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おくりもの

 家も整ったので《鉄のピックアックス》を念のため何本か新調して、俺はまたあの岩場に来ていた。


 精霊さんは設置したベッドを痛く気に入ったようだったので、あの森で大量に手に入れた《蜘蛛の糸》から《スパイダーシルクストリング》を作り、そこから更に

《スパイダーシルククロス》に加工、これを原料に《天蓋つきダブルベッド》を作成して設置してやった。


 名前にはダブルベッドとあったが実体化させてみるとキングサイズぐらいあって、俺でも体験した事のない高級感に見事にノックアウトされた精霊さんはしばらくあの場所から動かないだろう。


 ちょうどいいや、あのベッドは今までのお礼もかねて精霊さん用にしよう。


 というわけで今回の同行者は謎ミミズクが一羽だけだ。


「じゃあ、またカンカンやるから離れててくれ」

「Hohh」


 ホー とミミズクらしく一鳴きすると、近くの木の枝へ飛んでいく。


 さて、いっちょやりますか。


 振りかぶって、カツン。


《岩を削りめぼしい鉱石を選び出した:鉄:2》

《めぼしい鉱石と共に貴重な鉱物を発見した!:スレート》


 …………ハア!?


 気合を入れて余分なアイテムを全て家においてきっちり整理してきたインベントリの中に、《鉄の鉱石》と共に出現した《スレート》


 思わず、脱力する。


 昨日の、あの時間は、いったいなんだったんだ。


 ええい、こうなったらヤケクソだ。とりあえず四箇所全部掘り尽くしてやる。



 と、意気込んで岩場がまたがっている四箇所の鉱床を全て掘り出した。


 一/二○○の確率に対して、合計しても四○回しかないトライだった筈なのだが、俺のインベントリの中には《スレート》が六つも入っている。


 ひどい偏り具合。どうやらただ仕様だけを持ち込んだのではなく、セコテラ乱数まできっちり持ち込んでしまっているらしい。


 これはなんていうかまた、憂鬱にさせる結果だ。


 けどもまあ、これで準備は整った。《スレート》の予備をそこそこの数揃えられたのは素直に幸運だったと喜ぼう。


「ただいま」

『あらお帰り。早かったわね』


 ログハウスに戻ると、ベッドにノックアウトされていた精霊さんもかろうして復活していて、ちょうど二階から降りてくるところだった。


「驚くほどすんなり出た。昨日かけた時間はなんだったんだって思うくらいだ」

『あらあら。まあそういう事もあるわよ』

「まあね」


 まるで自分にもそういうことがあったかのような慰め方をされて、つい苦笑がもれる。

 やっぱり、精霊さんがどんどん人間くさくなっている気がする。


 あまりの馴染みっぷりに、こちらの暦でも、地球の暦でも、出会ってからまだ一週間も経っていないとは思えない。


 例えるならそう、同棲を始めるために引越してきたばっかりのカップル感、すらあるんじゃないだろうか。とか考えるのはさすがにうぬぼれ過ぎか。

 いやでも、そんな希望はある。


 髪と肌が緑なのも会ってから一時間もすればすっかり見慣れてしまうものだ。

 あとは精霊さんは、スタイル抜群でほぼ全裸の美女。


 ほぼ全裸!?


 そういえば精霊さんほぼ全裸だ!


 この外見にすっかり慣れてしまっていたから、そこへの違和感も忘れてしまっていた。


 思い出したら急にドキドキしてきた。


 あれおかしいな、俺の今のこの体に性欲は無いんじゃなかったのか。


 そっとマイサンを確認してみるが。


 しょんぼりしたままだ。残念。


 肉体的な性欲はなくなってしまったけど、精神的な欲求までは死に切ってないという事なんだろうか。


 メンタルが青春期真っ盛りな俺がこのまま精神的な性欲までなくしてしまうのはあまりに残念な気がする。

 よし、この気持ちは大事にしていこう。


 となれば、更にやる事が増えた。


 手早く《スキル》を付け替えると、《糸紡ぎ機》と《織り機》の間に立って、置いといた箱の中から《裁縫》のキーアイテムである《ハサミ》を取り出しダブルクリックする。


 さて、おそらく外見を自由にカスタマイズする事はできない。《染料》も持ってないので生地の色を変える事すら無理だ。

 この裁縫作成メニューの中にリストアップされた衣類の中から選んで、それに対応した見た目の服しか作れないだろう。


 けど、今回はそうする事に意味がある。


 リストを選んでぽちっと押せば、《ハサミ》は動いてないのにチョキチョキチョキと効果音だけ鳴って素材が消費され、代わりに一枚のドット絵が現れる。


 俺はそれを、思い切って実体化させた。


「精霊さん、これ着て」

『え?』


 戸惑う精霊さんに差し出したのは、シンプルなワンピース型のドレス。


 シルク生地から作った筈なのに木綿のさわり心地になっているが、気にしてはいけない。


「ここまで世話になったお礼って事で」


 今まで精霊という存在であるせいで、自分が宿る精霊樹以外にはほとんど触れられなかった精霊さん。

 手を伸ばせばすり抜けて、いつも寂しい思いをしていたらしい。

 本人の口から直接そういう言葉を聞いたわけじゃないけど、俺に始終ひっついてたり、この家の壁やドアを妙に気に入ったり、ふかふかのベッドにノックアウトされたのはきっと昔からそういう欲求を抱えていたからだ。


 俺がここから旅立ってもこの家は無くならないから、ただ何かに触りたいだけならベッドでごろごろしてれば欲求は満たせるだろうけど、どうせならもう一つ、触れる物を俺の手で贈りたい。


『服?』

「そう。俺が今つけてる奴みたいな特別な能力は、何一つ無いただの布の服だけど」


 俺が作ったものだから、精霊さんでも触れるはず、そして着られるはずだ。


 精霊さんは恐る恐るドレスを手にとって、そして感触を確かめた。


『不思議。あなたも、ベッドも、この服も、全部さわり心地が違うのね』

「着てみてよ」

『うん。でも、どうやればいいの?』


 そうか。服の着方がわからないのか。

 そういう点でもワンピース型のドレスにしてよかった。深く考えずに一番似合いそうなのを選んだんだけど、上手くはまっている。


「簡単だよ。まず下の広がってる所からかぶる」

『こう?』

「そうそう。そしてまっすぐ頭を通して。そう、で、右手を出して、左手を出して。もう着れた」

『本当に? こんなんでいいの?』

「完ぺ…あ、髪を服の外に出そうか」

『髪? ああ、そっか」


 シンプルなデザインながらも、純白のドレスワンピースを着た精霊さんは、見違えるようだった。


 最後の仕上げにと、長い緑色の髪をかきだす仕草は、一枚絵にしたいくらい、美しくしなやかだった。




 この時、中世ヨーロッパで男性が女性に服を送るのはその服を私に脱がさせてくれという意味もある、なんていう話を思い出していたのは、俺の心の中にだけの秘密にするのだ。


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