ま、魔人?
「あー。もう最悪。なんで、あの時貴方はソファーのクッションを投げてきたの?」
「なんとなく」
「おかげで、植物の植木鉢が割れたし。悠芽は良いね。カレー食べてて。私も食べたい!」
二人は割れたガラスなどを集めながら、僕に怒られないようにするためかこそこそおしゃべりをしていた。地獄耳の僕には丸聞こえなので意味がないが。
「植木鉢、買いに行く?それとも植物ごと捨てる?」
「捨てるか」
「捨てんな。買いに行ってこい」
「買い物、行かなくって良いよー。なぜなら、この私がいるからっ!」
誰だろう。僕の、危険感知センサーが激しくなっている。
「あ!ジャファミン!久しぶり!貴方がいるならこの写真立てと植木鉢のガラス、元通りになるね。あと、このクッションの羽も」
「うえぇ。次郎のやつ、こんなものとも友達だったのか?」
電気神はあからさまに嫌そうな顔をする。
「おい。貴様、誰だ?初めて会った魔人の私に対して失礼ではないか」
ジャファミンと呼ばれている女性はヤンキーがガンつけるような顔で電気神を見る。
「魔人風情がこの我をバカにするとは良い度胸だな」
「『魔人風情』?何お前。本気でうざいんですけど。殺しちゃっても良いですか?」
人の家で、神様殺さないで下さい、と悠芽は言いたいがカレーを食べ続けたいのでスルーする。神様だし、死なないもんね。
「我が名は電気神。魔人ごときに殺されんわ」
「は?電気神?本物…じゃなわね」
「おい、電気神。ブレスレットを外すなよ。音楽が今良いところなんだ」
と、ブレスレットを外そうとした電気神に、蒼莉がラジオをどこからともなく出して、抗議する。
単に、電気神にブレスレットを取らせないようにするためだけに。
あいつ面白いところあるじゃんかよ。
その意図を汲み取ったのか、電気神は仕方ないという感じで外すのを諦めた。
「まあ、いいか。じゃあ、ジャファミンとやら。さっさと、これらを元通りにしろ」
「何でこいつ、上から目線なの?いちいちさー」
ジャミファンはキレ気味にそう言うが、ポンッと綺麗に元通りになった。呪文とか陣とかなしで…。
「何であんな事になったのか聞こうか」
僕はどかっとソファーに座り、目の前で正座をしている蒼莉と電気神に聞いた。
「いやー、こいつが悪いんですよ。最初にクッションを投げてきたから」
「は!?電気神が最初でしょ!?何勝手に、話を変えてんの?」
電気神の発言に蒼莉が否定するが、当の本人はどこ吹く風だ。
「おい。電気神。何嘘ついてんだよ。さっき、お前は自分で割ったって言ってたよな?」
「え!あれ、聞こえてたの?人間じゃあまり聞こえないぐらいの大きさなんだけど…」
「なんだよ、その目。僕の耳は地獄耳なんだ。何でも聞こえる」
「象の低い音も?」
「馬鹿なの?それは人間には聞こえないよ」
蒼莉の質問にすかさず電気神がつっこむ。
「あんたに馬鹿って言われたくないね」
「ん?お前ら、それ以上ものを壊そうとするなら……。出てけえぇぇ!」
「「ごめんなさい。すみません。なので、その拳を落とそうとしないで下さい」」
彼らの願いは叶わず、悠芽の拳が二人の頭の上に落ちる。
「「ぎゃあぁーー!!」」
「で、ジャファミン…さん?何で、この家に来たんですか?おじいちゃんなら他界しましたよ」
「う、うん。知っている。私は家から追い出されてな。少しの間だけ、この家で暮らして良いか?」
その光景を目の当たりにした、ジャファミンは少し引き気味になって応える。
「無理です。っていうかやめてください。断固拒否します。この二人の世話で手がいっぱいだから」
「あ、それは大丈夫。私が世話するし、ベットとか食事は要らないよ。どう?」
『どう?』なんて言われても…。押し売りじゃあるまいに…。
「うーん。でもやっぱ、帰って下さい」
「貴様は、今すぐにこの私をここに住ませないと一週間呪われるだろう」
異世界の人って、理不尽なのか?それとも、たんなる身勝手なのか…?僕はこの時、強くそう思った。