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プロローグ3

 このマーブルカラーの空間に最後に残った地球人となった俺は、改めて三柱の神々と対面していた。


『ほう。この短時間に我らの姿を見られるようになっておる』

『そのようですね。特に、わたくしの姿はもうはっきりとご覧になれているようです』

『然り、然り』


 神々は俺を取り囲むように立ち並ぶ。


 ハッキリ見えているのは女神さまだけで、他の男性神はまだ複雑な形の色つきガラス細工のような形でしか見えていないが……

 片方は東洋とも西洋とも中東とも言えるような言えないような独特な形の全身甲冑を着ており、顔まですっぽり覆う形の兜をかぶっているせいで表情がまったくわからない。

 もう片方は清潔感あるだぼっとしたローブにやや後退した額に長い髪、長い髭で、神様といえばコレ、という感じの見た目に節くれだった自然木の杖を持っている。

 

 そして女神様。シルエットしか見えなかった時は十二単のようなかなり分厚い衣類だと思っていたのだが、昔話で見るような天女のようなふわふわとひとりでになびく羽衣が何重にもなって服となっていた。

 女神さま本体はもう完全に不透明なのにも関わらず、羽衣の一枚一枚はうっすらと向こう側を透かしてみせてくれる。なのだが、なのだが! 何重にもなっているせいで女神様の大事な所は……


 ンみえないッ!


『あらあら。ウフフ』

『大した肝を持っているな』

『然り。やはりこの者だけ今回招いた異界の民の中でも異質であるな』


 あ、目を凝らしすぎた。視線があからさますぎたと自分でも気づいたが、幸い神様たちは誰も気を悪くしてはいないようだ。


『さて、今までわたくし達のやりとりをご覧になっていたでしょうから、わたくし達があなたにも頼みたい事柄は、もうおわかりでしょう?』

「はい。あなた方の世界に行って、文明を発展させる。ですよね?」


 ちょっとだけ真面目になって話しを聞く事にする。


『左様。しかしそなたにだけは、もう一つ頼みたい事ができた。おそらくは、そなたには出来る事だ』


 お? おじいちゃん神様が俺に杖を向けてきた。


『そうですね。この者ならば我々が危険を犯してまで手を下さずとも、骸特点を消す事ができるかもしれません』

「ガイトクテン? ですか?」

『然り』


 どうでもいい事ではあるんだが、いい加減取り囲んで順番に話すのをやめてほしい。すごい威圧感だ。特に甲冑神。


『このような見た目のモノです』


 そういうと女神さまが手のひらの上にまた立体映像を作り上げた。


 テレビでたまにやる宇宙特集や、天文学系のサイトでたまに見かけるような、ブラックホールの想像図をそのまま立体にしたような見た目だ。


「ほほう……」


 じっくり、全方位から観察してみるが、どの角度から眺めても同じように渦を巻いているように見え、不思議な違和感を受ける。


『骸特点と名づけたのはあなたと同じ世界からやってきた学者さまでした。特別な骸の点と書くそうです』

「ほほう。骸特点ね」

『これは魔力の流れの中に唐突にうまれ、周囲の魔力を際限無く吸って消滅させてしまうという恐ろしい性質を持っています。世界を構成する法則が違い、あなた方の世界のように科学というものが発展しづらい場所であるわたくし達の世界では、この骸特点の存在が発展への大きな妨げになっています』


 結局は、大目的である文明の発展に帰結するわけか。


 いや、いいね。わかりやすくて。


「これを破壊しろ、と? そりゃあ、死ぬ所を救ってもらった。というか、死んで何もかも消える所を拾い上げてもらって、新しい人生をいただくわけですから、やぶさかじゃありませんけど、どうやって?」

『これを壊すにあたり方法は三つ』


 ここで甲冑神が説明を引き継いだ。きちんと五本指になっている金属っぽい質感の篭手を指折り数えながら説明してくれている。


『一つは飽和、一つは中和、一つは粉砕。いずれも人の身には困難であろう方法である。よってそなたには破壊と再生の神である我輩からも一つ加護を授ける』


 破壊と再生を司るのだという甲冑神がズイッとそのゴテゴテの篭手を伸ばしてくる。

 あまりの威圧感に思わず体が硬くなるが、篭手は俺の額にかざされただけで直接触れる事はない。


 おそらく、女神様が他の地球人にしてきたように、なにかよくわからない力を流し込んでくれているのだろうが、あれは客観的に見てはじめたわかった事であって、いざ当事者になるとただ目隠しされてるだけで何をやられているのは本当にかわからない。

 まるで何も行われてないんじゃないかとすら思うほどわからない。そして変わらない。


『む?』

『おや?』

『ほぉう』


 と、少し待っていたのだが神様たちが全員とも戸惑ったような、いや、おじいちゃん神様だけ感心したような反応をしている。


『我輩の加護が入る隙が……無い』

『汝が魂には既に大きな神の祝福がなされているようだ。いや、これは我ら神よりももっと原始の……と言うと大仰であるが、いうなれば集合無意識の一部。汝が属した大きな集合無意識が汝に大きな加護を与えているようだ』

「集合、無意識、とは?」


 なんかどっかのゲームで聞いた事ある単語だな。


『どう、いたしましょうかお二方』

『この者の持つ資質に間違いはない。既に加護を得ている点においてさらに異質ではあるが、我らが世界は未だ途上。一部法則が他の世界より混ざりこんでも融通は利く』


 神様たちが俺を取り囲んだまま、俺の頭の上をとびこしてわけのわからないやりとりを初めてしまった。

 これは、本当にわけがわからない。

 三者とも俺にわかるような説明をする気がまったくないらしい。


 しばらくしいい加減居心地の悪さに限界が来たところで、ようやく三者会議に決着がついたようだ。


『これ以上、あなたにここに留まっていただいても無益でしょう。わたくし達の誰からも加護を与えない事はあまりに無責任でありますから、ささやかでありますが……あなたに少しだけ幸運の星が近づきますよう』


 女神様がそう唱えると、ふんわりと頭の上に何かが降りかかったような感覚があった。

 こんどは何かされたのがはっきりわかった。けど何かが変わった気はまったくしない。


『大きな加護を与えられないため、生前のお体を再現する事も難しいので、今のあなたの魂の形に忠実にそって顕現するよう、送り方も他の方々とは違った形になってしまいます。すこし、驚かれるかもしれませんが、おゆるしくださいね』


 そう言って女神様が申し訳なさそうに笑顔を見せると、マーブルカラーの空間の俺の立っていた場所が唐突に開いた。


パカッ と。


「え?」


 今まで重力もクソもあるかというような空間だったのに、足元の穴はすごい吸引力で俺を吸い込んで落とす。

 そう、落とす。落ちる。落ち――


「えええええええええええ!!! なにそれえええええええ!!!」


 こうして俺は、異世界への第一歩を――自ら踏み出す前に強引に落とされたのだ。


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