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スキルで木ぃを、切れない!

 一瞬で変貌した世界におれは戸惑う。


 そんな俺を見ながらなぜか精霊さんも驚いて、戸惑っている。しかも俺だけを見てるんじゃなく、しきりに辺りを見回している。


『な、何をしたの?』

「何が、変わったんだ?」


 何かをした自覚はある。そのせいで俺から見ているこの世界も風景が一変してしまっているから。


 いや、一変というか、拡がったというか、増えたというか。奇妙だがちょっと懐かしい感覚だ。


『……見られている感覚があるのよ。たぶん、あそこに、私にすら見えない目がある』

「ああ、その通りだな」


 そういって精霊さんは南東の方角、斜め45度上の方向を指差した。

 そしてそこには、新たな俺の目があった。


 そう、俺には視点がひとつ増えてしまったようだ。


 自分の身体の肉眼から見えている世界は、今もちゃんとある。

 ところが同時に、ゲームの時と同じ感じに見下ろすような視点が増え、森の木々に囲まれた俺自身の姿と、新たに増えてしまった俺の目に向かって指をさす精霊さんの姿が見えている。


 まったく別々の位置からの視覚、視点が増えたら混乱しそうなものだけど、俺は二つの視点から同時に見るという感覚をまったく違和感なくすとんと受け入れていた。


「あれも俺の目だ。気持ち悪いか?」

『気持ち悪いとは、少し違うんだけど。いや、ううん。こういうのも気持ち悪いというのでしょうね。でもなんていうか、今までになかった感覚というだけで、意外と嫌いではないわ』


 気持ち悪いけど嫌いじゃない。なんか、なまめかしい発言が出た気がしたが。見られるのが好き……なんだろうか。


 いやいや。いかんいかん。

 今は生存者の捜索だ。


 今まではこの体についてるほうの眼球から見て動物だと認識できた相手にしかターゲットを合わせる事ができなかったが、見下ろし視点を得た事で。生身の視界の外にある相手にもターゲットを合わせるように意識できるようになったはず。


 これは、生存者の探索にも利用できそうだ。


 うっかり攻撃してしまったら元も子もないので武器はしまう。戦闘態勢を解くように意識すると、弓矢と矢筒は一瞬で光の線になって消えてしまう。

 ふむ、この光る演出はゲーム中ではなかったな。いつも、いつの間にか手に持っていて、いつの間にかなくなっているものだった。

 装備ウィンドウには常に武器を装備した状態で写ってるんだけどな。


「よし」


 これで《マルチロック》を使った瞬間に矢を射掛けるという事はなくなった。


 肉眼でも見下ろし視点でも――よびづらいから天の眼とでも呼ぶか――肉眼でも天眼でも俺の素の識別能力ではどこにも生物なんて見えない。


「マルチロック!」


 《ステルス》の状態になる時のように、声を出してはいけない縛りはない。なのここはなんとなくきっちり技名を叫んでみた。

 すると、俺の体からふんわりと何かが出たような気がした。


『あら。うっすらとした魔力を、放った?』

「そうなの?」


 何をしたのかもうまく説明できないんだから、何が起きたのかなんてさっぱりわかってないんだけど。


『ええ。これは、どういう魔法なの?』


 いや、だから上手く説明……いいや、適当に何か言おう。


「生き物を探す魔法なんだ」

『そ、なるほどね』


 ざっくりとした事しか言ってないが、精霊さんはあっさり納得してくれた。そういえば細かいメカニズムの説明まで求められたおぼえはないな。

 俺が難しく考えすぎなのか?


 ううむ。


「とりあえず、この辺りにはいなさそうだ。蜘蛛の巣を撤去しながら奥の方に進んでみよう。精霊さんは俺より広い範囲を探せる筈だから、先行して生き残ってる動物が居そうなら呼んでくれ」

『わかったわ。といっても、ここにもう生き残りが居なかったとしてもこれ以上森のバランスが崩れるような事はないのだけどね』


 ……そうなのか。

 いや、でも。今後もセコンドテラオンラインというゲームの中にあったアイテムとまったく同じアイテムをこの世界で入手できるとは限らない。俺の使える資源集めという目的も含めて、張られている巣を片っ端から片付けていくのは、無意味じゃないと思う。

 《蜘蛛の巣》には重さが設定されてないからいくらでももてるしな。


「まあ自己満足だといわれればそれまでなんだが」

『うん。人間であるあなたには、森のこんな状態はたいそうな惨状に見えるのかもしれないけれど、森全体で見ればそれほど気負う必要はない。そう言いたかっただけよ』

「ああ……ありがとう」


 精霊さんの気遣いだったか。

 俺はそんな顔してたんだろうか。ちょっと心苦しい。


 精霊さんはそれだけ言いっぱなしで俺から離れて生存者探索に行った。俺も宣言どおり、手の届く範囲の蜘蛛の巣を片っ端からアイテム化させインベントリにぶちこみつつ、少し歩いては《マルチロック》を使い、反応がない事を確かめてはまた巣を片付けるという作業を繰り返す。


 たいへん地味な作業で、自分でやると言い出しておいて30分も経たないうちに飽きてきてしまった。

 何か、この作業と同時に確認できる《スキル》はないかとスキル欄を探してみる。


「あ。そういえばこんなのもあったな」


 見つけたのは《伐採》と《錬金術》、そして《製図》のスキルだ。


 あと、3ジョブに《ランバージャック》をつけている。

 和訳すると“きこり”、林業従事者で、一次生産職に分類されている。

 ジョブボーナスは《伐採》スキル使用時の成功率にプラス5%と、《伐採》成功時の木材収穫量の一割り増し。更に《伐採》スキルが100である場合に副次産出物を入手する可能性を追加する、という文字通り《伐採》に特化した《ジョブ》だ。

 しかも、3ジョブに入れてあるがジョブボーナスの減衰は起きない。


 これに限らず一次生産職に分類されるジョブは分野が変わるだけでどれもどこかに特化する形になる。

 例えば《マイナー》なら鉱石や宝石の採掘全般。《フィッシャー》なら《漁獲》スキル周りに特化してそれ以外への応用はあんまりきかない。


 おかげで各生産系の《ジョブ》の構成スキルはほぼテンプレート化されていて、できる事が無数にあるセコンドテラの世界でつい目的に迷ってしまう初心者でも入りやすいものだった。

 ただ、気安く入れても続けられるかどうかは別問題だったんだけどな。


 っとと。また昔話にそれる所だった。


「ぽんぽんぽぽぽん、と。これでいいかな」


 ちょうど目の前にあった木にまとわりついていた蜘蛛の巣を手早く取り除く。

《蜘蛛の巣》はまた4つほど追加だ。


 きっちり幹が露出した状態で俺は装備を変更する。矢筒はそのまま残し、弓矢の代わりに取り出したのは《ハチェット》という斧系武器だ。


 ただ単に《伐採》スキルを使うためだけならこの《ハチェット》じゃなくてもいいんだが、樵斧という異名をもつこの武器は全斧系統の武器の中でもっとも重量が軽く、

《大工》スキルを使うためのツールの簡易版としても使えるため、戦闘目的じゃないならこれ以外を使う理由がないというくらいの品だ。

 俺は《大工》スキルも取っているから、大工ツールも別に持ってるんだけどな。


「さて、ゲーム中での使用方法なら、斧をダブルクリックして対象を選択、だったが」


 食事の摂り方が二通りあったんだ、こっちもおそらくそうだろう。

 まずは仕様どおりに、斧をダブルクリック、したつもりになって握る右手の人差し指だけをタンタンとタップする。


 お、なんか手ごたえ。


 では対象の指定は、《ハチェット》の先端で木の幹を小突く事で代用してみる。


 すると、体が勝手に動いた。


 当然ながら今までリアルで木の伐採なんて一度もやった事がない俺が、それどころかまともに斧を持った事さえなかった俺が、自分ですら美しいと思えるフォームで横からまっすぐ一文字に幹に斧の刃を振り付けた。


 コーン と小気味よい音がなる。


「おお、なんか楽しいな」


 よし、なんとなく正しいフォームは覚えたぞ。少し斧をゆすって刃を抜き再びふりかぶるが、俺はそこで動きを止めてしまった。


「あ、あれぇ」


 確かに、斧の刃は幹に深々と食いこんでいたはずだ。しかし幹に斧が刺さっていたような痕はなく、小さな傷すらついてない。

 なんだこれは……


《あなたは斧で丸太を採り鞄にしまった:11》


 ぐはっ!


 ここでまた見慣れたシステムメッセージが脳裏に響く。《伐採》スキルが成功した時の奴だ。


 なるほどなー、そうなるのかー……


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