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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第八章 虹色のカケラ
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8‐1 約束と少年の意志

 こんにちは。引き続きページをめくって頂きありがとうございます。

 いよいよクライマックスの「第8章 虹色のカケラ」、更新開始です。

 引き続きお読みいただければ、幸いです。

 レイラの指示のもと、魔法管理局の者達はすぐに支度を整え、屋敷の外へと出ていた。日は徐々に傾き始めており、やがてすぐに夜になるだろう。必要最低限の荷物を持ち、いつでも出発できる状態となる。

 急ぐためには馬に乗ることが必須となるが、相乗りをしたとしても、どうしても馬の数は足りなかった。ここから馬でどんなに飛ばしても、夜には差しかかる。もし歩いたとしたら、着くころには日が再び昇り始めているだろう。

 局の者達の割合は総合部がレイラを含まないで七人。ほとんどの人が実戦に出るには不向きな人達だ。一緒に連れて行っても、出来ることは限られている。

 レイラは考え抜いた結論を伝えるため、硬い表情をしているメーレを呼び止めた。

「メーレ、ちょっといいかしら」

「何でしょうか、サブ」

「総合部の人を三人くらい連れて先に局に戻ってくれない? そして、残った人達は治安維持局の人に指示を(あお)ってもらうように言って」

「……サブはどうするのですか?」

 答えがわかっていることだが、どうしても質問せざるをえなかったらしい。非常に不機嫌そうに尋ねてくる。それに対して、レイラははっきりと言いきった。

「私は事件部の人達と一緒に孤島へ行くわ」

「どうしてですか! 組織と言うのは頭がいなくては上手く機能しないのですよ!」

「ほんの数日だけだから、心配しないでよ。それに自分の言葉に責任があるもの」

「それでも……、もしサブの身に何かあったら……」

 メーレも鮮明に覚えているのだろう、亡き局長プロメテのことを。孤島などという未知の領域にトップが行くなんて、普通なら考えられない行為だ。その上、強敵までいる所に行くなど、危険極まりないことだった。

 口約束なんて、少しでも油断をすればすぐに破れる。だから信じられないのだろう。

 レイラはメーレの気持ちが痛いほどよく分かっていた。しかし、それでもこれからの行為をやめるわけにはいかない。

「メーレ、私なら大丈夫。だって優秀な事件部員が揃っているのよ。サポートする側は最高の者達。……局長の時とは全然状況が違う。お願い、絶対に戻ってくるから」

 言葉がこんなにも重く感じるのは初めてだった。嘘を吐く気はさらさらない。だが、レイラは今までにない漠然とした恐怖を感じているのも事実であった。

 メーレは目に涙を浮かべつつも、レイラの手を握りながら、ようやく小さく首を縦に振る。そして、すぐに総合部員に指示をし始めた。

 その様子を見て、少しだけ胸を撫で下ろす。温もりがまだ残っているようだ。

「……これで後見人が出来たとか思っていないだろうな?」

「何言っているのよ……、ルクランシェ」

 突然後ろから声をかけられた人物に若干ながら心が見透かされたような気がした。なるべく取り乱さないように、平静と答える。

「私はまだまだやらなければならないことがあるのよ。馬鹿なこと言わないで」

 そう言うと、ルクランシェは目を瞬かせながら、力強い言葉を発した。

「その意気、絶対に途切れるなよ」

 ルクランシェの言葉はレイラの心の奥底にまで響く。誰よりも長くレイラと接してきた人だからこそ、伝わるものがあるのだ。

 目を一度閉じ、精神を落ち着かせる。再び開くと、ダニエル達、ビブリオに向かう者達の指示を出し始めた。



 ビブリオへはレイラとダニエルを含めた事件部が六人、ルクランシェを含めた情報部が三人、そしてシェーラ、クロウス、アルセド、スタッツの計十三人が急いで馬を走らせ、向かっている。

 もう少し人員を増やしたかったが、島会議に出ていた魔法管理局の護衛はこれで全員であり、治安維持局にも助けを借りたとしても、それが全て良い方向に作用するわけでもないのでやめているらしい。

 治安維持局の人は魔法なしの攻撃はそれなりに特化している。剣や素手などで暴動を起こした人達を手早く鎮めるくらいだ。だが、本来は安全に島民が毎日を過ごせるよう警備だけをしている人達であり、始めから戦うことを前提にしていないため、このような戦闘が主となることには、若干ながら心配があるのだ。

 その点、魔法管理局事件部はノクターナル兵士のおかげか、必然的に魔法によるいざこざが増え、それを抑えるために、戦うことを前提として日々鍛錬をしている。おそらく個人単位の強さは事件部の方が断然上であろう。

 綺麗に舗装された道を馬が何匹も駆け巡る。街路を歩いている人はほとんどいない。既に橋が爆発されたことが人々の耳に伝わり、あまりの異常事態に家に引きこもってしまったのだ。

 クロウスは手綱を握りながら、前にいる小さな背中の娘を見た。肩からは虹色の書が入ったカバンを下げている。

 緑を基調とした服の上では、一つに結った真黒な髪が左右に激しく揺れていた。ほとんどが男で形成されている人達の中では目立つ存在だ。だが、誰よりもこの件に関心がある彼女の心の強さなどは、他の男達と同様かそれ以上だろう。

 出会った当初はその強さから、今はこの世にはいないエナタと重ね合わせていた。だが、今は重なる要素など全くなく、いつのまにかエナタの影は消えようとしている。それでも完全に消えることはない、クロウス自身の記憶にある限り――。



 日が沈み、夜を迎えて、ようやく一同はビブリオの横を通り過ぎた。数か月前に起きたノクターナル兵士から脱退した男達とのいざこざが遠い昔のように思えてしまう。その中で出会った親子も、今は顔を真っ青にして今後の行く末を心配しているのかもしれない。

 やがてビブリオ外れにある海の近くで、明かりが付いている魔法管理局探索部の小屋が見えてきた。そこの小屋では海や島への調査を主にやっており、ひたすらに孤島への探査を試みようとしているのだ。小屋の近くの海辺では、大きな物体――船がゆらゆらと浮かんでいるのがわかる。

 レイラ、ルクランシェが勢いよく降りると、小屋のドアを激しくノックした。他の人達も次々と降り、馬を並べていく。

「こんばんは。先程連絡した、情報部部長のルクランシェです! 孤島探索について船を――」

 途中で言葉は途切れ、ドアが勢いよく開く。日に焼けた肌、そして左腕の傷が今も癒えることなく残っている濃い茶色の髪をした中年の男性が出てきた。

「そう焦るな、情報部の兄さん。お、こちらは若き副局長。話は聞いているよ」

「すみません、急に無理な話をしてしまって」

「大丈夫さ。近々、また孤島に行こうと考えていた所だから、準備は整っている。ただ海はしけっている。このまま悪化する可能性もある。……辿り着く保証はない……、正直言って危険だ」

 傷の男性の言うとおり、風によって海は荒れ始めている。西の方を見れば、どす黒い雲が近づいてきていた。雨が降り始めるのはまもなくだろう。

「……危険でも行かなくてはなりません。大丈夫です、船を出して下さい」

 レイラの真っ直ぐな瞳に、男性は若干困った顔をしながらも、しっかりと頷く。そして中にいた下の者達に出発の準備を急いでするよう叫んだ。次にシェーラ達の方を見ながら、首を傾けた。

「船の定員は十五人だ。これでも無理を言っている範囲で、それ以上だと危険が高くなる。最低でも船員を三人連れていきたいから、人数の方、調整してくれないか?」

 レイラは頷くと、シェーラ達の方を振り向いた。今いる人数は十三人。希望通りに行くのなら、一人だけ置いていくことになる。

 シェーラは横を見渡し、今いる人物を確かめた。事件部の面々は誰もがかなりの力量があると聞いたことがある人達ばかり。シェーラが魔法の封印解除なしでやりあうのは少々厳しい。情報部もルクランシェ以外に二人いるが、どちらもルクランシェの側近で、昔鍛錬していた時には勝ったことがない相手だった。

 つまり、必然的に置いていく人物は決まることになる。

 レイラは一同を見渡してはいるが、ある人物には敢えて視線を合わせていない。言うかどうか躊躇っているようにも見える。

 シェーラはレイラの気持ちがわからなくもないが、今は時間がない。憎まれ口を叩かれようが、それが自分の役目だと思いながら、褐色の髪の少年に言葉を突きつける。

「……アルセド、黄色い石のカケラ、私に渡しなさい」

 案の定、目を見張ったように振り返られる。

「ど、どいう意味だよ!?」

「敢えてはっきり言うわ。足手まといなのよ。これから行くところは確実に血が流れる。それを全然実戦に出てない人が一緒に行くのは無理なのよ。そして魔法の源がある場所なら、おそらくカケラも必要になる可能性が高い。だから私に渡して、アルセドはここに残りなさい」

 目を据えてシェーラは言い放つ。アルセドは唇を閉じ、手を固く握りながら小刻みに震えている。“足手まとい”という言葉が余程効いたのか、言い返そうともしない。

 クロウスが心配そうな顔をしながら、シェーラとアルセドを交互に見ていた。他の人達にも緊張が走っている。

 動かないアルセドを見て、シェーラは腕を伸ばした。胸ポケット辺りにカケラを大事にしまっているのを見たことがある。無理矢理にでも取ろうとした。

 もう少しで届くと言う所で、瞬時に右手が叩かれる。

 目を丸くしながら、右腕を持たれ、右足をアルセド側に払われた。

 そしてそのまま、シェーラは後ろに倒れ込まされる。

 背中に衝撃が走るが、だがそれは一瞬だった。(すんで)の所で止まったのだ。

「俺は……」

 アルセドの声が直に聞こえてきた。心に溜まった想いが声と共に流れ出てくる。

「俺は……シェーラ達に比べたら、まだまだ弱い。でも……、俺はイリスさんの想いを受け取ったんだよ」

 雨がぽつりとシェーラの顔に落ちる。

 いや、雨ではなかった。


「……目が覚めたら言いたい。俺が守るから、もう心配しないでくれ。イリスさんの想いを俺自身でちゃんと源にまで持って行ったって、言いたいんだよ!」


 目下には涙が浮かんでいた。ほとんど落ちずにその場で溜まっている。

 ゆっくりとシェーラを地面に寝かし、アルセドは腕を放した。そしてシェーラに背を向けて、顔を伏せながら元の場所に戻る。誰も話しかけようとはしない。

 若干呆然としながらも、クロウスによって立ち上がったシェーラはその背中を見て、さらにその先にいるレイラを見た。よく見ると、彼女の隣にいたルクランシェがいなくなっているのに気づく。ルクランシェは情報部の一人に話をしていたのだ。そして振り返り、簡潔に伝える。

「レイラ、情報部員を一人置いていく」

「え……、彼、情報をいつも早く収集している人よね?」

「そうだ。もし何かあった場合に急いで局に戻るように頼んだ。それにここも襲われた時のことも考えた」

 そして今度は鋭い視線をスタッツの方に向ける。

「貴方がしっかりサポートしてくれるのでしょう? お弟子さんを」

 腰に手を当てていたスタッツはふっと笑みを浮かべ返す。

「まあ師弟関係は切れていないからな。最悪の状況はサポートする。だが基本は教えておいた、自分の身くらいはしっかり守れるさ」

「その言葉、しかと受け取ったからな」

 ルクランシェが言った後に、腕に傷がある男性が乗船の準備をするよう声を出す。

 一瞬だけ呆然としていたが、すぐに事件部、情報部の人達は意識を船に向け、荷物を運ぶ準備を始める。

 スタッツは軽くアルセドの肩を叩き、そのままその後ろに付いて行った。レイラも心配そうな顔をしていたが、ルクランシェに促されて男性の元に詳しい話をしに行く。

 その場に残ったのはシェーラとクロウス、そしてアルセドだけだ。

 重たい雰囲気が流れる。

 一刻も早く動きたいが、重すぎて口を開くだけで精一杯だった。

「ねえ、クロウス。スタッツさんとルクランシェ部長って、何だか変な関係よね? 全くの他人じゃないように見えるのに、敢えて知らないふりをしている、そう見えない?」

「そうだな。まあ過去に色々あったんじゃないのか。二人とも情報収集に長けている点では似ているし」

「そう言われれば、そうね。きっとどこかで接点があったのかな。まあ人のことは人のこと。今は運ぶ手伝いに行って、早く出航しましょう」

 クロウスの手を引いて急いで連れ出そうとしたが、未だに不機嫌で、よくわからない表情を浮かべている少年が気になってしょうがない。

 立ち止まり、深々と息を吐き、横目で少年を見た。

「……悪かったわ」

 アルセドが目を丸くする。

「強くなったわね」

 それだけ言うと、後ろを振り返らずシェーラは一人で駆け出して行ってしまった。



 シェーラの背中を呆然と見つめるアルセドにクロウスは頭を撫でる。

「シェーラも素直じゃないからな」

「よく……わからないんだけど」

「お前ももう少し他人の考えていることを読み取る力を付けておいた方が、後々役に立つぞ」

「答えになっていないけど」

「シェーラは怒っていないよ、それで充分だろう」

 まだ疑問符を浮かべているアルセドをその場に置き去りにして、歩き始める。

 シェーラは冷静に物事を分析した結果、アルセドに対して足手まといという、冷たい言葉を出したのだ。だが彼が意外な行動に出て、それは彼女に驚きと関心を与えた。それが二言だけ、口から出されたのだ。

 こういうのは、経験がものを言うからしょうがないか……っと思いつつ、後ろから追いかけてくる少年を待ちながら歩いた。



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