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新希望ヶ丘青春高等学校物語  作者: 大橋 むつお
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7・神さまのお願い

新希望ヶ丘青春高等学校物語・


7『神さまのお願い』    



 気が付くと、乙女先生は境内の真ん中に立っていた。


「あれ……」

 雰囲気がまるで違う。

「これって……別の神社?」

 二の鳥居まで戻ってみると、来たときと同じ五メートルほどの階段。駆け下りて、一の鳥居で、振り返る。

「やっぱし、ここや……」

 石畳の道が「く」の字に曲がって、五メーターほどの石段が続き、二の鳥居。それをくぐると……そこからが違う。ちょっとした野球場ほどの広さの境内は、幼稚園の園庭ほどの広さしかない。拝殿も社務所も、うらさびれている。ただ、境内を取り囲む桜だけは見事に満開であった。

 境内の端に気配を感じた。見ると小さなほこら 

 近寄ると、小さな剥げっちょろげた扁額。かすかに木花開耶小姫と読めた。


――ちょっと見栄を張りました。お願いしたこと、よろしゅうに……。


 伊邪那美の声が、頭の中で鈴を振ったように響いた。

 お願い……そうだ、約束したんだ。ダンプカー三台分の桜の花びらに埋もれながら、

 でも、思い出せない……なんだっけ……。


――思いださんでも、ええんです。心の奥にちゃんと刻ましてもらいましたよってに。


「そういうわけにはいきません。だって、約束したんやから」


 木花開耶小姫をもとにもどす。これはダンプ三台分の桜に埋もれる前に聞いた。でも、桜に埋もれながら約束したことが思い出せない……どころか、二柱の神さまの顔もおぼろになってきた。必死で思い出そうとすると、どんどん遠くなっていく。まるで、目覚めたときに、それまでみていた夢が、どんどんおぼろになって消えていくように……。


「わ!」


 思い出しながら一の鳥居をくぐると、突然目の前をタクシーが走り抜けた。それに驚いて、乙女先生の記憶は完全に消えてしまった。

 といっても、記憶喪失になったわけではない。ここでイザナミとコノハナノサクヤコヒメに会った記憶が消えてしまったのである。

 もどかしい思いで鳥居を振り返ると、後ろから声を掛けられた。


「やあ、佐藤先生!」


 走り抜けたタクシーが、電信柱一本ほど前で止まっており、後部座席の窓から、校長の笑顔が覗いていた。



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