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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第二章 魔法管理局
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2‐2 島を繋ぐ橋

 イリスはやっと食べ終わったスープの皿を置き、クロウスが持ってきた水をゆっくり飲み干す。今日川の近くを通った時に汲んだ水だ。まだほんのり冷たい。その透き通り具合からもおいしい水だとわかったが、飲むとその美味しさが直接伝わってきた。

 シェーラが戻ってくると、一冊の本を持っていた。割と薄めの本で、少しほころびが見える。

「ごめん、遅くなって」

「ありがとうございます。シェーラさんもお水、どうですか? クロウスさんが持ってきてくれたのです」

「あら、気が利くわね。ありがたく頂くわ」

 そう言うと、シェーラも水を美味しそうに一気に喉に通した。

「ああ、美味しかった。しゃべっていると、どうも喉が乾いちゃうからね。それじゃあ島代表者会議について話すね」

 再び座り、本を開き、それを参考にしながら話し始めた。



 * * *



 島代表者会議は、島の代表者が集まって話し合いをする場である。

 四つの島同士で会議をするようになったのはここ七十年くらい前だが、隣の島での話し合いに関してはかなり昔からある。大地震の事後処理、橋を作る上での話し合い、最近は商品のやり取りが中心だ。

 また、魔法のことについての話し合いもある。まだよくわかっていないことが多いため、研究等によって新たに分かったことを定期的に各島で共有するために、魔法に関する内容も飛び交うのだ。

 一年の間で三、四回会議をしており、そのうち一回は特に重要なこととして、日を跨いで開催していた。

 だが、ここ十年くらいノクターナル島は会議に出席しなくなり、しばらくは三つの島のみの話し合いが続いている。

 代表者の選出としては、デターナル島はミッタークの町長が、ネオジム島も中心都市のトップが、ソルベー島に関しては少し違い、代々代表者になる血統が決まっており、そこの人が出ている。ノクターナル島でもナハトの町長が出ていた。

 そのような感じで、様々な情報共有や話し合いを主とした最も大きな会議が開かれている。



 * * *



「わかった? 何かあったら、いつでも聞いてね」

 イリスは少し難しい顔をしながらも頷いた。急にたくさんの知識を受け入れるのは、なかなか至難の業である。シェーラはそれを気遣って最後の言葉を付けたしたのだろう。

 クロウスは旅している間にノクターナル島以外の島も一通り周っていたので、それと照らし合わせながら、シェーラの話を聞いていた。ほとんどが知っていることであったが、少しだけ新たに付け加わった知識もある。デターナル島のことは特に知識が増えたようだ。

 シェーラはいつ持って来たのか、水を入れた水筒から自分のコップへ注ぎ、また一気に飲み干した。飲み干した様子はまるで一杯酒を飲んだ後のように満足そうである。

「ひとまず島々についての説明は終わり。次に魔法管理局の説明ね。これも長くなるから、まあ気楽に聞いていて」



 * * *



 まず、魔法管理局はデターナル島において魔法に関することを調べたりしている機関である。代表者会議では、魔法のことの報告内容の大半が魔法管理局でわかったことだ。

 いろいろと部署があり、その中で調べたり、実験をしたり様々なことをしている。

 ここでは代表的なものを少し例に挙げてみる。


 まずは“総合部”である。ここは局の中心となる所で、様々な支持を出したり、他の部署でわかったことをまとめているところだ。島代表者会議で魔法に関することを挙げるときは、ここでまとめたのを書類として提出している。

 次に“事件部”。ダニエル部長やイリスを保護するために来た人が所属しているところだ。内容としては魔法に関して問題があったときに、強制的に止める。また、魔法以外にも激しい剣などの事件も臨機応変に立ち向かっている。最近はノクターナル兵士の動きに制限をかけるようなこともしたりと、前線に立つ部署だ。肉体的や魔法能力が優れている人はたいていこの部署に回される。

 そして“情報部”。シェーラが所属している部署で、各島の様子を調べたり、ノクターナル兵士の動きを監視したり、時には潜入捜査をしているところだ。使者として、村との友好関係を築いたりもする。そして、事件部の援護に回ったりもする。

 他にも遺跡などを探索して、過去の魔法の様子を調べる“探索部”や、魔法に関することを書物から調べる“書物部”、魔法を使用することにより、人体や自然にどのような影響を与えるか、また魔法の可能性は実際にはどれくらいのものかなどを実験したりして調べる“実験部”、事件部の人などが負傷したさいに治療する“医療部”などがある。


 たくさんの部署があり、その部の中でやっている内容は他の部とも被ることもよくある。その時はお互いに手を組み、臨時で合体した部を作り、魔法の未知の可能性を調べることとなる。



 * * *



「まあ、簡単に言うと、魔法管理局は一つの会社みたいなもの。デターナル島には他の局もあって、治安維持をする局や、財政を管理している局、村同士の関係をより細かく管理している局など、様々な所があるわ。そんな感じでデターナル島は成り立っているんだけど、何か質問がある人は?」

 二人は首を横に振る。シェーラはそれを見て、苦笑いをしながら言った。

「まあ、そのうちわかると思うから。ということで、今日の講義は終わり。お疲れ様でした。何だか……、今日はよく寝られそうだわ」

 ゆっくりと立ち上がり、自分の皿やコップを持って、テントの方へとふらふらと歩いて行った。どうやら喋り過ぎて疲れたのだろう。イリスはそっとクロウスに視線を送ると、わかったと頷き、小走りにシェーラへと近寄った。

 始めは邪険に傍に来たクロウスを見ていたが、よほど疲れたのかすぐに大人しく肩に寄り添いながら、テントの方へ進んでいく。

 その様子を見ていたイリスはいい関係だな、と思っていた。クロウスとシェーラは出会ってそんなに日は立っていないはずだが、お互いがお互いを気遣っていており、ずっと昔から付き合いがあるような印象を受ける。友達同士の関係もあるかもしれないが、共に闘ったものとしての信頼があるからだろう。

 イリスは自分の皿とコップを持ち、簡単に掃除をしながら、テントが張ってあるほうへと向かった。

 空は雲ひとつなく、星が一面輝いている。それを見ると、明日も頑張ろうという気持ちになれたのだった。



 翌朝、朝食を食べ、テントを片づけるといい天気の中で一同は出発した。

 今日中にはデターナル島へと渡りたいということで、いつもより少し歩調を早くなっていた。

 黙々と進むと、夕方あたりには目の前に大きな川が広がる。対岸がほとんど見えない程だ。

 あまりに大きな川に目を丸くし、感嘆の声をイリスはあげた。

「すごい。すごく大きな川ですね!」

「この川を渡ればデターナル島よ。あそこに橋があるでしょ。あれがソルベー島とデターナル島を繋いでいるの」

 シェーラは簡単な説明を付け加える。そして、イリスの興奮が冷めやらぬうちに、橋を渡り始めた。

 橋はどの建物よりも頑丈にできている。もっとも強いと言われている鉱物を使って作られていた。この橋がなければ、あと横断するには船しかない。だが船の便もあまりないため、最も重要なものとして各島は橋を管理している。

「橋が出来たのは約百年前。それから幾度となく改修工事をしている。天気が大荒れになって、水を大量にかかると、さすがに衰えてしまうらしいから。一般人が他の島と自由に行き来できるのも、橋があってこそね。だからみんな大切にしている」

「そうなのですか。すごいですね……」

 今のイリスには何を言っても、聞き流してしまうのだろうと思い、シェーラは黙って馬を進めることにした。シェーラ自身、橋は何回も渡ったことはあるが、今回は格別だった。

 地平線の向こうに日が沈むのがはっきりと見えて、それがとても美しかったからだ。

 赤々と日は照り、それが海へと吸い込まれていく。そして夜の帳が下がり始める……。

 他の人もその美しい光景を見ながら、橋を歩き続けた。



 夜はデターナル島内にある橋の近くで宿屋に泊まり、夜を過ごした。シェーラとイリスは相部屋で、今はイリスの興奮した話を聞いている。

「ほんの少し向こうがソルベー島なのに、デターナル島に入ったら雰囲気が全然違ってびっくりしました!」

「そんなに違うかしら?」

「ええ! デターナル島の人々ははきはきしているのです。それがなんとなくですが、伝わってくるのです」

「そうなんだ。いやあ、何度も往復しているとわからないものなのよね」

「それだけじゃありませんよ。他にも……」

 今夜は寝ることを半分諦めつつあった。この調子では日が再び明けるまで、喋り通す可能性が高そうだからだ。



 だが、一時間後。

 イリスはすやすやとベッドに横になって眠っていた。シェーラはその行動に呆れながらも布団をかけてあげる。ここ二、三日柔らかいベッドで眠っていなかったため、その分の疲れが出てしまったのだろう。

 イリスの寝顔はとても無邪気だった。何も悪いことをしらない、純粋な少女の顔だ。

 それを見ると、シェーラは後悔してしまう。たしかに局に連れて行けば、安全度は高くなる。だが、ノクターナル兵士との争いの結果、訃報や重傷などの単語が耳に入ってしまう。それを聞けば、この少女は自分のことのように悲しみ、心に暗い影を落とすだろう。それがシェーラにとっては居た堪れなかった。

 今はそこまで激しい争いは起きていない。しかし、このままではいつかノクターナル島と他の島同士で全面的に争うかもしれなかった。

 ――そう、戦争が起こる可能性があるのだ。そうなった時、少女はどんな顔をするのだろうか?

 だから、そんな戦争までに発展する前にノクターナル兵士の不穏な動きの現況を突き止め、シェーラは止めたいのだ。

 たとえ自分の手を汚そうが、自分の命を犠牲にしようが。それが自分の命を助けてくれた人々に対しての、せめてもの意思表示だとシェーラは思っている。

 薄い緑色のペンダントを取り出した。それをじっと見て、自分の意思を確認すると、布団に潜り込み、深い眠りについた。



 * * *



 日が明け、また二日ほど歩き続けると、木々の間から目の前に大きなベージュ色の建物が見えてきた。高さは四階くらいだろうが、横に大きい。

「あれが、魔法管理局よ」

 シェーラはすっと指で示した。馬に乗っているイリスからはよく見えるが、地面を歩いているクロウスには少ししか見えないようだ。

 程無くして、魔法管理局の門の前に辿り着いた。

 イリスはその大きさに再び息を呑む。横幅の先から先までは見ることができない。

 ダニエルは門番に向かって、許可書なるものを見せた。門番はそれを見て頷くと、「開門!」と大きな声で言う。それと同時に人の背の三、四倍もある大きな門は真ん中から分かれる。

 シェーラはいそいそと馬から降りると、少し前に出て二人に対して手を広げながら言った。

「はるばるとようこそ、“魔法管理局”へ!」



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