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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第三章 交錯する想い
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3‐1 情報網

 いよいよ物語が動き始める第3章突入です。

 今章は前章よりも様々な面で動きます。

 よろしければ、引き続きお読み頂けると幸いです。


 ネオジム島ノベレで起こった謎の爆発事故は、瞬く間に局を駆け巡った。連絡が取れない魔法管理局員は、事件部と情報部、そして総合部の人達が数名ずついる。

 レイラはすぐに緊急会議を開き、各部の部長達と会議室の中に閉じこもってしまった。

 シェーラは同僚が巻き込まれたかもしれないと知り、必死に局中を走り回って情報を集めようとした。だが、まだほとんど局に情報が入ってこない状態では、それも無駄足に終わっている。

 今は白い壁が目につく食堂で、浮かない顔をしながら椅子に座り込んでいた。目がどこか虚ろである。

「シェーラ、大丈夫か?」

 クロウスは心配そうな顔で覗き込む。

「私は大丈夫」

「……情報が入ってこないんだってな」

「うん。ネオジム島でも混乱しているみたいで」

「レイラさんは誰か派遣したりしたのか?」

「したよ。さっきダニエル部長を筆頭に事件部の人が一組、外に出て行くのを見かけた。こんな顔をしていたら、『全員連れて帰ってくるから、心配するな』って、言われちゃった」

 シェーラは引き攣りながら、軽く口元を緩ませる。

 クロウスはそんなシェーラを見ていられなかった。無理して笑う顔、そして本当なら今でも飛び出していきそうなのを、必死に堪えている様子が。その様子にクロウスは思わず、“情報”に関連がある昔の友人のことを口に滑らせていた。

「シェーラ、俺の友達にネオジム島で情報屋やっているやつがいるんだけど……」

 シェーラはがばっと立ち上がり、食いかかるようにクロウスを見返す。

「その話、詳しく聞かせて!」

 クロウスは頷き、目に灯火が戻ったシェーラを座らせ、自分もその真正面に座った。

「ノクターナル島にいた頃に知り合ったやつで、今、ネオジム島の首都を中心に商売をしているんだ」

「それで、情報屋というのは?」

「商売の傍ら様々な人に会うから、流れ者の話をたくさん聞いている。それに自分から裏の世界の情報を仕入れていたりして、色々と情報には精通しているらしい」

「その情報の信用度は?」

「かなり正確だな。そして速い。ネオジム島の首都で号外が出る数時間前にはほとんどその中身を把握している」

「……それって、あまりにも凄過ぎて、逆におかしくない?」

 シェーラは疑わしい眼差しを向け、クロウスの言葉を詰まらせる。

 情報屋の素性をすべて知っている訳ではない。正直言って、裏でどんな人とつるんでいるかということもよくわからない。だから、何度か接した感覚でしか判断できなかった。

 それでも一緒に過ごした日数は今までの人生の中でもっとも濃いものであり、そこから信用に足りると思っていた。クロウスはより神妙な顔つきで答える。

「信用はできると思う」

「だから確証は?」

「……俺の心がそう判断している」

 その言葉を出すと、シェーラは思わず吹き出した。クロウスは、眉を顰めながら不可解な行動をする彼女を見る。

「何だよ、一体……」

「だって、真面目な顔でそんなことを言うから」

「吹き出すなんて、かなり失礼な態度だな」

「悪かったわ。わかりましたよ、クロウスを信用してみる。とりあえず連絡取れる? けどすぐには連絡取るのは難しいか」

「いや、電話が繋がっているから、電話さえあれば」

「へえ、電話繋がっているんだ。わかったわ。あんまり周りの人に聞かれたくないから、私の家でしましょう。内線をいじれば外線も使えるんだ」

 すっかり顔が明るくなったシェーラは、意気揚々と立ち上がり、クロウスを自分の家へと連れていく。部屋に着き、中を見たが誰もいなかった。

「お母さんは外に出ているみたいね。説明するのが省けて楽だわ」

 シェーラはずかずかと家に入っていき、クロウスもそっと中に足を踏み入れる。そして、部屋の一角にある電話の前に立つと、回線をいじり始めた。何ども外部に連絡を取ったことがあるのだろう、非常に慣れた手つきである。

 その間クロウスは手帳を取りだし、たくさんの電話番号が書かれたページを開いた。そのページをちらっと見ると、シェーラは口を開けたまま驚く。

「クロウスって、人脈広いのね」

「いや、一人旅している時に知り合った、宿の人や仕事を与えてくれた人のだよ。ほとんど使ったことのない番号だが。さて、電話してもいいか?」

「ええ、いいわよ」

 受話器を持ち上げ、ダイヤルを回し始める。回し終わると二、三回コール音が続いた後に、元気がある調子の良い声が聞こえた。

『どうも毎度ありがとうございます! 様々な島の骨董品を扱っております、“骨董品アンチクエ”でございます』

 クロウスは聞いたことがない声を耳にし、思わず口を開くのを止めてしまう。シェーラはそんな様子を見かねて、横から軽くつつく。

 はっと我に戻ると、『もしもし?』と言っている声に対して、クロウスは慌てて返答した。

「すみませんが、そちらにスタッツ・リヒテングさんはいらっしゃいませんか?」

『店長のことですね。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?』

「クロウス・チェスターです」

『チェスター様ですね。少々お待ち下さい』

 クロウスは知り合いがいるようだとわかり、胸を撫で下ろす。ごそごそという音がすると、受話器からは懐かしい低い声が聞こえてきた。

『お電話替わりまして、リヒテングでございます。ご用件は何でございましょうか?』

「クロウス・チェスターです。久しぶり。……俺のこと、覚えているかい?」

 ほんの少し間が空く。

 手を打つ音が聞こえると、嬉しそうな声で話しかけてきた。

『ああクロウスか! ノクターナル兵士で、今は国を旅している。元気か?』

「元気だよ。スタッツも元気そうでなによりだ」 

『俺はいつでも元気さ。最近は自分で骨董品を集めるのにも凝っていてね。時々出歩いているよ。それにしても、急にどうした。俺が集めた骨董品でも買いたいのか?』

「いや、そうじゃなくて……。一つ、情報が欲しいんだ」

 スタッツの声が急に真面目になる。

『情報か。クロウスも急にどうしたんだ? 情報が欲しいって』

「すぐに知りたいことがあって。自分でも情報を得ようとしているが、現地の方でもまだ治まっていないらしく、情報が流れてこないんだ」

『……ノベレの爆発のことか』

「ああ。スタッツなら、何か知っていると思って」

 スタッツは少し思案しながら、会話に間を作る。

『――発生してから数時間しか経っていないから、あまり情報はないが。クロウスが今いるところでは、どんな情報が入っているんだ?』

「デターナル島のミッタークで、ノベレで謎の爆発事故が起こったとしか」

『へえ、デターナル島にいるのか。俺が今知っているは、死者が二人ほどで、重軽傷者がそれなりにいるってとこくらいだな』

「死者が二人……」

 シェーラは肩をびくりと震わせる。そしてすがる様な目で、クロウスに今思っていることの代弁を頼む。

「その死者って、どこの人かわかるか?」

『正確なことはわからないが、ノベレの一般市民だったかな。他の島の人ではない』

「そうか、ノベレの住民達か……。不運だな」

 その言葉を聞いて、シェーラは、はあっと深く息を吐く。亡くなった人には悪いが、少しは気持ちが楽になったようだ。

『そうそう本当に不運なんだ。小耳に挟んだ限りでは、原因は炎の魔法で、町はずれの小さな倉庫を中心に爆発したらしい。人なんてそうそう近づかないな』

「それって、愉快犯……?」

『そう考えるのもあると思うが、俺の直観としては誰かに対して誘っている様な感じがする。とにかくまだ続くぞ、この事件は』

 クロウスはその言葉を聞いて、顔を強張らせる。シェーラもその変化に気づき、再び沈痛な表情になっていた。



 レイラは会議の休憩中、一息吐くために、副局長室に戻っている。

 会議中に入った情報により、死者はデターナル島の住民ではないとわかり、皆安堵していた。だが、連絡の取れない人達が怪我をしているかわからないし、犯人が何を目的にやっているのか見当がつかず、会議は難航を極めている。

 ネオジム島にすべてを任してもいいかもしれないが、原因が魔法であるかもしれないという可能性が高いので、最も魔法に詳しい魔法管理局でも動かなければならなかった。しかも、これが連続事件の始まりなら、尚更だ。

 何年か前にもデターナル島で、こういう魔法を使った中規模な事件が起こったことがある。その時は、局長の的確な指示ですぐに犯人も捕まった。それは、レイラがまだ二十歳くらいの時だ。

 当時のことは何となく覚えている。特に局長の後ろ姿ははっきりと。

 副局長室の椅子に座り、顔を手で覆いながら、溜息を吐く。そして、誰かに囁くように呟く。

「ノベレで起こったことは、場所として果たして偶然? ノクターナル兵士が一枚絡んでいる、いや原因? 一刻も早く回収した方がいい? ねえ先生、教えてください……」

 顔をあげて、見つめる先には誰もいない。ただ、机の上に古びたノートが目に付くだけ。

 そして、弱音を振り払うように、首を激しく何度も横に振り、気合いを入れなおすように顔をパンッと両手で叩く。

 そして、昔起こった事件の資料を集め始めた。



 電話を切ったあとは、二人はまったくしゃべらず食堂に戻った。事件が続くと言われたが、何をしていいか言葉に詰まってしまう。

 食堂に戻ったのは、何か新たな情報がないか小耳に挟む為だ。だがこれといってはなかった。

 重い沈黙を打ち破る様に、シェーラはのそのそと口を開く。

「スタッツさんとクロウスは仲いいの?」

「どうだろう。時間と場所が合えば、会うくらい。ただ、信用はできる奴だ。それははっきり言える」

「いい人なのね」

「いや……、かなり腹黒いよ。そうでもしなきゃ、情報屋なんて、勤まんないらしい」

「それもそうか。一度会ってみたいな。――あれ、イリスだわ。おーい」

 食堂を小走りで入り、古そうな本を抱える少女を見ると、シェーラは手を振って場所を示す。イリスはそれを見ると、顔が明るくなりすぐに駆け寄ってきた。

「こんにちは! やっと会えましたね」

「私のことを探していたの?」

「はい、さっきレイラさんに頼まれました。あと、クロウスさんも」

 クロウスは目をぱちくりとしながら、自分を指で示す。

「俺も?」

「そうです。次の会議の休憩が一時間後らしく、その後二人に副局長室に来てくれと言うことです」

「一体、何の話かしら?」

「わかりません。私も一緒に来るように言われましたので」

 二人の頭の中は絡まった毛糸のように、ごちゃごちゃになっている。シェーラとクロウスだけなら、まだわからなくもないが、その上イリスも呼ばれるとなると、さっぱり理由がわからない。考えを巡らせるが思い当たらなかった。

「まあいいわ。今はじっとしているより、動きたい気分だし。それにしても、何の本を読んでいるの?」

 イリスは抱えていた本を机の上に置いた。

「古代の文明についてです。読みます?」

「遠慮する……」

 表紙には見慣れない文字が並んでいた。これを普通に読めるイリスは凄過ぎる。

「これは、古代文字の?」

 イリスの特技を知らないクロウスは興味深く表紙を見る。

「そうですよ。クロウスさんも読みます?」

「いや、いいよ。俺は学がないから、こういうのは興味ないし。イリスも読めるんだ、古代文字」

「はい。誰か他にも読める人いるんですか?」

「まあ、……昔の友人にいたなって」

 最近の若者は古代文字を読める人がそんなにいるのかと、感心するシェーラ。

 そんな中、一人の若者が食堂に飛び込んできて、大声を発した。

「おい、ノベレの爆発の原因は炎魔法で確定らしいぞ!」

 周りがざわざわとし始める。わかっていたシェーラ達にとっては、気にも留めない情報。

 だが、イリスの顔からは笑みが消えた。

「……魔法をこんな風に使うなんて、許せませんね」

 悲しそうな目をしながら、イリスは呟く。

「魔法は自然現象を操るものなのに、自然を無理に使ってしまうなんて。風は大気と穏やかさを、地は大地とぬくもりを、水は海と清らかさを、火は炎とあたたかみを与えます。そして、これら四つの循環を乱してはならないはずなのに、思いっきり乱していますよね」

 シェーラは首を縦に振り、同意を示す。

「そうね。きっと犯人は魔法の有難味を知らず、何も考えずに使っている人でしょう」

 重い空気の中、時間は確実に過ぎていく。そしてすぐにレイラとの約束の時間になった。




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