着工、そして
材料はすべて集まった。《製図》スキルによるアイテム作成のキーとなるツールである《紙とペン》をダブルクリックしてアイテム作成ウィンドウを呼び出す。
この《製図》スキルでのアイテム作成には必ず必要になる《白紙のスクロール》は前にまとめて作ったやつが残っているのでそれをそのまま流用。カテゴリから家の設計図を選び、さらに今回の目的の目的である《二階建てのログハウス》を選択。
スキル値は十分なので失敗はなく、設計図を引く段階では集めた木材は消費されない。
問題なく《二階建てのログハウスのブループリント》が完成すると、いよいよ本番になる。
完成したばかりの《二階建てのログハウスのブループリント》をダブルクリックする。
《木材を指定してください》
出た。ゲームの時にも何度か目にした事のあったシステムメッセージだ。
まず問題がおきるとしたら、ここからだ。
俺は生唾を飲み下しながら、精霊さんが維持しつづけてくれているドット絵化維持の
術式の中にある《オークウッドログ:8,000》を指定する。
『あっ、消えた』
「よし!」
問題なく処理してくれた。《二階建てのログハウスのブループリント》にもステータスが増えて、
《
二階建てのログハウスの設計図
ログ:8,000
》
になった。
再び設計図をダブルクリック。続いて《アッシュウッドログ:4,000》を指定する。端数は全て板材に加工してあるのでピッタリだ。
『また減った。これ、大丈夫なの?』
「うん。大丈夫」
作業は全て俺のインベントリ内で行われている。
プレイヤーのインベントリ内をほかのプレイヤーに意図的に見せる事なんて外部ツールを使わないとできなかったから、説明できないのは仕方ない。
「どんどん行くぞ」
この調子で板材も全て取り込んだ。するとインベントリの中で《二階建てのログハウスのブループリント》が《二階建てのログハウスの権利書》に変化した。
「よし!」
最初の1スタックを取り込めた時点でここまでこぎつけられるのは確信していたが、やはりいざ変化するとうれしい。
あと、精霊さんの術式の中に残っているのは端数の《アッシュウッドボード:122》だけ。これならインベントリに入れておける。
「もう魔法をといて大丈夫だ」
『おっけー』
地面に展開されていた光る紋様で作られた円形の図が光を失っていく。精霊さんからの魔力供給が無くなったからだろう。
『燃料として預かった丸太はどうする?』
「もともとあの精霊樹から取れたものだ。もし必要になったらまた採りに来るから、渡した分は全部あげるよ。精霊さんの力なしではここまでも来られなかっただろうし」
『そう? じゃあ遠慮なく』
大儲けした商売人みたいなホクホク顔だ。近所に住んでた幼馴染に石焼き芋をおごってやった時の表情によく似ていて、つい思い出してしまう。まあ、奴は男だったが。
「とはいえ、ここからが本題だ」
俺の予想では、家を建てるまではうまくできる。
できたてほやほやの《二階建てのログハウスの権利書》を更にダブルクリック。
その瞬間、予想していたよりだいぶ派手な演出が目の前に現れた。
『おお? 何か、うっすらともやが……』
どうやら精霊さんにもなんとなく見えるくらい、それは彼女から見ると地味ながらも、広い範囲に現れたらしい。
俺の肉眼には、建設される予定のログハウスが半透明の状態で目の前に現れた。ただし、今ある位置では精霊樹の幹と一部かぶっているので、半透明のそれは薄く赤い。
天眼の視点では、セコンドテラでよく見た光景がほとんどそのまんま広がっている。
ゴーストとか、シャドウとか言われるゲームでよくある視覚効果のひとつで、この半透明のシャドウを移動させて、この位置にこの家が建ったらこんな感じ、という事をわかりやすくする演出なわけだ。
っと、もう少し、後ろだな。
あ、このまま下がると精霊さんがかぶってしまう。
「精霊さん、いつもの位置に来てくれ」
『おっ? はいはーい』
範囲から外れるまでいちいち指示しなおすのも面倒なので俺の位置に来てもらった。
このまま位置調節して、予定の位置までシャドウを引っ張ってくる。地形は平坦だが、平坦といっても完全に自然の地形だからある程度は凹凸があるものなんだが、システム上で問題が起きるほどではないらしく、シャドウは正常な色を保っている。
再び生唾を飲み下す。緊張の一瞬だ。
「決定……どうだ!」
意を決して左クリック。……いや、正確には左クリックしたつもりになって右手を突き出した。
『うわあああ!』
「よし来たぁああ!」
俺が喜ぶより先に精霊さんが大げさに驚いた。
そう、ログハウスが、建った!
なんの警告もなくすんなり建ったので、懸念していた問題の一つも起きなかったようだ。はあ。これで一安心だ。
『う…うそでしょ。純粋な魔力が一瞬で、木の形で元素化した。それだけでも有り得ないのに、ちゃんと家の形で組みあがってる』
よっぽど有り得ない事らしく、背後から俺の首に回されている精霊さんの腕にこもる力が若干、いや、だいぶ強くなる。
「精霊さん、首、首」
『あ、ごめん』
だいぶ圧が。俺じゃなかったら折れるレベルじゃないのか。
いや、俺以外に触れる相手はほとんど居ないんだったか。じゃあ力加減を知らなくても仕方ないな。
「ともかく、これで第一関門は突破だ……」
完成したログハウスの軒下に踏み込む。ここからはもう設定された敷地内だ。
問題なくあがれた。精霊さんも一緒だ。
『ふぉ……。魔力が、濃い。のに、安定してる。なにここ、変』
再び首にかかる圧が増した。いい加減面倒なので精霊さんの腕をタップする。
『あ……ごめん』
「うん」
さて、ここまでしたのはこの次の行動のためだ。
俺はゆっくりと、ジョブウィンドウを呼び出し、《ジョブ・スキルを編集する》のボタンを押した。
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