――なのであるが、それはそれとして。
二十年経って進歩したのは主に“チキュウ”側。
彼らは高度な科学技術によって、人間の意識…………“精神”だけを“アニスフェアード”に転移させる術を開発し、発展と改良を重ねてきた。
――――と言っても、この“転移”はアニスフェアードからの“召喚”に応じねば発動しないという致命的な欠陥があったりする。
一方的な干渉は出来ず、双方向の利害が一致しなければ“チキュウ”側は幻想の世界へ踏み込めない。
そもそも、そもそもである。
“精神”だけを飛ばす“技術”、と言ったのがそもそもの間違い。
最初に世界が繋がった時、運悪く。
そう…………実に運悪く。チキュウのとある島国のとある地方都市の住民、約六千が。
アニスフェアードへ不慮の“転移”をしてしまい――――――――分解された。
一人残らず…………一人残らず、である。――――死んだわけじゃない。肉体を喪って精神になっただけ。
――――最も、結局誰一人として“チキュウ”へは帰れず、消息不明。
この事件を気に、小規模ながら次々と同じ事件が発生。
そうして、行方不明者が百万に差し掛かった頃、チキュウはアニスフェアードの観測に成功し…………。
――――おっと…………長々と喋りすぎたかな?
要するに、押さえておくべき点は一つだけ。
“チキュウ”の人間は“アニスフェアード”では肉体を維持出来ないと言うこと。
では、技術の発展によって生み出された“トランジェスター”が、何故、任意で精神のみを飛ばすことが可能なのか?
どうして、彼らは維持できないハズの肉体を作り出せるのか?
それは――――――――冒険者諸君の実体験で語ったほうが良いだろう。
それでは、序章も序章、これにて一先ず閉幕…………。
違法トランジェスターと冒険者の物語は…………また、次回にて唄おう。