第四話 まだただのラブコメ。
あれだけ言ったのに遅れるこの始末。
うごごごご・・・・・
「んーとね、実は歴祭にしようかなって」
ピキ。
その一言で努の先ほどまでの考えが頭の中から宇宙の彼方へ
時速一万光年の速度で弾け飛んでいくのを感じていた。
どんぐらい速いのか見当も付かないが。
とにかくそんなよくわからない例えを使うほどに
努の思考はこの一言で停止寸前にまで追い込まれていた。
以前にも説明した通り、歴祭学院は日本国内でも
一か二を争うほどの有名校である。
なるほど、絢香の頭脳なら歴祭でも問題なくやっていけるだろう。
もしかしたら学年トップなんかも取れたりするんじゃないか?
そうしたら幼馴染としても鼻が高いよ…
ってちがう!
そうじゃないだろ!
え、なに歴祭!?
無理無理無理だよ!?
無理!絶対無理!
いや冗談じゃなく真面目に。
そこまで偏差値も高くない、まぁ家から近いからって理由
(絢香がそこにするっていったからなんだけどね)
だけで選んだ今の学力値が中の下の学校ですら下から数えたほうが早いというのに!
他ならまだしもよりにもよって歴祭ときた!
作者の頭基準でできてる頭脳では
歴祭に入学するということは
素人が上空5000Mからスカイダイビングしながらアクロバット成功させて
無傷で五点着地決めるくらい無謀なことだ。
いや、どんな例えだよ。
思わず自分に突っ込んでしまうほどに努は混乱していた。
ここまで同じ学校だったのにここで離れてしまうのか……。
「どうしたの?」
その声で意識が現実に引き戻された。
隣をみると心配そうに絢がまた顔を覗き込んでいた。
あぁ今日もかわいいなぁ……。
ほとんど停止した思考でそんなことを考える。
いつも通りの平常運転である。
おっといけない。
「いやなんでもないよ」
あわてて返事を返す。
「そう?さっきも何か考え込んでたみたいだから」
「あぁ大丈夫、なんでもない」
「そっか……うん、わかった」
絢の心遣いが身に染みる……が
そんなことを言ってる場合でもなくなった。
絢香が歴祭に入るならどうにかして同じく入りたいが
あいにく俺の学力では残り二年の中学生活、どう頑張った所で
歴祭に入れるとは到底思えない。
入学できなければもちろん今まで通りにはいかなくなる。
もちろん家が隣なのでそれなりに話すこともあるだろうが
一番の問題がその時間である。
一日の大半を学校内で過ごす学生にとって
違う学校になるということはそれだけでも
一緒の時間が大幅に減ってしまうことを意味する。
それはとてつもなく重大な問題として、
そして精神的にも物理的にも、そして距離的にも
大きな壁となって努と絢香の間に立ちはだかってくる。
それにこれだけ目を引く絢香の美貌だ。
今までだって幾度となく男性に言い寄られることのあった絢香だ。
最近はめっきり減ってはいるが、
入学当初は学校の先輩方はもとより
隣町からうわさを聞き付けた他校の生徒までもが
絢に思いを伝えるべく連日校門の前に
列を成していたこともあった。
まぁ何故か絢が今まで一度も「OK」を出したことはなく、
それに内心ほっとしているのも事実だが。
たまに相談されるのだが
その度に内心バックバクである。
なぜ絢が恋愛経験のまったく無い俺に
相談してくるのかはわからないが。
まぁ、身近な人間の方が家族などに相談するよりも
話しやすいとかそういった理由だろう。
だが、近くに居れなくなってしまえば
それもわからなくなってしまう。
幾度となく告白を断り続けている絢だが、
もしかしたら努の見ない間に歴祭の
頭もよく運動もでき顔も家柄も
努以上に恵まれた人に絢香が奪われてしまうかもしれない。
そのまま結婚ということもありえるかもしれない。
この学歴主義社会なのだ。それだけ好条件であれば
そういったこともあり得てしまうだろう。
それが今の世の中だ。
それが現実なのだ。
そうなれば、今まで努が思い続けてきたこの長い時間が
すべて水の泡となってしまうだろう。
水の泡とならなくとも
どちらにせよ今までの関係になることはもう叶わない。
(どうにかならないかなぁ)
事実どうにもできないことをわかりながらも
努は戻ってきた思考で何とかできないかと考えながら
絢と並んで学校に向かっていった。