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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第二章 魔法管理局
28/140

2‐12 小さな希望への賭け

「あら、シェーラ。昨日はお疲れ様」

「ええ。色々とびっくりしましたよ。それでレイラさん、少々聞きたいことがあるのですが」

「そういえば、傷の方は開いてない?」

「大丈夫ですよ。これなら魔法も使えそうです。それよりレイラさん――」

「期限過ぎて返した本の方、後で私から理由を詳しく言っとくから」

「レイラさん!」

 シェーラは大声を出しながら、机を両手で叩き、怖い顔をしてレイラを睨みつける。

 さすがのレイラもあまりに恐ろしいシェーラの形相に、多少びっくりしているようだ。平静を装うように、いつもの口調で話す。ただし視線は合わせずに。

「人の話くらい聞いて下さい!」

 シェーラの甲高い声から避けるように片手を耳に押さえ、レイラはいつもの椅子に座っている。深く溜息をつき、シェーラと後ろにいるクロウスとイリスに目をやった。

 三人は昼前に急いで魔法管理局に戻ってきて、少し調べてからレイラの部屋に飛び込んだ。いつもと同様に様々な書類に目を通していたレイラは三人が現れたことに、微かに眉をひそめる程度しかしなかった。

 そして、シェーラはレイラに直球で質問をぶつける。

「レイラさん、クロウスを監視させていたって本当ですか?」

「……何かと思えば、どうして突然そんな質問がでてくるの?」

「昨晩、同僚のマラードに会いました。そこでおかしな行動をしていたので、『何をしているの?』って聞きました。そしたら、『ルクランシェ部長に頼まれて、クロウス・チェスターを監視していた』って、返答したんですよ」

 レイラはただ無表情に聞き続ける。

「帰ってきてから、ルクランシェ部長にしつこく問いただして、やっと口を開いてもらったら、『それはレイラに聞いてみろ』って言われたんですよ。ですから、今こうして聞いているんです。これは本当なのですか!?」

「――そうよ」

 悪びれた風でもなく、シェーラやクロウスをしっかりと見据えながら答えた。シェーラはその様子に嫌悪を露わにする。

「一体どうして……。いえ、レイラさんがこういう行動をするって予想していなくはなかったですけど」

「なら、どうしてわざわざ聞くの?」

「推論と結論は違うじゃないですか」

「じゃあ、推論は?」

「クロウスが元ノクターナル兵士ということが、気になっていたから。確かに気になるかもしれないけど、私を助けてくれた人ですよ? その人を監視するなんて、酷いじゃないですか!」

 ほんの少し沈黙が続いた。外の喧騒が直に伝わってくる程の静けさ。

 レイラは若干俯きながら、今度はゆっくり、はっきりと口を開いた。

「酷いか……。確かに酷いことかもしれないけど、私がしなきゃいけないのよ。もしとある一人が入ったために輪を乱してしまったら、その修復は面倒なことになるでしょう。事態を最小に止める為には、事前に防ぐ努力が必要なの」

 レイラは引出しから一冊のぼろぼろのノートを取り出す。そこには“局長日記”と書かれていた。それをぱらぱらめくりながら、続ける。

「誰でも無条件で信用していたら、そう言う人が入ってきて、もしも何か取り返しのできないことが起こってしまったら、困るでしょう? だからまず疑うのよ。私が信用に足る人物だと思うまで。それがトップに立つ者がやらなければならないこと。つまり私がしなければならないことなのよ」

 レイラはノートを机の上に置き、固い表情を崩すと、後ろで緊張した表情をしているクロウスを見た。

「ごめんなさいね。でも、私の立場も分かってほしい」

「大丈夫です。むしろ疑われない方が不思議に思ってしまいますから。俺の経歴を聞いて、ひかない人なんてほとんどいませんよ」

「そう。どうやら、シェーラだけが一人でピリピリしていたみたいね」

「そうですね」

 そう言うと、二人はくすくすと笑い始める。さっきまで緊迫した空気だったのに、一瞬で空気は緩んでしまった。

 シェーラにとってはかなり面白くない。意気揚揚と攻めてきたのに、結局は自分が不利になる状況になってしまっているのだ。

「全く、何か釈然としないわ!」

「まあいいじゃないですか、シェーラさん」

 慣れた感じで、(なだ)めるイリス。シェーラは口を尖らせながら、会話を続ける。

「それでレイラさん、監視の報告は来ているんですよね?」

「ええ。シェーラ達がルクランシェに問い詰めている間に一通り報告書は読んだわ」

「なっ……! 始めから時間稼ぎのために、部長は曖昧なことを言っていたのですね!? こんなときだけルクランシェ部長と仲が良いんですから」

「失礼ね、いつもそれなりに仲はいいわよ。同期として」

「そうしときます。それでレイラさんはクロウスのこと、どうなんですか?」

 その言葉共にすっとレイラから笑みが消えた。



 レイラの様子を見て、クロウスは鼓動が速くなるのを聞きながら、再び緊張な面持ちになる。シェーラより前に出て、レイラの近くに出た。

 そしてレイラは事務的口調で返答する。

「報告書には総合して真面目な青年と、書いてあったわ。本を返し、女性が襲われるのを助け、そして襲おうとした相手と対峙した。どこも何か妙な行動をしていたとか書いてない。疑って悪かった程にね」

 クロウスはほっと胸を撫で下ろした。むしろ褒められ過ぎて、恥ずかしいくらいに感じる。

「一つ、聞いてもいいかしら?」

「何ですか?」

「この魔法管理局に所属するって言うことは、一人旅をしている時よりもノクターナル兵士に対して悪い印象しかない人と接触する回数が増える。その人がクロウス君はノクターナル出身と言うことを知ったら、おそらく邪険な行動をする。そんなことがたくさんあると思う。そういうことを踏まえた上で、ここに入りたい? 別に情報屋とかと掛け合えば、ノクターナル兵士と接触できなくはないし、ここに無理して入っても……」

 クロウスはすぐに首を横に振った。そして、遠い昔を思い出すように、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。

「昔、ノクターナル兵士には向いていない、誰かを守るのなら他の団体に行った方がいいってはっきり言われたんですよ。ただ、俺自身も色々と悩んでいて、当時はその意味がよくわかりませんでした」

 瞼を閉じ、その当時をゆっくりと振り返る。

「しかし兵士を脱退して、何となく各地を回っているうちに、薄々とその意味がわかってきました。つまり考えが幼いから、他で勉強しろっていうことです」

 ちらっと瞼を開けながら、シェーラに微笑む。

「俺の出身地によって、何かを言われるのは覚悟しているつもりです。だけど、すべての人がそう思っているはずがありませんから、その希望に少し賭けてみたいんです。シェーラのように、出身以外で人を判断してくれる人がいるということを」

 シェーラは少し頬を赤らめる。

 クロウスは視線をレイラに戻すと、すっと強い意志を持った瞳を向けた。

「自分の故郷を酷く言われたくない、ノクターナル島のすべての人が悪いのではない。その誤解を解くためにも、ノクターナル兵士を仕切るトップと接触する確率が一番高い、魔法管理局に強く入りたいと思いました。あの島は、魔法を意のままに使おうとしているトップに、すべての根源があるのですから」

 クロウスにとって、それはずっとくすぶっていた気持ちだった。その気持ちが決断へと変わったのは、本当に些細な出来事。

 シェーラが肩に傷を負い、今にも切りつけられるとき、心の奥底で何かが弾けた。いつまでも奥底に置いとこうと思ったものが。

 そして気づく。

 ――このままでは、いけないと。

 レイラはクロウスの瞳がずっと揺らがないのを見ると、凛とした声を出した。

「あなたの意思、確かに受け取ったわ。クロウス・チェスター、あなたを魔法管理局に正式に入局すること認めます」

 クロウス、シェーラ、イリスは一瞬目を丸くし、思考が止まる。突然の言葉に、何を言ったのか把握できなかったからだ。

「あら、まだ入局するなんて言ってなかったわよね?」

「は、はい!」

 クロウスは硬直を溶かし、慌てて返事をする。それはまるで、新人のような固い言い方。そのままの勢いで頭を下げながら、お礼も言った。

「どうもありがとうございます!」

「え、ええ……。いい決意の表れだけど、そんなに固くなって頭下げないで」

 レイラはクロウスの奇怪な行動に対して、思わずひいてしまった。

 そこでやっと我に戻ったのか、顔を赤くしながら、体が小さくなる。

「すみません。つい……」

「いえ、別にいいわよ」

「そうそう。クロウスが変な行動をしたなんて、入局した以上にある意味貴重な日になるだけだから」

 後ろからぼそりと呟く言葉。それと同時にレイラとイリス、そしてシェーラは声を立てて笑い始めた。ますます小さくなるクロウス。ようやく空気は緊張から安堵へと変わったのだ。

 やっと笑いが収まると、レイラは一枚の高級紙を引出しから取り出して、小さくなってしまったクロウスへと渡す。

「どの部に所属するかは後で決めるけど、クロウス君ほどの力量を持っていれば、事件部でしょうね。あとでその紙の詳細を埋めて、提出して下さい」

「わかりました」

 ようやくクロウスは居場所を得られた気がした。思わず顔がほころびる。

 それを見て、イリスはにこにこしながらシェーラに言った。

「よかったですね、丸く収まって」

「そうね。今回はそういうことにしときましょう」

 はぐらかされた気がしなくもないが、シェーラは妥協することにした。

 なぜなら、クロウスの帯びている空気がほっとしたという、穏やかなものを崩したくなかったからだろう。そして、何故か彼女自身もとても嬉しかったからだ。

 これでクロウスは自分の決断したことを達成するために一つ前進した――。



 だが幸せなひと時はずっとは続かない。

 そしてその幸せを壊す、一つの事件が飛び込んできた。



 激しくドアをノックする音がする。レイラは立ち上がり、目の色を変えて、大きな声を出す。

「入りなさい」

 すると以前クロウスに話しかけた、肩にかかるくらいの薄めの茶髪である小柄な女性が振り乱しながら入ってきた。

「サブ、大変です!」

「ちょっと、メーレどうしたのよ」

 あまりの変わりようにレイラはメーレに対して、慌てて駆け寄る。クロウス達は脇により、その成り行きを見ていた。

 メーレは真っ青な顔で乱れた呼吸を整えながらレイラに恐怖でいっぱいの瞳で見つめる。

「メーレ……?」

「大変です。ネオジム島のノベレの町で――」

 ごくりと息を飲み、一気に言い放った。

「ノベレで謎の爆発事故が起きたという、連絡を受けました」

「ノベレで? それは本当なの!?」

「はい。ネオジム島にいる局の人たちから何本も電話がきています。規模がそれなりに大きく、重軽傷者も多数出て、死者もいるということです。その事故に魔法管理局の者も被害を受けたらしく、安否については未だ不明なそうです」

 レイラの目は見開き、口を手で覆った。ショックのあまり呆然とする。シェーラについても同様の反応を示していた。

「その事故の原因はわからないの?」

「そうです。ですから、謎の爆発事故って、みんな言っています。炎がまるで生きているかのように燃え盛り、消化に時間がかかったそうです」

 メーレも今にも消えそうな気配だったが、伝えることは伝えたようだ。

 レイラはそんな中で顔色こそすぐれないが、必死に思考を回転させる。そして回転した先で、苦虫を潰した様な顔をした。

「その炎――おそらく魔法よ。とびきり火力の強い人間によって生みだされた」



 肌寒い風が外では吹き始めていた。

 それはシェーラ達の心にも吹きつけられ始める。そして誰にも気づかれないくらい恐ろしい何かが少しずつ近寄ってきていた。






 第二章がようやく終わりました。お読み頂きありがとうございます!


 私は小説を書く際に、全体の流れ→章ごとの流れ→一部ごとの細かな流れ、を決めて書いています。

 ですが、細かに決めても気がついたらキャラが動きまくって、全然違う感じになってしまうということがよくあります。

 そしてまとまりがない文章になります……。今章がいい例です。

 キャラが動くのはいいのですが、それを仕切る私の力量がなくて、あまりいい文章が書けなくて、すみません。


 これからもそのようなことが度々起こってしまうと思いますが、頑張って書いていきますので、よろしくお願いします!

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