思い出ー蒼莉
「おーい!蒼莉様!どこにいらっしゃるのですかー!!??」
黒色の昔ながらの日本屋敷家で、そんな声が響いた。
「あーあ。私が休もうとすると、いちいち文句を言って…。ただの召使いがっ」
貞子 蒼莉は、小さく「人間界テレポート、ランダム」と呟き、ぐをぉんと音を立て足元に穴ができ彼女はそのまま落ちていった。
ーーー
ーー
ー
「ったたた…。痛い…」
目を開くと、そこは畳の上だった。
「あらまあ。珍しいお客様だ」
彼女は首を回すと、そこには和服を着た中年の女の人がポカンと立って居た。
「誰?」
蒼莉は、警戒気味に聞く。
「私の名前は、林奈帆子。貴女は…。貞子 蒼莉さんね?」
なぜか、名前が知れている。名前がバレたのなら仕方がないので「はい」と答える。本来なら、嘘をついても良いのだがこの女…奈帆子の前では、蒼莉の本能が、嘘をついてはいけないと思った。
「ふふふ。驚いた?私は、天使の末裔…とでも言っておこうかな」
「『天使の末裔』…?違うんじゃないか…?奈帆子は、天使なんじゃないか?」
「いきなり呼び捨てとは驚いた…。今まで、数多くの妖怪を見たけど、『天使の末裔』と言っただけで敬語になったのに。蒼莉は度胸があるのね」
「話題をそらすな。さっきの質問に答えろ」
「嘘はつけないわね。仕方がないわ。そうよ。私は、光神様に仕えている者それと…」
「奈帆子。お前、やっぱり天使だったのか」
男の声が聞こえてきた。
よく見ると、ここは茶の間のようだ。襖を開けて、つったている男性が言った。
「ええ、そうよ、次郎ちゃん。光神様は、電気神さまといつも一緒にいらっしゃるから、暇で人間になりすましてただけ。どう?ひどい女と思った?もし、嫌ならもう貴方とは二度と会わないわ。私としては、悲しいけど。次郎ちゃんがそれで良いなら、私は出て行く」
奈帆子のセリフは無視して、次郎ちゃんはキラキラの目でこんな事を言った。
「天使っ!天使か〜。すごいな。お前と結婚できて幸せだ。ありがとな。
…それで?なんで貞子家の人がここに居るんだ?
お前の年齢ぐらいだと、まだ家にいないといけないんじゃないか?」
こちらの目をじっと静かに見た。その彼の目は、どこかで見たような気がした。
なぜ知っているのか?という愚問は、聞かない。
だって、そこに天使がいるから。きっと、この‘次郎ちゃん’は『見える』人で、色々妖怪についての情報を奈帆子(天使)から聞いていたのだろう。
「私はもう…、あの家に居たくない。嫌なんだ!
だから、私は家出をしようと思って、貞子界から出て来た。数日間、ここに泊めてください」
蒼莉は、とても綺麗な土下座をした。
次郎ちゃんと奈帆子はお互い目を合わせ、「ふう」と溜め息をついたのは、天使の奈帆子だった。
「顔を上げて。貴女は、とても恵まれた人だと思うわ。なぜなら、家があるし親がいるから。愛もあるわ。もし、なかったら…」
このセリフの途中から、蒼莉の意識は飛んで行った。
ここは…、どこだろう。
寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しいーー!!!
悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しい悲しいーー!!!
家に帰りたい…、帰りたい帰りたい帰りたいーーー!!!
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくーー!!!
「ん…。な。ほわあっーー。はあぁ…」
とよく分からない事を呟いた。
目が覚めると、家になぜか居た。
まあ、もう少し家にいてみるか…。なぜだか、そんな気持ちになってしまった。
きっとあの天使の能力だろう。
「居たっ!蒼莉さまーーー!!稽古の続きをやりますよ!さあ、早く行くきてください!」
「えー。めんどくさーー。んでも、私はこれから強くならないといけないかもね」
「なぜですか?これ以上強くなって、倒せるのは…ジャファミンさんぐらいかなぁ?」
「あー。ジャファミンね。あれは、別件ね。例外!アレ倒せたら、バケモンだと思われるわー。それは困るし、倒しても得じゃない」
「そんじゃあ、誰を倒したいんですか?」
ミシミシっと、廊下の板が悲鳴をあげた。
「倒したいわけじゃないよ。ただちょーっと、仕返しをしたいだけ」
蒼莉は、目を細めた。
「そ、その人可哀想ですね。何されたんですか?」
「人じゃないよ?天使…いや、それ以上の天人だよー」
召使は、目を点にして口をあんぐりした。
「ハハハ〜。愉快愉快!」
「いや、何が愉快なんですか!一体外でなにして来たんですか!」
召使の悲鳴と蒼莉の笑い声が、日本屋敷中に響いたそうな。