旅立ち
最終的な《スキル》のチェックを済ませる。
3ジョブまできっちりセットしてある俺が同時にアクティブにできる《スキル》熟練度の合計値は《1200》。
俺はほとんどの《スキル》を《100》まであげているので、実用性をとるなら同時にセットできるのは十二個までだ。
《
無手 :100
弓 :100
運搬 :100
集中 :100
眼力 :100
気配探知 :100
風水術 :100
採掘 :100
精進料理 :100
隠密 :100
暗殺術 :100
転送魔法 :100
》
上から順に説明していこう。
まず、
《無手》
《弓》
《眼力》
は言うまでもなく戦闘のためのものだ。《眼力》は《弓》に限らずあらゆる攻撃の命中率を上げるもので、《弓》とセットで入れているプレイヤーは多かった。
《運搬》は持てる荷物の最大積載量の上限を引き伸ばすもので、最大五割増し。
《集中》は《ST》の自然回復速度にボーナスを与えるもの。これがないとゲーム中ではろくに走れもしなかったから、念のため、な。
《気配探知》はいわずもがな、戦闘にも寄与するし、道中で周囲に何か居ないかをチェックするためにも必須スキルだろう。
《風水術》は何か魔法系の《スキル》を入れておきたいからだ。数ある魔術系スキルの中からこれを選んだのは、使える《スペル》の種類にいくらか縛りがあるものの《MP》の消費だけで使えるとう利点からだ。
《採掘》は現地で《スレート》を追加するため。何かの事情で予備を使い切って更に空き《スレート》が必要になる事もあるかもしれない。
《精進料理》はただの《料理》とは違う。食べた時に特殊な効果を発揮する食べ物アイテムを作る《スキル》だ。取得する時に前提となる《スキル》をいくつか要求されるので、取るのだけはちょっと面倒な《スキル》だったけど、《100》まで上げてしまえばほぼ《料理》の上位互換だ。
《隠密》と《暗殺術》セットだと考えている。この世界では、俺はやっぱり異質な存在だと思うから、なるべく目立たないほうがいい。場合によっては同じ地球から来た人たちと出会っても正体を明かさない方がいい、なんて事もありえるだろう。そういう時に速やかに敵から逃げたり隠れたり、秘密裏に排除したりな。
で、絶対にはずせない超移動手段《転送魔法》。これがないと好きな時にここに帰ってこられないので外出する時はどんな事があってもはずせない《スキル》だろう。
ついでにステータスも確認しておこう。こちらはあまり変わってないが。
《
Name:Lion Road
MainJob :エクストラレンジャー Level:100
SecundJob:アサシン Level:100
TrtiusJob:マイナー Level:100
HP:395 MP:210 ST:290
FOR:300 INT:100 VIT:190
DEF:150 MIN:823 ANI:999
》
3ジョブの樵が探鉱夫に変わっただけだ。
旅先でそんなにしょっちゅう木材を要求される事はないだろう。だったら入手の必要性がでてくるかもしれない《スレート》のために《マイナー》にセットする。
メインの戦闘手段はあくまで《弓》で、万一にも接近された時のために《無手》をつけている。
この構成だと《無手》に対する与ダメボーナスをもつ《ジョブ》が無いけど、《無手》スキルは近接戦闘系のスキルの中でもちょっと特殊で、《無手》とか言ってるくせに何か武器を手に持っていても、アクティブにしておくだけで回避の可能性にボーナスが乗る。その点で、《盾》と迷ったが結局こっちにした。
《盾》は文字通り何か盾に分類されるアイテムを装備していないと《アクション》を使えないけど、《無手》はその時手に持っている装備を外すだけで《アクション》を使えるようになる。
その分、画面越しに見ると地味な《アクション》ばっかりだったけど、ここからは目立っちゃいけないんだから地味なのは逆にいい。
それぞれ、まだ机上の空論で組み立てた構成だけど、ここにくればまたいつでも組み直せるんだから、旅先でもっと色々やって、試行錯誤していくつもりだ。
「さて、と」
『もう行くのね』
精霊さんはいつもの定位置ではなく、俺の真正面に立って静かに、ちょっとだけ寂しそうに微笑んでいる。
ちゃんと俺が贈ったドレスワンピースも着てくれている。次は精霊さんにもっと合う色の生地で作りたいもんだ。
「うん。色々ありがとうございました」
いつでも戻ってこられるわけだから、今生の別れみたいな重苦しい雰囲気はこれっぽっちも要らないわけだけど、旅立ちには変わりないのでなんとなくしんみりしてしまう。
『本当に、いつでも帰ってきてくれて、いいんだからね?』
「うん。そのつもり」
言われるまでもない。今後、《スキル》や《ジョブ》の見直しは絶対に必要になるだろうから。
基礎インベントリの中にはこの家の場所をきっちり刻んだ《メモリードスレート》が収まっている。
装備はここに来た時から最上級装備だ。性能はすごいのに見た目が地味って所がなお良い。
余計な荷物も持っていない。基礎インベントリは食料と、各種のキーアイテムが最低限。
拡張インベントリに至っては完全にカラっぽだ。
《スキル》よし、《ジョブ》よし、《装備》よしで準備よし。
あとは、俺の覚悟だけ。なんつってな。
それも、ここに大気圏外から落とされた時からできてるみたいなものだ。
遥か空の上から落とされて、燃えて、地面に激突しても生き残っていた俺が何に脅威を感じて、何に覚悟をすればいいのか。
「よし、じゃあ行って来ます」
地球に居た時は毎日、何気なく口にしていた言葉だったけど、こういう時はこんなにも重みが違うのか。
『いってらっしゃい』
地球に居た時は毎日、普通に聞いていた言葉だったけど、こういう時はこんなにも心地よいのか。
ドアを開けるとなんと、この森の長たち二頭と一羽の巨大な動物たちが玄関先で出待ちしていた。
「Kurrr」
「Goooooun」
「…………」
『ふふ、みんな、旅立ちをお祝いします、って』
ルーク君は低めのハトボイスを、ジョージ君は銅鑼を鳴らしたみたいな重低音を響かせた。シオニアちゃんだけは口をあけるだけで無言、というか無音だった。たぶん発声器官がないんだと思う。
いずれにしても、精霊さんからの通訳を待つまでもなく、なんとなく誠意みたいなものを感じさせてくれた。
「ありがとう。君らも元気でな」
それぞれ順番に顔を近づけてきて。警戒心なく顔を近づけるのはどの動物でも親愛の印、のはずだ。
「Kuuuryy Pow!」
『乗って、って』
「え?」
ルーク君、ジョージ君、シオニアちゃんの順で撫で終わったあと、再びルーク君が前に出てきた。
「Kuu Kuurury」
『森の、出口まで、って』
「いいのか?」
っていうか乗れるのか? 俺の中の、ゲームの仕様的に。
「Kuy」
一度だけ頷いた。
挑戦するだけ、してみるか。
「じゃあためしに」
木登りという仕様の穴をついた実績もある。
俺が乗りやすいように身を低くしてくれているルーク君に、そっと手を触れる。
さすがにアイテム扱いにはならないらしく、つかんで持ち上げる、という事はできないようだったが、ゲームのステータスを持つこの体の各関節は地球に居た時と同じ可動域をもつ。
えっちらおっちらやってるうちに、なんとか背中に乗る事ができた。しがみつく事も、できている。
「Kyuuy?」
『準備はいい?』
「ああっと、ゆっくり、まずはゆっくり立ち上がってみてくれ」
俺の体を乗せたまま、ルーク君はゆっくり立ち上がる。ぐぐっと角度があがったが、ただつかまっている分には問題はなさそうだ。
『大丈夫そうね』
「ああ」
「Kuy!」
「うおっ!」
ひときわ大きな鳴き声とともに、一気に体が持ち上がった。
ぐんぐん上っていき、あっという間に周囲の木々を飛び越して葉の上に出る。
さすがに驚いたが、高度が安定して水平になると肩の力を抜き、腹ばい状態から身を起こす余裕が出てくる。
「お……おおぉ!」
飛んでいる。俺は今飛んでいる。
ルーク君の身体がだいぶ大きいので下方向はほとんど見えないが、精霊樹の上からでも枝葉の合間にしか見えなかった地平線が、なんの遮る物もなくありありと広がっている。
緑と青の境界線に息をのんでいると、ルーク君は急に身体を左に傾けて旋回しはじめた。
「あぉう。そういう事か」
すぐにその意図を理解する。傾いて初めて見える森の風景。ずっと、見上げるか、それともその上に居るせいで見えないかしかなかった精霊樹の身許は、空から見てもやっぱりでかかった。空を飛んでいるルーク君の視点からですらまだ見上げる余地がある。
そしてそのふもと、大自然の森林の中にぽつんと、浮いてるのか溶け込んでいるのか微妙な線のログハウス。
その周りに集まっている巨大なカモシカと巨大なカメ、そして純白のドレスワンピースを身にまとった、緑色の女性。
大きく、手を振っていて、俺も大きく手を振り替えした。
この景色を見せるためにわざわざ旋回してくれたのだろう。ハトのクセに、粋な奴だ。
「ありがとうルーク君」
「Kuy!」
一声とともに水平飛行に戻って正面に向き直る。
俺はいよいよこの森から出発する。
今回はここまで
一章分書きたまったらまた適当に投稿します
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