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新希望ヶ丘青春高等学校物語  作者: 大橋 むつお
43/53

43:美玲の連休

新希望ヶ丘青春高等学校物語・43

 『美玲の連休』       



「そんな立派なのいいです」


 美玲は遠慮のしっぱなしであった。この連休は美玲の部屋の調度を整えるのに、亭主の正一も乙女さんも、熱中のしっぱなしである。


 初日にベッド、机、本箱を買った。いずれも贅沢なものではなかったが、気品と堅牢さを兼ね備えた国産の木製のものが選ばれた。本箱などは、親の経験が前面に出て、二段スライド式で、文庫なども含めると五百冊は入るだろうというものが二つ用意された。

「これに全部入るだけの本読んでたら、わたしお婆ちゃんにになってしまう……!」

 思わず、成り立ての親は笑ってしまった。

「ミレは今まで、図書館の本で済ましてたやろ」

「はい、自分の本置いとくスペースもなかったから、机の上の教科書以外は図書館でした」

「月に何冊くらい借りてた?」

「そんなに……八冊くらいです」

「ハハハ、それに12掛けてみい」

「96冊です」

「で、十年で、ほとんど千冊になる」

「そんなん、図書館で借りますよってに」

「本はな、年齢と共に倍に増えていく。ウチの経験でも旦那の経験でも。むろん図書館で借りるいう姿勢は、ええこっちゃ。そやけど、中には自分のもんにして何回も読まなあかん本もギョウサンあるからな。うちらは、若い頃、お金と場所の問題で、自分のもんにせんと済ました本がギョウサンある。あんたには読んでもらいたい。あんた……そこで何してんのん?」

「本箱に合うカーテン探してんねん!」

 教師の地声は大きい。少し恥ずかしくなった美玲であった。


 で、三日目の今日は、仕上げの電化製品である。


 とりあえず美玲専用のテレビとパソコンを買った。思春期に入った美玲のために、将来を見据えて、独立した空間を提供してやることで、このにわか父母は懸命であった。そして三日前には、ただの空き部屋でしかなかった七畳半ほどの空間に揃い始めた家具たちは、あきらかに、にわか父母の期待と愛情をあらわしていた。


「せや、スマホ買うたげなあかんわ!」


 量販店の出口で、乙女さんが叫んだ。半径十メートルの人たちが振り返るような声で、美玲は嬉しいよりも恥ずかしく、恥ずかしい以上にびっくりした。

「アホやな、それが一番最初やろが!」

 亭主も負けない大きな声で答えた。

「携帯は、高校になってからでええて……」

「美子さんが言うてたんやな」

「は……はい」

「その判断は間違うてない。そやけどミレちゃんは大阪に来たばっかりや。うちら……お母さんも、お父さんも仕事で手えいっぱいや。万一の連絡手段のために持っとき。な……」

「は、はい……」

 美玲はハンカチを出して、涙を拭った。

「あほやな、こんなことで泣かれたら、うちまで……お嫁にやるとき泣きようがないやないの」


「続きは家でやってくれるか!」

 これも、必要以上に大きな地声で亭主が叫んだ……。


 美玲が、風呂上がり、リビングにも来ないで、狭い庭に行った。長風呂だったので湯当たりでもしたのかと思っていたが、いささか長いので、乙女さんはそっと覗いてみた。

 美玲は、何かを手に持ったまま、背中を向けて立っていた。


「ミレちゃん」


 美玲はギクっとして、手にしていたものを背中に隠して、こちらを向いた。

「ご、ごめんなさい。なんでもないんです!」

 そう言うと、美玲は、そのまま自分の部屋に閉じこもってしまった。庭の片隅には小さな穴とスコップが残されていた。

「ミレちゃん、どないしたん……?」

 乙女さんは、静かにドアの外で聞いてみた。

「すみません。今夜は一人にしてください……ごめんなさい……お母さん」

 もう一言言おうとした乙女さんの肩に亭主の手が置かれた。

「明日の転入試験は、オレが付いていくわ……」

 亭主の語尾には、それまで、そっとしてやってくれという意思が籠められていた。

 もう二十年近い夫婦である。明日は任せてみようと、乙女さんは思った……。

 



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