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魔力についてのお勉強

 切る枝を変えても木材はえられなかった。

 こんだけ立派な大樹なんだから倍くらい採れてもいいじゃないか、精霊さんだって同じ事を百回繰り返しても無視できるレベルだっていってたのに。正直な感想はこうなんだが、できないものはできない。しかたない。


『ところで、何をしたの? ただ単に自分は木を切れないって事を見せたかったわけじゃないんでしょ?』

「ああ。うん。これを取ったんだ」


 インベントリから《シャインウッドログ》を一本とりわけて実体化させる。

 直径二○センチほど、長さは一メートルほどの立派な丸太だ。重さは……筋力値のせいかまったく感じない。


『わっ!』


 おおう。驚いた時にナチュラルに「わっ!」って言う人をはじめてみた。人じゃないけど。


『すごい……精霊樹と同じくらい強い魔力を持ってる。それも、切られた状態でこれほどの状態を保つなんて』


 なんかすごい事になってるらしい。


『これもあなたの魔法? 性質?』

「うん。さっきまでの行動はこれを取るためのものだったんだ」

『普通の人間も木を鉄で断って薪を得るようだけど、あなたの場合は断たれた木に傷をつけずに薪を得るわけね……ちょっと貸してもらっていい?』

「ほいよ」


 まあ、全部で二二○本もとれたし、シャインウッドを使わないといけない物を作る予定もない。なんだったらあれ一本くらいあげちゃってもいいんだけど、精霊さんはあれをもらっても使い道がないと思う。


『あなた、さっきまでの行動でこれを採った、といったわよね?』

「うん」

『やっぱりおかしい。精霊樹から減った魔力の量と、これの魔力保有量がどう考えてもつりあわないわ。減った分の魔力の五千倍はある。疑うわけじゃないんだけど、本当に今採った物? あなたが、自分の生まれた世界から持ち込んだのではなくて?』


 なんか疑われてしまった。それほどの物なのか?

 セコンドテラでの《シャインウッド》は確かに希少性こそ高かったが、これを使って作れる強い武器防具がほぼ一択で、それも上位互換を特定のボスから入手できるってんで、それほど有難がられる素材アイテムじゃなかったんだけど。


「いやあ、わざわざ持ち歩くような品でもないしなぁ……。ちなみにさっきから通算で、それと同じ物があと二一九本あるんだけど」

『はあ!?』


 うひっ。すごい顔をされてしまった。


『じゃあさっきから今までの短時間で、これと同じ大きさの丸太を二○○本も採ったって事!?』

「そういう事になる。が、正確には二二○本だな」

『おかしい。ますますおかしい』


 精霊さんはシャインウッドの丸太を持ったままその場にへたりこんでしまった。


「……えっと、俺、何かまずい事したか?」

『リオン、異世界人であるうえにそんな変な体質をもっているあなたにはわかりづらい事だとは思う。けどね、この丸太一本で精霊樹が十日かけて集める魔力量と同じくらいよ。それが二百ともなると、二千日。つまりあなたは、この精霊樹が五年ちょっとの歳月をかけて集める魔力を、この数分の間に生み出した事になるわけ』


「お、おう」


 語る精霊さんはすごい剣幕で、しかも具体的な数字を出してもらった事はありがたいんだが、ピンとこない。


「いや、でも俺が樵った瞬間に魔力がちょっと減ったって」

『そんなの、百回繰り返されても無視できるレベルだっていったでしょ。具体的に言ってほしいなら五秒くらいよ、五秒。一回で五秒だから一○回で五○秒、一分にも満たないわ。それだけの魔力と引き換えに五年分の魔力の塊みたいな物を、あなたは! 手に入れたの!』


 やっぱりまだいまひとつ理解できない俺がもどかしいらしく、精霊さんは説明するごとにだんだん語尾を強くする。

 けどピンとこないものは仕方ない。


 どうでもいいけど、美人は怒ってても美人だな。


 仕方ない、この美人のために何かに置き換えてみるか。えーっと、普通なら五年かかる作業を急にやってきたよそ者がたった一分で仕上げていった、とでも考えればいいんだろうか。


 いや、なんか魔力って自然に流れてるものみたいだし、そういうのを五年かけてコツコツ集めてきたって感じだろうか。

 そうだな、じゃあたとえば、子供が五年かけてコツコツ集めたバケツ一杯のドングリを、勘違いした大人が大人の力を使って同じだけの量をたった一分で手配して持ってこさせた、と考えるか。


「ああ、それはやる気無くすな」

『いや……はあぁぁぁ』


 俺なりに理解に努力したつもりだったんだが、なぜかすさまじく脱力されてしまった。


『確かにね……こんなに簡単に出されたらそういう気持ちもないではないのよ。けど違うの、そういう事じゃなくてね……』


 なんか急にドッと疲れさせてしまっている。

 よくわからないが申し訳ない。


『この丸太分の魔力はほぼ全て、何もない所から沸いて出たようなもの。こんな事を簡単に、頻繁にやられてしまったら、あっちこっちのバランスが崩れて大変な事になる』

「えっと、具体的には?」

『具体的……?』


 俺の質問は予想外だったのか、精霊さんは手に持ったシャインウッドの丸太を手に持ったまま固まってしまった。

 こんな簡単な質問も予想できないくらい動揺しているんだな、という事だけは理解する。


『そうね、もしこれだけの量の魔力がそのまま星に還ったら、まずその周囲の植物が異常成長する。運が悪ければ何本もの木がトレント化するだろうし、運よく近くにいた精霊が最寄の木に宿れれば、そのまま精霊樹の苗木に成長するくらいはありえる』

「ほ、ほう……」


 あの丸太一本でこの雲を突き抜けて聳え生えている木がもう一本生まれるわけか。


『でも、最も理想的なのは、魔力がその大地の一箇所にとどまらずに自然と広範囲に広がる事ね。何か一つの木や草だけが盛り上がるのではなくて、その地域一帯に魔力が行き渡れば神々が望む人間の繁栄にもつながるかもしれない。百体くらいなら野生動物を魔獣化させられるだけの魔力量よ』


 なに!?


「まっ…魔獣化!」


 またメジャーな単語が出てきたのでついテンションが上がる。


『そうよ? 魔法を使えるようになった獣が魔獣。これは教えたでしょう?』

「うん」


 あわててメモ帳を開いてそのページを開く。


『普通の子達が魔法を使えるようになるには大まかにわけて二つ、長く歳を経るか、強い魔力に晒され続けるか。前者は、育つ場所にもよるけど百年は行き続けないとダメ。後者なら、一ヶ月も高い魔力に晒され続ければ魔獣化する』

「うん」


 ここまではおさらいだな。


『付け加えるなら、後者の場合はたいてい、精神の方が急激な変化にたえられなくなって凶暴になってしまう事が多いようね。特に人間に多く見られる傾向みたいだけど』


 ああ、勘違いして増徴ね。あるある。っていうか、聞く聞く。

 そういう意味では俺も気をつけないといけないのかな。

 って、


「まてまて、それがなんで人類の繁栄につながるんだ?」

『え? だって、人間は逆境に立たされるほど進歩する生き物なんでしょう?』

「それは、いや……確かにそういう人たちもいるけど。たいていは魔獣どころか、普通の熊やら猪が出て来ただけでも大騒ぎになるぞ……」


 人類という種の全体を見れば確かにそうかもしれないが、百体も凶暴な獣が現れるなんて自然災害以外の何者でもない。しかもそいつらが何らかの魔法を使ってくるなんて、ただの悲劇、悲劇をこえて悪夢だ。


 確かに、いずれは乗り越えられるだろうけども、それまでにどれだけの犠牲者が出るかわからない。


「じゃあ、その丸太一本はあるだけでそれを引き起こす可能性があるって事か?」


 いまさらながら、自分の性質を理解して軽く戦慄する。


 そんな物を簡単に手に入れられるなんて、俺は、どうなってるんだ。


『え? あるだけならそんな事にはならないわよ。確かにすさまじい魔力を内包しているけれども、ちゃんと丸太の形でこんなに安定しているから、誰かが強引に分解して純魔力にまで還元しなければそんな事にはならないわ』


 え? ん? ん?


「でも、魔力に晒されてるだけでも魔獣化はしちゃうわけだろ?」

『ええ』

「その丸太は魔力の塊なわけだろ?」

『そうね。そうだけど。ああ、そういう事ね』


 なんか一方的に納得されてしまった。釈然としない。


『この世界の全ての物は突き詰めると全て魔力でできている、という事も教えた事があったわね?』

「うん」

『だから、この丸太に限らず、この世界のあらゆる物が言ってみれば魔力の塊なの』

「うん」


 ここまでは理解できている。……と、思う。あれ? じゃあ待てよ。


「だったらこの世界のあらゆる全ての獣が魔獣化しちゃわないか?」

『そう。その可能性は誰しも持っている。魔力が元素化した状態の“肉体”を持ったあらゆる生物がね。だけど簡単にそうはならない』


 元素化、というのは、火、風、水、土のいずれかの形になった、という意味だった筈だ。つまり地球的に言えば、物質化した状態、だから、つまり、肉体を持たない、という意味になるだろう。

 あれ、噛み砕いたつもりなのに余計ややこしいか?


『ほら、聞くのに集中する』

「あ、すみません」

『つまり、魔力には大きくわけて、純魔力と、元素化した魔力の二つの形があるわけ。元素化した状態の魔力は基本的に安定して、ほかの魔力にはほとんど影響を与えない。元素化してない純魔力がいっぱいある時にはじめて、その魔力は他の魔力に影響を与える、というわけ』


 ……よくわからない。


「えっと、じゃあ、強い魔力を秘めているというその丸太は、常に周りに、その純魔力を放っているというわけでは、ない?」

『うーん、言葉が足りないけど言いたい事、心配してる事はわかる。答えは、放っているわけではない、よ。この丸太が丸太である限りは、強い力を秘めてはいるけどただだの丸太よ』


 やっぱり、純魔力とか元素化した魔力とかはよくわからないけど、一つ勘違いしていた事だけはわかった。


 俺は、魔力を一種の放射線のようなものだと思っていた。それに当たる事で変質、汚染され魔獣化する。

 魔獣化という言葉の響きがもうなんか禍々しくて恐ろしいから、というのもあるけど、勝手にそう思い込んでいた。


 だから、精霊さんに恐ろしいほどの魔力を秘めていると言われたシャインウッドは、高い放射能を持つ放射性物質のようなもので、そこにあるだけで周囲に放射線を撒き散らして周囲を汚染する恐ろしい物なのだ、と。

 べつにそう言われたわけでもないのに、勝手にそう思い込んでいたわけだ。


「けど、それを、その、純魔力にまで分解してしまったら、さっき言ったみたいな事が起こりえるわけだな?」

『そうね』


 だからといって、この世界にあってただの丸太と同じように扱っていい、というわけでもなさそうだ。


 ほんと、この力、この性質は、いったい何なのだろう。


 まだ、俺はもっとちゃんとこの性質について知らなければいけない。


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