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鉄の法則

 採掘作業は意外に長引いている。


 今回の目的の品である《スレート》を手に入れる期待値は一/二○○。

 精霊さんから教えてもらった岩場を実際に採掘してみると、かろうじて四箇所の鉱床を跨いで鎮座ましましていらっしゃる事がわかったので、二○分間に四○回のチャンスがある。


 単純計算すれば一○○分とちょっとで期待値に到達する。


 一○○分というのは地球では一時間と四○分だが、こっちの世界ではちょうど一刻になる。その辺りで出てきてくれればちょうどいいな、なんて思っていたんだが、この辺りは運。出ない時は丸一日でないし、出る時は最多で四回連続で出た事がある。

 この偏った確率のせいで、セコテラ乱数、なんてスラングができたくらい、セコンドテラオンラインというゲームの確率はひどいものだった。

 物欲センサーという言葉が生まれる何年も前に定着し、おそらくまだあのゲームに関わる場所でだけひっそりと使われている言葉だ。


 それをどうやら、俺はこの体の中に入れて持ち込んでしまったらしい。


『まだ出ないのー?』

「まただめだった」


 八セット目、通算三二○回目の採掘を終えて俺はがっくりと肩を落とす。


 もうインベントリ内には収まりきらなくなった《鉄の鉱石》が周囲に散乱してひどい有様だ。


『それにしても面白いものねぇ』

「何がだ?」

『根本的には精霊樹からあの丸太を取り出した時と同じ現象を、あなたは起こしているわけだけど、あの丸太と違ってそこの石ころたちはもとからこの世界にある石ころとほとんど変わらない量の魔力しか宿っていない。

 大地から減る魔力の量と比べれば増えてはいるのだけど……』

「ふむ」


 丸太の時と違って増加量が桁違いに少ない、という事なのだろう。でもよく見てほしい。


「それ、石ころって言ってるけど、全部鉄鉱石だぞ」


 正確には《鉄の鉱石》だが、一番大きいタイプの鉱石はスタックされてなくても実体化した時に重量が五○キロ分くらいの山になった。もし仕様どおりに炉で溶かせればインゴット二つ分になる。

 インゴットを持ってないので、鉱石内の鉄の含有率は計算できないけど、人間にとってかなり重要な資源になる事は間違いない。


『てっこーせき?』


 ……樹木をつかさどる精霊さんには、鉄を多く含んでいようと石ころはただの石ころだったようだ。


「いや、まあいいけどさ。他に岩肌が露出してるような場所はないんだよな」

『近場にはね』


 これだけ広い森の中だ、探せばあるんだろうけど。


「さてそろそろ二十分経ったかな……」


 もうすぐ壊れそうな《石のピックアックス》を担ぎなおし、すっかり慣れてしまった採掘モーションを手動で行う。


 カツーン と《ダガー》を突き立てた時よりは耳に厳しくない音がして、アナウンスが来るのを待ちつつ振りかぶって次への準備をする。


《岩を削りめぼしい鉱石を選び出した:鉄:2》


 よしよし、鉱床が復活している。

 めにーもあとらーい!


 カツカツ掘っていくがやはり目当ての品は出てこない。


 あと、どれだけがんばっても鉄しか採れていない。


 この際だから採れる鉱物の種類についても検証しておきたかったんだけど、サンプルが一種類しか出ないので検証のしようがない。


 セコンドテラで採れる金属の種類は他のゲームに比べて多かったと思う。


 まず何度も出ている鉄、Ironだ。

 そして、錫、銅、鉛、銀、金、と続く。


 ここまではセコンドテラ、二つ目の地球をタイトルにしているだけあってリアル志向だ。


 鉄以外の金属は、スキルの難易度的には鉄よりも上位の金属として扱われていて、挙げた順に難易度が低い。《採掘》スキルの熟練度がそれぞれ一定値以上ないと、その鉱脈を掘っていても強制的に鉄に変わってしまう。

 錫なら《採掘》スキルが《20》以上ないと、《錫の鉱石》を採れる鉱床を掘っていても《鉄の鉱石》しか採れないというわけだ。


 錫が《20》であとは《10》刻みに難しくなっていき、金を掘るには《60》の熟練度が必要、というわけだ。


 ところがここから急にファンタジーになる。


 ミスリル。

 オリハルコン。

 アダマント。


 わりとメジャーな架空金属たちだ。日本人的にはヒヒイロカネも加えてほしかったけど、日本国産のゲームじゃないからここは仕方ない。


 ちなみに、オリハルコンだけは実在した金属だといわれている。ただし現実のオリハルコンは色んな作品に出てくるような特別な力や性質はなく、銅系の合金で、おそらくは真鍮の事だったんじゃないか、という説が有力になっている。


 関係ない話をしてしまった。


 この三種類の架空金属は、木材における《シャインウッド》と《アンブラウッド》と同じような立ち位置で、採れるようになる熟練度は同じだけどそれぞれで特色が違う。


 《ミスリル》は耐久性と物理防御、それに装備条件の緩和。

 《オリハルコン》は魔法防御と魔法攻撃、ただし重い。

 《アダマント》は物理攻撃特化、といった感じ。


 これら魔法的な性質をもつ三つの金属は地球では架空のものだったが、この世界にもそれぞれに相当する金属が存在するらしい。

 ただし、こっちの世界のこれらの金属はセコンドテラオンライン内のそれとは性質が違っているらしい。


 ミスリルが魔法特化、オリハルコンは頑丈さに加えて耐腐食と自己修復、アダマントだけは物理特化でセコンドテラとほぼ同じ性質みたいだけど、こっちの世界のアダマントは金属ではなく宝石みたいな扱いで、熱を使った普通の鍛冶では扱えず、ある一つの種族だけがアダマントを自由自在に形成する技術を持っているとか。


 まだ精霊さんから教わって知識としてしか知らない事ばっかりだ。

 一度はその種族とも会って話してみたいし、この世界の金属の実物たちともぜひお目にかかりたいもんだ。


《岩を削りめぼしい鉱石を選び出した:鉄の鉱石:1》

《道具が壊れた!:石のピックアックス》


 昔を思い出しながら、そして未来に想いを馳せながら、体が動くままに採掘を続けていたんだが、とうとうツルハシが壊れてしまった。

 俺が作ったアイテムが壊れると跡形もなくなって完全に消滅してしまうらしい。ここもゲームどおりだ。


 あらかじめ用意してきた高品質のもち手を使ったとはいえ、試行回数三五○回近く、むしろよくもったほうだろう。


 目的の品だけはでなかったけど、一応は素材も集まっている事だし、一旦家に戻って生産設備を整えた上でちゃんとした道具を作って、改めてまた来るべきかな……。


「結局出なかった。一旦帰ろうか」

『あらあら、残念ね』

「ほれ謎ミミズク、お前も来るだろ」


 声をかけると謎ミミズクはどことなく嬉しそうにホーと鳴いて俺の頭の上におさまった。


『ふふふ』


 続いて精霊さんも指定位置へ。


 今日は思い出話ばかりでほとんど収穫がなかったが、たまにはこんな事もいいかもしれない。

 ここのところ、勉強とか実験とか実戦訓練とかで、ずっと気を張っていたからな。


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016/3/27 誤字修正

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