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刃物と一緒に生まれてきた人

 精霊さんに案内されてやってきたのは露出した岩肌に松の大木が根を張った、なかなか神秘的な場所だった。


 精霊樹を見慣れたあとだと大した印象は受けないけど、よくよくみればこの松の木も相当な大きさに育っていて、生命の力強さを感じさせる。


 ふっと連想したのはいつだったかネット上で見た、タイだかインドネシアだかの森の奥で発見された石材で作られた寺院の遺跡が自然に飲み込まれている光景だった。


『どう?』

「ここならよさそうだ」


 ここに来る直前は森のレンジャープレイをしていた俺は鍛冶道具どころか採掘に必要となるような道具もまったく持ち合わせていない。


 このままだとただ露出した岩場がある場所まで来ただけ、で終わってしまいそうだが、セコンドテラオンラインというゲームは、裸一貫の無一文状態からでも短剣が一本だけあれば立て直せるように設計されている、かなりシブいゲームだ。


 どんな《ジョブ》を初期ジョブとして選んだとしても、この不壊属性がついた一本の《ダガー》だけは必ず基礎インベントリの中に入った状態でセコンドテラオンラインの世界に誕生する。

 あとは選んだ《ジョブ》にあわせて細々と武器やらツールやらと少量のゲーム内通貨が支給されるんだが、それらは後からいくらでも手に入るものだし、武器にだけは不壊属性がつくものの大した性能じゃないのですぐ買い換えられる定めにある。


 ところがこの初期ダガーを初めとした小さい刃物系の武器は、簡易的な一次生産のツールもかねている。


 例えば、現地で矢が無くなったけど斧なんか持ってない! けど周りに木だけはあった場合、まず《ダガー》を木に使う事で《小さな薪》という最下級の木材を手に入れる。

 手に入れた《小さな薪》に更に《ダガー》を使うと《シャフト》。木がある場所というのは大抵、鳥系のモブも自然にスポーンするから、《ダガー》で仕留めて《羽》をむしれば、《シャフト》と《羽》だけで《木の矢》を作れるようになる。


 まあ現実的に考えて、もしそんな状況になったらさっさと狩りを切り上げて拠点に戻ってから、《鉄の鏃の矢》とかちゃんと与えるダメージにプラスがつくものを補充した方が色々と効率とかもいいんだけどな。

 そこは遊びだ。

 裸一貫になって自ら無人島行きの《ワープゲート》に飛び込んで、そこから《ダガー》一本を頼りに人里まで脱出するタイムアタック、なんてのが流行った時期もあった。


 というわけで、あっちの世界から採掘道具を持ち込む事はできなかった俺であるが、このダガーはゲン担ぎもかねて常備していたのでここから自力で採掘道具を作り出す事だって可能なのだ。


 まずやるのは、装備を自前の弓から《ダガー》に持ち帰る事。


 あとは実験も兼ねて《ダガー》をダブルクリックして、目の前の岩肌をちょこんと小突く。


 樵をした時と同じように、体が勝手に動いて手に持った《ダガー》で力いっぱい岩肌を叩いた。


 ガキィン と甲高い音が鳴って、刃先が少し岩にめり込んでいるが派手に壊れる事はない。


 プレイヤーが作った物やNPCから買った《ダガー》だと地味に《耐久度》を消費する行為だが、生まれた時から持っているこの初期ダガーは不壊属性のおかげで絶対に壊れないし絶対に無くさない。


 これまた樵の時と同じに、ダガーを岩肌から抜き、やっぱり岩肌には傷一つついてないなと観察しながら少し待つと、どうしても懐かしくなってしまうアナウンスが脳裏に響く。


《あなたは不完全なツールで石を採った:11》


 ちなみにここの和訳の《不完全な》は、後から英語を使える日本人プレイヤーが

《適さない》に直した方が単語的にも文脈的にも合っている、という意見メールを運営に出したそうだが、ついぞ直される事はなかった。


 ともかくこれで《小石》は手に入れたので、あらかじめ作っておいた

《ピックアックス用の木のもち手》をダブルクリックし、採れたての《小石》を指定する。

 これで《石のピックアックス》の完成だ。


 この《石のピックアックス》は最下級の採掘用ツールだが、これでも《採掘》スキルさえ十分ならば理論上はセコンドテラ上に存在したありとあらゆる金属を採掘する事ができた。


 ただし、採掘できた金属によって消費される《耐久値》が変わるので、一回でも上位鉱石の採掘に成功するとすぐ壊れる。しかも採掘成功の際に採掘ツールが破壊されると、いくつか大きさに種類がある鉱石の最も小さいものしか手に入れられず、それをインゴットに直すと一個と半分の損が発生する。

 だから理論上は可能だとしても《石のピックアックス》だけで採掘するのは時間的にも素材的にもあまりに非効率的な上に、ある程度拠点の設備が整ってきたプレイヤーにとっては、《鉄のピックアックス》以上の採掘ツールを作成ウィンドウから一括で作った方が手間もかからない、という本当に初期の初期だけ使うアイテムだった。


 つまるところ、俺は異世界に来た事で、スキルその他もろもろは整っているのに、設備も拠点もない一番最初の頃からやり直すはめになっている、という事なわけだが。


 ちょっとくらい一つのゲームをやりこんだ経験がある人なら共感してもらえると思うんだ。


 ある程度そのゲームに慣れてくると急に一番最初の状態からやり直したくなってしまう現象。


 実際にセーブデータをリセットして最初からやりはじめると案外おっくうで、キャラの性能くらいは引継ぎできないもんかな、とか横着した事を考えてしまう。そこんな所まで合わせてゲーマーあるあるだと思う。


 俺は今そんな状況を、理想の状態で行えているわけだ。


 もう神様には感謝しかない!


『あの、なにか感動している所わるいのだけど』


 はっ


「なんでしょう」

『いい加減、私はあなたのその行動にも魔法にも慣れたのだけどね』

「うん?」


 と、指差される足元。


 見ると、謎ミミズクが目を回してのびている。


 あ、こんな奴もいたなあ。


『おうちができるまでは気を使って離れててくれたんだよ? それはちょっと、可愛そうよ』


 精霊さんは俺をたしなめながらふっと離れて謎ミミズクの耳元に手をやる。するとすぐに、ピヨ と鳴きながら謎ミミズクが起きた。


「すまんすまん」


 存在をすっかり忘れていた、とか言ったら余計に怒るだろうな。というか、おまえはなんで俺の頭の上を指定席にしているんだ。そしていつの間に俺の頭の上に降りたんだ。


「けどなんでひっくり返ってたんだ? べつにダガーはお前には当たらなかったと思うんだが」

『音がちょっと、この子にはうるさかったみたいね』

「あー、そうか。じゃあもうしばらく離れてな」


 完璧に人の言葉を理解しているらしいルーク君と違い、この謎ミミズクがどのくらいこっちの言葉を聞き取っているのかはわからないが、今回は素直に従ってくれた。

 すばやく飛び立って木の枝の上にとまる。


 いつの間に飛べるまで回復したんだ。


 ちょっと忘れていた間にずいぶん成長? しているようだ。


 心なしか毛羽艶もよくなっているような気がする。


「ま、いいや」


 続き続き。


 今回は鉄を初めとした本来はメインになる筈の採掘資源ではなく、《採掘》スキルが《100》の時の採掘中に確率で手に入る《スレート》を目的に来ている。

 ここがどの金属の鉱床として扱われるかは知らないが、《スレート》が副産物としてドロップする確率は《0.5%》だ。単純計算で二○○回採掘して一個手に入れられる。


 採掘する時は樵の時と違って、グリッド法といって一つの鉱床を八メートル四方で区切って管理していたから、この岩場は……ギリギリ鉱床二つ分って所かなあ。


 一つの鉱床に対して一度に採掘できるのは一○回まで。一度掘り尽くすと樵の時と同じように二十分待たないといけない。


 まあ時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりやるか。


最下級の一次生産ツールでは実は特殊ドロップは出ない

リオンも調べたけどすっかり失念している

という裏設定


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