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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第二章 魔法管理局
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2‐1 月夜の講義

 こんにちは、引き続きページを開いて頂き嬉しいです。

 これから第二章が始まります。ゆっくりと動き出す、三人の関係――。

 どうぞ今章もお付き合い頂けたら、幸いです。

 イリスにとって魔法管理局に行くまでの数日間はまるで別世界にいるような気分だった。

 色とりどりの木の葉や草花。風に吹かれる木々の音、時折聞こえる川のせせらぎや動物の鳴き声。燦々(さんさん)と照りつくす日の光。

 ほとんど村の外を出たことがないイリスにとって、見ること、聞くこと、嗅ぐこと、触ることの一つ一つが新鮮なのである。

 キャンプをする日もあった。そこでみんなで食べるご飯も格別なものがあり、少し肌寒い夜など気にも留めていなかった。

 ダニエルが手綱を引いている馬にイリスは乗りながら、道中を進んでいる。自分で歩くと言ったが、疲れるだろうし、もし襲われた場合は一目散に逃げなければならないと言われて、しぶしぶと了承したのだ。

 馬は全部で五頭、そのうち三頭は荷物を担がれており、最後の一頭には先日怪我を負わされたシェーラが乗っている。まだ左腕の調子は戻らないのか、滅多にその部位を動かすことはない。というより、動かせないように他の人達が気を使っているのである。

 イリスはそれを見るたびに、シェーラはこの人達から信頼されており、そして愛されているのだな、と感じていた。

 クロウスはというと、シェーラを乗せている馬の後ろを歩いていた。

 シェーラから彼については、自分達とこれから仕事を共にする人と皆に話している。

 始めは突然現れた人物に不信を抱かれ多少距離を取られていた。だが、シェーラが何度か彼に助けられたことや、剣筋は自分よりいいなどの発言をしたことから、次第にクロウスへ興味が向けられるようになったのだ。

 しまいには休憩中に剣の振り方などを指導しているまでに仲は進行していた。やはり強いものに憧れるのが、戦う者というのだろう。

 道中は話をしながら和やかに進んでいる。

 前も護衛のためと言われてクロウス、アストン、ソレルとこんな雰囲気を作っていたが、今は追われていることもなく、そのときよりもだいぶ気持ちは楽だった。



 日も暮れかかり、月が少しずつ顔を見せる時間帯。その日の夜もキャンプすることに決まった。

 クロウスも含めて二十人くらいの男達はテントの準備をし、数人の女性とイリスは一緒に夕飯の用意をし始める。大きな鍋に途中の村で購入したたくさんの野菜をいれ、グツグツと煮込む。

 その横でシェーラは座りながら火の見張り番をしている。薪を何本か持ち、火の威力を高めるために何回かに分けて、火の中へ投げ入れていた。その顔には不満の文字が浮かんでいるようだ。

「魔法を全く使ってはいけないって……、火を出すくらいいいじゃない!」

「駄目だ。魔法を使ことも怪我の治りには大きく影響するんだぞ。局に戻って、しばらく始末書の山と格闘してもいいのか?」

 ダニエルの鋭い視線と言葉がシェーラに突き刺さる。

 反論が喉まで来ていたが飲み込み、眉間にしわを寄せながら、投げやりに薪を投げ入れていた。

 スープの芳しい匂いがしてくるときにはテントも建て終わり、配り始めた。イリスはスープを入れた皿を男達に渡す係に回される。一人一人に気持ちを込めて笑顔で渡す。受け取る側の顔にしまりがないのに彼女は気付いていない。

「……単純な(やから)が多いこと」

 苦笑いをしながら、後ろの方でシェーラはぼそりと呟いていた。



 やがて、一同は思い思いの仲間たちと一緒に話をしながら、食べ始めた。

 その真ん中には焚火が燃えており、視線を上にやると輝いている月が見える。

 シェーラ、クロウス、イリスの三人は火からあまり離れない所で丸太に腰をかけながら、スープを口に運んでいた。しばらく無言で、食を進ませる。クロウスはあっという間に食べ終わると、お代りをするために立ち上がり、鍋の方へと歩いていく。

 イリスはふと思ったことを片手で器用に食べているシェーラに尋ねる。

「あとどれくらいで、着きそうなのですか?」

「一日くらいでデターナル島に渡れるから、それから二日くらいで局には着くと思うよ」

「そうですか。ありがとうございます。……あの、もしよろしければ、デターナル島や魔法管理局のことを教えてくれませんか? 行く前に少しでも外の世界のことを知っておきたくて」

 イリスの真摯な姿勢に、シェーラは目を瞬かせる。

「ああ、そうか。イリスさんはずっとイリデンスにいたんだものね、突然見知らぬ所に行くのには気が引けるか。私の拙い知識で良ければ教えるよ」

「ありがとうございます。拙いと言われましても、私よりは物の見方は広いと思いますよ。知識と言うのは、脳内に入れるだけでなく、出す方が重要です。私は入れるしかしていないので、全然使えない知識ばかりです」

 シェーラは首を横に振る。

「いつか必要とされる時が来るから、そんなこと言わないで」

「そうですね……、ありがとうございます」

 イリスは薄らと微笑を浮かべつつも、もう一つシェーラにお願いすることにした。

「あの、ずっと思っていたのですが、“さん”を付けるの、やめてもらえないでしょうか?」

「え?」

「シェーラさんの方が年上ですよね? 私、まだ十七歳です」

「でも、イリスさんの方が私より断然重要な人物だよ……? 純血さんなんだから」

「また、言っています!」

「ご、ごめんなさい!」

 思わずシェーラは謝る。いや、イリスの威圧により勝手に出てきてしまったというのが正しいだろう。

「私はもっとシェーラさんと親しくなりたいのです。だから、そういう壁は取ってほしくて」

「なら、私のことも“さん”を付けるの、やめようよ。そりゃ、二十歳だから年上かもしれないけど、上下関係なんてないんだから」

 シェーラはすかさず反撃し返す。その反撃にイリスは思わず言葉が詰まった。次の言葉を必死に探そうと、頭の中を駆け巡っている。

 そんな中、シェーラの肩を軽く叩く人物がいた。むっとして、後ろを振り返るとクロウスが溜息をついている。

「そんなくだらないことで喧嘩するなよ」

「喧嘩じゃない。これは話し合いっていうのよ」

「話し合いって、相手を泣かせるためにあるのか?」

「なんですって?」

 シェーラは先ほどの少女を見た。目の周りには薄っすら涙が溜まっていて、なおも何かを言いたそうだった。

 その様子を周りの男達が横目でじろりと見ている。空気も何故か緊張感が漂っていた。その視線に耐えきれなくなったシェーラは思わず、弱気な発言を漏らす。

「ねえ、私が泣いてもダメ?」

「シェーラより彼女の方が涙は似合うだろう」

「……酷い、横暴だ。……もうわかったわよ! イリス! 島のことについて説明するから、その顔やめなさい!」

 イリスはその言葉を聞いて、ぱっと明るくなった。まるで一瞬にして花が咲いたようだ。

 再びシェーラの隣にちょこんと座ると、何事もなかったかのように、目を輝かせながら見てくる。

 シェーラは空になった皿を脇に置くと、そこら辺にあった木の枝を拾ってきた。

「簡単に説明するから。まずはこの国、エーアデ国の各島々について話すね」

 そう言うと、枝の先を地面に突きつけて四角を書いた。

「これは知っていると思うけど、三百年前まではエーアデ国は一つの島だった。だけど、大地震によって、島は対角線を結ぶようにして大きく四つの島に分かれてしまった」

 四角の対角線を結ぶと、三角形が四つできた。その対角線の交点を軽く突っつきながら話を続ける。

「中心に小さな島があるらしいけど、何故かここには昔から近寄れないらしく謎の孤島となっているわ。それは置いといて、四つの島をそれぞれこういう風に呼ばれている。北にある“ネオジム”。南にある、つまり今私たちがいる“ソルベー”。西にあり、今向かっている“デターナル”。そして、東にある“ノクターナル”。この四つの島によって、エーアデ国は成り立っている。島々の交通手段は、橋を渡るか、船を使って海峡を渡るしかないわよ。では、次にそれぞれの島の特色を話しましょうか」

 シェーラはそう言うと、足を組み、枝を揺らしながら話し始める。イリスとクロウスは足を崩して聞く態勢に入った。



 * * *



 まずは南にあるソルベー島。ソルベー島はたくさん小さな村があることで有名だ。

 多くの山や森で囲まれているため、場所によって環境が全く異なっている。イリデンスのようによりいい土が肥やされている所では農業が、ハイマートのように山麓にあり、穏やかな風が吹いている所では、風車の利用や農業などで生活をしている。また、良質な鉱山物質が取れるところもあり、そこでは必然的に鉄鋼業などが発達しつつあった。

 そのようなことから、それぞれの村は独自の文化を切り開いており、村同士が干渉しないようになっている。そのためか、島の中での結束力は高いと言えない。

 だが、独自の文化は必然的に他の村ではない雰囲気を作り出し、密かに村を転々としながら、観光をしたり、自分にあった場所を探している人もいる。



 次は北にあるネオジム島。ここは通称“商業の島”と呼ばれている。

 この島は肥沃な土地や水がどこにいっても大変得られやすく、農業や工業などの発展も他の島とは目を見張るほど違う。大量生産をしており、そこで作られたものは西寄りにある中心都市に集まってくる。そして、その都市では商人が生産されたものを買い取り、そこから高値をつけて売っているのだ。

 もちろん商人はデターナル島へ、時にはノクターナル島へも売り込んでいる。利益を最重要としている人も多いため、少しでも好い値が付けられるのならば、足を運ぶと言う人がいるのだ。

 中心都市の賑わいは凄まじいものがあり、何か物を求めるのならそこに訪れるのが一番いいだろう。

 とにかく利益絶対主義の島である。



 そして、西にあるデターナル島。デターナル島はソルベー島と違い、統率の取れた島と言われている。

 中央にミッタークという町があり、そこを中心に他の町は広がっている。特に大きな町の中では更にいくつかに分けて代表者を選出し、その代表者は会議に参加して、様々な利害関係、物質の流通や治安状況などを話し合っている。その会議は円滑に、そして安全に暮らすためにはなくてはならないものなのだ。

 町中で上がったものは、次にいくつかの町ごとの会議へ、そして最終的にはデターナル島で最も大きい会議で話し合いがされるのである。その中で上げられたものは、島会議と呼ばれる国の中で最も重要で大きい会議へと案が出たり、魔法管理局などの個別の局へ話が渡ることがよくあるのだ。

 段階を踏んで、きめ細やかにサポートしようとしている島である。



 最後に東にあるノクターナル島。はっきり言ってしまえば、よくわからない。

 ナハトという大きな町があるが、そこをもとに商売や会議をしているわけではない。小さな村々はたくさんあるが、それをまとめようともしていない。

 むしろ――、ある人物による独裁的な取り締まりが行われているという。ナハト周辺の治安を維持していた部隊の頭が、最近軍と称してノクターナル島の治安だけでなく、他の島へも干渉しているのだ。

 その理由ははっきりとはわからないが、島だけでなく国を支配したいという噂が飛び渡っている。

 島会議に出なくなってからはあまりはっきりとした状況が掴めず、更にはこの島への調査は軍による取り締まりが半端ないため難しく、あまり正しい情報が得られていないのだ。



 * * *



 シェーラは簡単に各島のことを説明し終わると、一息ついた。イリスは必死に理解しようとしているのか、簡易の地図を見ながら想像を膨らまそうとしているようだ。

「まあ、とにかく四つの島はこんな感じよ。主観でしか語れないから多少語弊はあるということで。実際に行けばよりわかると思う」

「ありがとうございます。こんなにも島同士で違っていたのですね」

 感心しながら、イリスは頷いている。だが、すぐに首を傾げた。

「あの、一つ質問なのですが、何度か出てきた島同士の代表者会議ってどんなものなのですか?」

「島の代表者会議? 私もはっきりとした知識を持っていないのよ……。ちょっと待っていて。たしかどこかに詳しく書かれた冊子があるから」

 そう言うと、シェーラは自分の荷物がテントへと走って行った。

 その途中で、おそらくダニエルだろう、「走るな! 安静にしろ!」という、言葉が飛んでいる。それを聞くと、イリスとクロウスはお互いを見て、思わず苦笑してしまった。



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