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レオンは木ぃを、採る!

 カーン コーン トーン と小気味よく音がなる。


 俺は荷物置き場の心配をせずに張り切って精霊樹の森の木々から木材を採っている。


 あの後、精霊さんによる観察と解析は日が暮れるまで続いた。

 そのあいだ俺はただひたすら精霊樹の果実をドット絵化させ、ドット絵化した

《精霊樹の果実》を実体化させ、という作業を繰り返していたわけだ。


 肉体的な疲労感がステータスのST値と直結しているため、体が疲れたという感覚は全くなかったわけだが、代わりといっちゃなんだけど気疲れは相変わらずするみたいで、延々と続く単純作業は俺の精神を苛んだ……と思う。


 気づいたら翌朝で、そこに至るまでの記憶がないので何が起きたのかさっぱりわからない。


 ともあれ、俺がおきた時には精霊さんは基本的な術式をあらかた組み終わっていた。


 流石は精霊だ。この世界の精霊という存在は寿命を持たないらしく、誰かから滅ぼされるか、誰かに吸収されるか、どちらかが無ければ永遠に生き続けられるらしい。


 大樹の精霊さんがどのくらい生きているのかは知らないけど、いろいろと推察するに、この精霊樹と同い年くらいだと思う。

 この精霊樹はいくら特殊な力が働いてるからといっても雲を突き破ってそびえ生えているわけだから、数千年は下らないんじゃないだろうか。


 まあ、あくまで推測だけど。


 肝心の術式については、俺が起きた段階ではどうしても不完全で使えるものではなかった。


 その問題というのが、俺のインベントリ機能を再現するためには大量の魔力を消費する、という事。それも、術式の起動、というやつ最初に膨大な量の魔力を必要としたあと、その状態を維持するためにも少しずつ魔力を注ぎ込まなければならない、という事。


 起動のための火熾しの魔力は精霊樹が一年に集める魔力と同じくらい、これを一瞬で消費したあと、維持のためにかかる魔力も一時間につき、精霊樹が二日かけて集める魔力と同じくらい、だという。


 つまり、この術式は燃費がバカ悪いので、使い続けると精霊樹の森からゆっくりと魔力が失われ続けるという。


 俺は一時的な荷物置き場に使うだけだけで、それほど長い時間、精霊さんが作ってくれたインベントリ再現の魔法術を使うつもりはない、と言ったのだが、それはそれで難色を示されてしまう。


 最小サイズの家を建てるとして素材採集にかかる時間は長く見積もっても二時間程度。そのたった二時間のために一年分の魔力を消費したくない。それをする事で、精霊樹の森は一年間もこの豊穣さを失うのだと。


 そういう精霊さんの表情はとても硬く、本当は協力してあげたいけどそれに対するこの森の負担が大きすぎるので決められない、という感じだった。


 ならば術式の改良を、と提案したものの、これ以上の改善を精霊さんが行うには知識が不足しており、実際に術式とやらを動かしてみて、魔力の流れ方を見てどこに無駄があってどこを補強しなければならないのかなどを見極めなければならず、そうなると結局は魔力を消費してしまう事になるのだとか。


 そもそも、理論的には間違いなくインベントリ機能を再現できる事になっているが、実際に動かしてみて本当に再現できる確証は無かった。


 の、だが。結局、この問題はすぐに解決した。


 俺のインベントリの中にある《シャインウッドログ》を実体化させ、魔力燃料として使ってしまったのだ。


 実体化したシャインウッドログを純粋な魔力に変換するのも精霊さんにしかできない事なので、やっぱり精霊さんに頼りきりになってしまったが、精霊樹にたくわえられた魔力を使わなくても術式は問題なく動いた。


 動かしてみると、残念ながらインベントリ機能をそっくりそのまま再現できていたというわけではなかったのだが、その術式とやらが発動している範囲内では、俺の手から離れてしまってもアイテムが実体化してしまう事はなく、ドット絵の状態を保ち続けた。


 となれば、またも実験だ。


 セコンドテラのゲーム内では、プレイヤーの行動がきっかけとなって地面の上に直接ドロップされたアイテムは、誰も手を触れない状態が二十分も続くと、サーバーの処理負担軽減のために誰にも不要なアイテムと判断されデータの海の藻屑、とすらならず完全に消去される。


 その仕様を精霊さんに話し、精霊さんが作ったインベントリ機能再現の術式、改め、ドット絵化維持の術式の中でもその仕様どおりになるのかという実験に協力してもらった。


 結果は、ならない、だった。


 こうなるともう、仕様とこの世界の法則がどうせめぎあってるのかさっぱりわからないので、どこがどう作用したからこういう結果が出たのだろう、なんていう推測すらできないのだが、とりあえずこの結果は俺にとって都合がよかった。


 実体化させたシャインウッドログが魔力燃料としてとても有効だという事もわかったし、術式の起動もできた事で精霊さんも人間が使う魔術に少しだけ詳しくなって、その場で術式の改良まで行ってしまった。



 集めた木材の保管場所にも困らなくなったので、家を建てられそうな場所を見繕い、建てる家の大きさを決め、今はそれに必要な分の木材をせっせと集めている、というわけである。


 家を建てる場所は精霊樹の真南で、幹から5メートルほど離れた位置。建てる家の種類は、通称で丸太コテージと呼ばれていた、正式名称を《二階建てのログハウス》という南北に13メートル、東西に10メートルの大きさになる筈の建物だ。


 木材のみで建築可能な中で二番目に大きい建物で、一番大きい奴は《木の砦》という、17メートル四方の大きなものだ。《木の砦》にしかなかったのは、単純にスペースが足りなかった事と、砦という名のとおり居住性が悪い建物だったせいだ。


 そして、《二階建てのログハウス》に必要な木材は、通常種上位種どんな種類でも構わないが、丸太の状態で必要な数が一二,○○○本。丸太、板材問わず必要な数が

二○,○○○。合計で三二,○○○の木材を集めなければならない。


 ウサギ小屋と比べると二十倍以上違うわけだが、前にも言った通り、具体的な数字がわかりやすく書かれたプログラムは、妥協も譲歩も融通も一切してくれない。

 だから俺は、こうしてせっせと木を伐って、木材を採って集めて貯めるのだ。


「ふぃー」


 一時間ほどの樵作業で、重量の関係で運ぶのが面倒くさい丸太の収集は終わった。あとは二万枚の板材収集だ。


『おつかれさま』

「そちらこそ」


 建築予定地のすぐそばに資材収集場所として確保してもらった2メートル四方ほどのスペースに、今精霊さんが縛り付けられたような状態になっている。

 理由は簡単、実体化したシャインウッドログを魔力燃料として使うのに精霊さんの存在が不可欠だからだ。

 こうしてリアルタイムで魔力に変換してドット絵化維持の術式を動かし続けてもらわないと、三万もの木材がこのあたりにあふれてしまう。


『私の方は何も苦じゃないわよ。むしろ術式の効率を上げられたおかげで魔力の収支が黒字よ、黒字』

「そ…そりゃあよかった」


 精霊さんはたまに、俗っぽい事を言う。そういうのを聞くたんびに精霊さんから神秘性みたいなのが薄れていく。

 いやしかし、代わりに親近感が沸いてきた。……という事にしておこう。


「でもやっぱりその範囲に押し込めとくのは心苦しいんだ。なるべく早く集め切るつもりだから」

『うん。がんばってね』


 緑髪翠眼の美人にくったくの無い笑顔を向けられる。


 うん。親近感が沸いてきた。


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