表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/37

一国一城の主の気分

 家の完成に続き、ジョブとスキルの編集ウィンドウが現れた時、俺は軽く小躍りしてしまった。


『おー。上手く行ったんだ?』

「ああ! これで心置きなく出発できるように、できる!」


 その気になれば本気のジョブ・スキル構成にもできるだろう。けど、今後の事を考えるといつでもここに戻ってこられるような構成にしておかなければならない。


 ぶっちゃけ、《ジョブ》についてはどれでもいいと思う。


 おそらく、この世界にはジョブボーナスまできっちり計算に入れておかないと倒せないような強敵は居ないだろう。居たとしても、そいつとは戦っちゃいけない。

 それはたぶん、精霊さんとか、神様とか、この世界に居なくてはならない存在だからだ。


 けど、最低限の戦う力は必要、場合によっては守る力と、回復する能力も持っておきたい。


 最も使い勝手が良くて応用の幅も広いのはやっぱり西洋魔術系の《理術》だろう。これはMPと同時に何らかの触媒を消費する事で様々な魔法を使えるようになる《スキル》だ。

 この世界の四元素とも共通している、火、風、水、土の四種類の属性で、単体攻撃、範囲攻撃、防壁作成、簡易的なエレメント召喚、バフ、デバフと各種魔法がそろっている。

 ただし、こいつには回復が無い。


 回復に関するスキルなら、アイテムを使う方法とそういう《スペル》と、《スペル》に頼らずに包帯などのアイテムを消費して瞬時に回復するゲーム的な謎の現象を引き起こす《応急手当》スキルというのもある。

 回復のたびにアイテムを消費するだけではなく、《スキル》発動から効果が現れるまで若干のタイムラグがあるというややクセのあるものだが、成功すれば包帯一枚で死んでいた仲間に新たな肉体を用意してしまうという超常現象が起きる。


 と、ここで気づく。これらの《スキル》がすべて、この世界でもセコンドテラオンラインというゲームの中にあった時と同じように効果を現すとは、限らない。


「……うーん。どうしよう」

『どうしたの?』

「いや、せっかくだからさ、試せそうな《スキル》は片っ端から試していくのも手かなと思って」

『それなら、人間の魔法使いと会ってからの方が効率がいいんじゃない?』


 あぁ、そうか。インベントリ機能がそうであったように、《スキル》による

《アクション》や《スペル》もこの世界の法則に落とし込まれた事で、何かしらの術式で再現できるかもしれないわけか。

 となると、確かに一度にいろんな角度から検証できて時間的な効率はいいのかもしれないが……。


「いや、《スキル》には《ステルスジャンプ》みたいに見た目には効果がわかりづらいものも多い。そういう時にちゃんとどういう効果が出てるなのかを説明できないと、逆に非効率かもしれない」

『そっか。そうね、魔力を見れる人間は少ないものね』


 そ…そうなのか。なんか初耳の情報な気がするけど。


 新たな懸念材料が増えてしまったけど、俺が考えていた理由はそれじゃない。


「人間の魔法使いに会って協力をあおぐ、ってのも確かにいつかは必要になるのかもしれないけど、絶対に今すぐ必要ってわけでもないしさ」


 むしろ、俺のイメージではこういう世界の魔法使いは偏屈か堅物か野心家のどれかで、偏屈か堅物なら接しづらいだけだからまだいいけど、野心家だと協力してもらいに行ったらいつのまにか利用されてた、なんて事もありえるわけだ。


 そうならないためにもやっぱり、俺がセコンドテラで鍛え上げた《スキル》の数々が現実に落とし込まれた事でどんな風に効果を表すようになるのか、できる限り把握しておかなきゃならないだろう。


『好きにしたらいいとは思うけど。そうなるとまた出発が遅れるわね』


 呆れたような台詞だったが、どことなく精霊さんの声はうれしそうだ。位置と方角の関係で肉眼でも天眼でも精霊さんの顔が見えないのがちょっとだけ惜しい。


「うん。でも、まあまずセットする《スキル》は決まってるんだ」


 それは、長距離を一瞬で移動できる《ワープ》や《ワープゲート》という《スペル》を使えるようになる《スキル》。その名もそのまま《転移魔法》スキルだ。


 これがあるとどこに家を建てててもいつでもすぐに街に行けるので、受験生だからという薄い自重プレイをしている間は意図的に抜いていた。


 魔法使い系をメインに使うキャラなら必ず入れておくし、前衛職がメインでもとりあえずセットしておくというくらい定番の《スキル》で、利便性もおそろしく高かった。

 なにせ、基本的にどこにでも、たとえダンジョンの中へだったとしても瞬間移動できるので、ほとんどのプレイヤーが使っていた。


 この《ワープ》と《ワープゲート》で飛べないのはボスモンスターが沸くエリアと、他人のプレイヤーハウスの敷地内。NPCの街でも特殊な状態だった時は飛べないけど、言ってみればそれだけだ。

 ボスエリアなんて両手で数えられるくらいしかなかったし、プレイヤーが家を建てられる場所なんかセコンドテラという世界全体の二割ほど。NPCの街が特殊な状態になっている事なんてのは、世界全体を巻き込んで特殊なイベントが起きている時くらいなもので大概はいつでもどこでも自由に行き来できたのだ。



 さてこの《ワープ》または《ワープゲート》という《スペル》だが、ゲームの時は少し前準備の要るものだった。

 まず《スレート》という専用アイテムを用意し、同じ《転位魔法》スキル内にある、《ポイントマーク》という《スペル》で座標を登録しなければならない。

 この座標を登録した《メモリードスレート》に《ワープ》か《ワープゲート》を使う事でその場所に飛ぶという仕様だった。


 この《スレート》は《メモリードスレート》にするとスタックできなくなるのでそのままの状態だとかさばって荷物になるが、十六枚のスレートを一度に管理できる《スレートバインダー》という専用のアイテムもある。


 登録する座標は平面方向に1メートル刻みで変更でき、登録の時にはその場所に立っている必要があるので、基本的に海の上などを上に立てない場所を登録するのは不可能。したがって、急に海の上に飛ぶという事も不可能だった。


 たまーに、普通は登れないはずの屋根の上とか、山の上とか、滝の裏とか珍しい場所に仕様の穴を突いて《ポイントマーク》した《メモリードスレート》ばかりを集めて綴った、珍所スレートバインダーが売りに出される事もあった。


 俺ももちろん持っていたが、ここでもやっぱり、受験生だからと自重プレイしていたため、セコンドテラの方の自分のプレイヤーハウスの中に置いて持ち歩いていなかった。


 というわけで、次に俺がするべきなのは、この《スレート》を手に入れる事。


 この《スレート》だが、ファンタジー世界にしか存在しない架空の物質というわけでは決して無い。一時期、セコンドテラに限らずいろいろなゲームの中に登場するアイテムやモンスターの元ネタを調べまくった時期があった。


 アイテムである《スレート》の元になったであろうスレートという物質は現実に存在していて、和名では粘板岩という。

 名前の文字通り、粘土質な土とかが長い時間をかけて圧縮され岩になったもので、海を割ったで有名なモーセがキリスト教系の唯一神であるヤーウェから十戒を授かった時、神が文字を刻んだのはこの粘板岩の板になんじゃないかという説がある。


 セコンドテラでも《スレート》を手に入れるのは、NPCから買うか、採掘のレアドロップで手に入れるか、どちらかだった。


 鉄鉱石とか銅鉱石とかがザックザク出てくる地層から一緒に粘板岩が採れるのは、現実だと地質学的におかしいらしいんだけど、そこはゲームだ、もらえるもんに文句を言っちゃいけない。


 そういうわけなんで、俺は新たな《スレート》を得られるのかどうかについては、かなり楽観視している。


「精霊さん」

『なあに?』

「この辺りに、岩肌が大きく露出してるところはあるか?」

『あるよぉ』


 よし。2ジョブを《アサシン》から《マイナー》に入れ替える。念のためメインジョブはそのまま、戦う能力はつけたままだ。


 この《マイナー》のジョブは、日本語だと探鉱夫になる。掘り求めるのが石炭だけではないので炭鉱夫ではない。

 簡単に言えば木を伐る事にボーナスを与える《ランバージャック》の採掘版で、鉱石類や石材を得る時にボーナスをくれる。


「じゃあ案内たのむ」

『いいよぉ。あっちね』


 ガチャリ と建ったばかりの家のドアを空ける。


 けどつい、一歩外に出ただけでまた振り返ってしまった。


 まだ壁と窓と天井と階段があるだけで、家具は何もないデフォルトの状態。殺風景でなんの彩りもないけど、今日からここが、俺の家、俺だけの城だ!


誤字・脱字などのご指摘

ご感想をお待ちしております

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ