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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第五章 笑顔とともに
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5‐1 眠り姫

 今回の更新で小説家になろうに「虹色のカケラ」投稿をして一年が経ちました!

 ここまで書き続けてこれたのも、読んでくださる読者さまのおかげです!

 この場を借りて改めてお礼を言わしていただきます。

 本当にありがとうございます! 大変感謝しています。


 さあいよいよ第5章更新開始です。

 新たななる展開を見せる、虹色のカケラ。

 今後も頑張って執筆し、完結へと持って行きますので、よろしくお願いします。

 ――――その笑顔は何時(いつ)だって人々の心を癒した。






 * * *






 真っ暗な闇が広がる中で、小さな白い手はカーテンを思いっきり横に引いた。耳の奥にまで爽快に響くかろやかな音は心の中までも伝わる。

 開かれたカーテンからは、思わず目を瞑りたくなるような眩しい朝日が差しこんできた。

「今日もいい天気だな」

 イリスはどこまでも広がる空に目を向けながら、微笑を浮かべた。窓も開けると心地よい風が吹きこんでくる。その風の感触を確かめると、窓に背を向け視線を落としながらぽつりと呟いた。

「シェーラさんにもこの風景を見せたい……」

 視線の先には、一人の黒髪の娘がベッドの上で眠っていた。

 緩やかに呼吸はしているが、目を覚ましてはいない。

 あの日からもう十日が経過していた――。



 * * *



 無事に研究所から脱出をした一同は、研究所にいた研究者と純血の人達を連れて急いでその場から離れ、ネオジム島へと向かった。用済みと悟った研究者達は、ここにいるのは危険だと判断したらしく、ひとまずレイラ達に付いていくことにしたのだ。

 途中でダニエル達とも合流し、怪我人や意識を取り戻さない人を手分けして運んで行った。ノクターナル兵士と遭遇しないように、なるべく目立たない所を通りもした。だが大所帯であり、また腕に優れたものが半分以上も占めるため、迂闊に近づいてくる人はいなく、意外にも遭遇することはなかった。

 無事にネオジム島へ渡り切ると橋の近くの町で一休みをし、急いで町の病院へクロウス、シェーラ、アルセドを連れて行った。幸い三人とも命に別状はなく、しばらく安静にしていればいいということだ。その町で、クロウスとアルセドは意識を取り戻したが、シェーラに関しては未だに取り戻してはいない。そして操られていた純血の者の一部もまた目を覚ましてはいない。

 やがて、いつまでもその町にいるわけにもいかず、この状況をわかってくれそうなネオジム島の町、ノベレへ再度移動する。

 ノベレに着くと、すぐにゲトルの屋敷に向かった。ゲトルはすぐに承諾してくれて、空いている部屋を貸し出してくれた。そこをしばらくの拠点として、事後処理をし始める。

 数日後、レイラはルクランシェ達を連れて、一度魔法管理局へと戻ったのだ。

 イリスはそれを見送りながら、毎日三人の世話へと勤しんでいた。



 * * *



 イリスはシェーラが眠っている部屋を出た後、真っ直ぐクロウスとアルセドの部屋に向かう。二人の怪我の回復は良好で、支えさえあれば歩けるほどになっていた。

「おはようございます、クロウスさん、アルセド君」

 おずおずとドアを開けると、元気な声がイリスの耳に入ってきた。

「おはよう、イリスさん! 今日も可愛いね!」

「アルセド、朝から口説きに入るな。おはよう、イリス。毎日ありがとう」

 シェーラとは違い、さりげなく突っ込むクロウス。その何でもない光景がイリスにとっては嬉しい。

 一週間以上前はそんなことはできなかった。ずっと横たわったままの二人。言葉すら発するのに労力を要する。それが見ていて居た堪れなかった。

 しかし二人はみるみる内に回復していき、イリスの心は少しずつ安堵していったのだ。

「ちょっと待っていてください。リンゴでも剥きますね」

 クロウスとアルセドが並んでいるベッドの間にある、果物をたくさん入れた籠から真っ赤に輝いたリンゴを一つ取り出す。トルナが買ってきてくれたものでどれも美味しい果物だった。

 イスに座り、ナイフを取り出すと流れるように剥き始める。それをクロウスは横目で見ながらさり気なく尋ねてきた。

「シェーラは……まだ眠ったままか?」

「……はい」

 それしか答えることができない。目覚める兆候などイリスには分からないが、まだまだ眠り続けるだろうというのは直感的にわかっていた。それでも不安な気持ちを振り払うかのように、無理して笑みを浮かべる。

「レイラさんも言っていたじゃないですか。しばらくは目を覚まさないけど、心配してはいけないって。操られたということは、相当心に負荷が掛かっているんです。操られた純血の方たちも数日目を覚まさなかったじゃないですか。それにシェーラさんは相当な魔法を使われたんです。まだ目は覚めないでしょう」

「そうだな。だけどつい気になって……」

「当然の行為ですから構いませんよ。大切な人を想うのはいい事なのですから、気になるのはしょうがないです」

 その言葉を聞くとクロウスはイリスから視線を避け、(おもむろ)に本を取り出した。シェーラと違いあまり表情には出さないが、この様子は照れているのだ。追い打ちをかけるようにアルセドがにやついている。

「クロウスも可愛いところあるんだな」

「アルセド、あまりにも言葉を慎まないと、シェーラじゃないが怒るぞ」

 微かに出ている殺気を感じ取ったアルセドは渋々と口を窄ませる。イリスはそれをよそに、切ったリンゴをお皿に乗せていった。あっという間に、部屋はリンゴの甘い香りでいっぱいになる。

「さあどうぞ食べて下さい。トルナさんの想いが詰まったリンゴですよ」

 アルセドはすぐにリンゴに飛び付き、両手で持ちながら口に頬張らせる。クロウスもそっと摘まんで、人齧りした。イリスも控え目にリンゴを食べ始める。しばらく部屋の中は無言だった。アルセドは一つ食べ終わると、次々に皿に入ったのを食べ始める。

 そしてすぐに皿の中は空になった。アルセドは食べ終わると大きく伸びをする。

「朝から美味いもん食べた! リンゴって美味しいよな」

「ええ。私も大好きです、リンゴ。また剥きに来ますね」

 イリスは椅子から立つと、使ったナイフと皿を手に持ち、入口へと歩いて行った。亜麻色の髪が(しと)やかに揺れる。入口まで行くとくるっとクロウス達の方に向き直った。

「それじゃあ、またお昼にでも来ますね。早く良くなることを祈っています」

「待っているよ! イリスさん!」

「また後でな」

 手をぶんぶん振っているアルセドと小さく振っているクロウスを見て、イリスはにこりと微笑む。そして部屋を後にした。

 台所にナイフと皿を返すと、イリスは寝泊まりしている部屋へと戻る。一人で寝るには充分過ぎる広さだ。一直線に机まで歩いて行き、その上に置いてある本を三冊程持ち上げ、ペンと紙を持つと再び部屋を出た。

 向かう先はノベレの町にある図書館。きょろきょろ目を動かしながら、こっそりと外に出ようとする。だが涼しい顔をして腕を組みながら待ち構えている、日焼けした肌の青年が目に付いた。イリスはどきっとしながらも、静かに横を通り抜けようとする。

「イリス・ケインズさん、今日も図書館へ?」

 イリスはびくっとしながらスタッツの方へ視線を向ける。見下ろす形になっているスタッツはにこやかに質問をしていた。イリスはその返答になるべく平常心を装いながら、何の悪びえもなく頷く。

「ええ、そうですよ。急いで翻訳のほうを進めたいと思いまして。局へ移動するまでになるべく出来るところまでやりたいんです」

「そうだね。古代文字をスラスラ読めるのは、知っている限りじゃイリスさんしかいないから。その心がけはいいと思う。だけど……」

 スタッツはイリスの目の前に立ち、手を腰にやり、少し口を尖らせた。

「前から言っている通り、外に出るときは誰かに声をかけてから行ってくれと。イリスさんが持っている書は今、兵士が喉から手が出るほど欲しいもの。そしてイリスさん自身も欲しい対象。それらが護衛もなしに動くのはどうかな」

「すみません……。私の用事にいちいち付き合わせてしまっては申し訳ないと思い」

「申し訳ないと思うのなら、せめて声をかけて行ってくれ。心配する方が傍で護衛をするよりずっと辛い。シェーラさんだってそう言う筈だろ?」

 イリスの肩がさらに敏感に反応した。今のイリスにとって、シェーラのことを持ち出されるのは何より痛いのだ。

「……わかりました。スタッツさん、今からノベレの図書館の方に行ってきます」

「ああ。俺も一緒に行こう。ちょうど調べものをしたいし」

 スタッツはそっと横に立つと、軽々と虹色の書以外の本を取り上げた。何かを言う前に、すぐにスタッツは歩きだしてしまう。それを慌てて追いかける。

 しばらく無言の時間が続き、程無くして図書館の方に着いた。二階建ての図書館で、ビブリオにある大きな図書館とは比べ物にならないくらい小さい。中はぱらぱらと人がいる程度で閑散としている。

 イリスは一番壁際の机に本を置いた。スタッツもそこに他の本を置く。

「集中できないと困るから、近くにはいるが特別な用がない限りこちらからは話しかけない。ただし帰るときはちゃんと言ってくれ」

「わかりました。いつもありがとうございます」

 ぺこりとお辞儀をすると、スタッツは気にしないでくれと言わんばかりに手を振り、背を向けて行ってしまった。

 スタッツにこういう風に護衛をされるのは初めてではなかった。前にも二、三回ほどある。そして名乗りだして護衛されなかった日でも、何となく感じる後ろの気配からスタッツが後を付けていたのはわかっていた。クロウスやアルセドに言われたからもしれないが、毎日イリスの場違いな行動を無理矢理やめようとはせず、やることを尊重してくれていて、とても嬉しく思っている。

 申し訳ないと思いながらも、やはり図書館で翻訳する方が能率は上がるし、何より資料が揃っているので、いつも無理にでも来ていた。スラスラ読めるとはいっても、回りくどい言い方や訛りのようなものは上手く訳しづらい。そこで辞書の必要性が出てくるのだ。

 イリスは虹色の書を目の前に持ってくる。一ページ目を開き、魔法管理局局長が書いた字をじっくり見た。そして訳したページまで一気に捲り、ペンに神経を集中させ、訳し始めた。



 昼過ぎになり、イリスとスタッツはゲトルの屋敷に戻った。深い溜息を吐きながら歩くイリスの姿に、スタッツは思わず声をかける。

「イリスさん、どうしたの?」

「……さっき訳していたページが全く進まないんです。回りくど過ぎて意味がよくわからなくて」

「古代文字はかなり前のものだろ? 今と考えや言い方が違うのは仕方がないじゃないか」

「そうですね。でも困りました。これでは進みません」

 肩をしょんぼりとさせ、とぼとぼとイリスは歩く。これ程このような姿が似合わない人は今までに会ったことがなかったとスタッツは思う。

 常に皆に笑顔を振る舞い、人々の心に潤いを与える少女。時に危険な過去を持つ相手と対峙しているスタッツにとって、とても新鮮だった。アルセドもご執心する訳だと、頷けるものだ。

 ゲトルの屋敷に戻ると、朝よりも人が多いことに気づく。スタッツは一瞬身構えたが、見たことのある顔がいるのに気付くとすぐに警戒を解いた。イリスも表情をいつもの明るさに戻し、その人達に向かって駆けだす。

「レイラさん!」

 颯爽と立っている金色の髪をした女性は、イリスの声を聞くなりすぐに振り返った。

「あら、イリスちゃん!」

 息を切らせながら、イリスはレイラの前に立ち止まる。

「お久しぶりです。もう戻ってきて大丈夫なんですか?」

「ええ。厄介なことはメーレに押し付けてきたから。まあすぐに戻るという条件だけど」

「すぐに戻るんですか?」

「そうよ。今度はみんなを連れてね」

 レイラはそう言うと、庭の外れに目をやる。そこには今までなかったものがあった。

「馬車ですか……?」

「そういうこと。純血の人達を早く安全な所に匿う必要があるでしょう。それにクロウス君やアルセド君の回復も良好だし、これならシェーラも連れて行ける。いい加減、この()に早く起きて欲しいもの」

 レイラの横顔を見ると、そこはどこか憂いを浮かべていた。おそらく誰よりもシェーラのことを知っているからだろう。そんな彼女の様子は今のシェーラの様子が、いかに異常な状況であるかということを物語っていた。



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