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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
第七章 進み始める時間
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7‐12 魔法の実態

 島会議、二日目――。

 朝からの小さな議論もほどなくして終わり、昼食を挟んで、いよいよ主となる話題が出てくることとなる。レイラは食事など取らず、ひたすら最後まで話す内容を確認していた。その後ろ姿を見ながら、シェーラはふと窓の外に視線を向ける。

 真っ青に広がる空ではない。白い雲が若干覆い始めている。しかもその白さの中には灰色に近い雲があった。

「雲が近い――」

 手を伸ばせば触れられそうなくらいは言い過ぎだが、その近さが逆に漠然とした不安を感じてしまう。

 風が窓に吹きつける。どこかおどろおどろしくあり、冷たく叩きつけていた。その風はシェーラが触れて心地よいものではないだろう――。



「では、今回の会議のメインの話題に移りたいと思います。クレメンさん、後はお任せ致します」

「……はい」

 司会者からそう呼ばれると、レイラはすっと立ち上がり、島長達を見渡す。そしてその間でシェーラと視線が合うと、軽く頷き決意を固めた。その意思を受け止めたシェーラも頷き返す。

 意を決し、レイラが声を開き言葉を口にした。

「さて、事前に渡した資料やアンケート、また直接会ってお話しました内容を、この島長がいる場で改めて議論をし、決断したいと思い、このような場を提供させて頂きました」

 滑らかに出される声により、部屋は徐々にレイラの空気へと変わりつつある。

「――魔法は有限である。そのため、これから私達はどのような方向に動くべきか。それを今回、皆様に議論して頂きたいと思います」

 そう言うと、レイラは総合部の人に合図を送って、資料を配布するように促す。島長だけでなく、護衛達などその場にいる人全員に対して配り始めた。



「――始まったみたいだな」

 隣室では壁に寄りかかっている男が一言呟いていた。その言葉を受けて、その場にいた魔法管理局の総合部の人、そして護衛達は息を呑んだ。緊張が一気に高まる。

 クロウスは椅子からそっと立ち上がり、壁に耳を当てた。レイラが指示している声が何となく聞こえてくる。

「スタッツ、よくわかったな、これから始まるって。そこまではっきりと声が聞こえるわけでもないのに」

 クロウスはいつも通り平然と立っているスタッツに目をやる。スタッツは溜息を吐き、肩を竦めた。いつもならすぐに言い返すはずだが、今回は沈黙を守っている。

 島会議が始まってから、ずっとこういう状況であった。ひたすらに息をひそめながら隣の様子を伺う。時折、言葉は発するが会話をするにも乗り気ではない状況である。だから今回もクロウスはそのまま口を噤んでしまう。

 だがずっと椅子に座っていたアルセドが床を見つめながら声を出していた。

「何か、島会議って淡々としているんだな。少し意外だ」

「アルセドは何を期待していたんだ?」

 正直、アルセドからそんな言葉が出てくるとは思っていなかった。

「期待ってほどじゃないけど、活発な議論とか、それこそ言葉がぽんぽん出てくる感じかなと思っていた。だって、国の一番上の会議だろ?」

 アルセドの言うことも一理あった。会議というのは話し合いが主と思っているのだろう。だが、今回はほとんど報告しかしていない。

「……大事な会議だからこそ、だいたいの内容は予め話をつけておいて、報告と承認しかしない。みんな忙しい人だ。そう何日も会議に費やせない」

 スタッツの頬は少し緩んでいた。心身ともに成長した弟子の発言に喜んでいるように見られる。

「それに会議をする場所に行くまでに相当な日数を費やすからな」

「けどその分、長く会議しても――」

「長く時間を費やしてもいい事はない。ただ無駄に体力や時間を消耗するだけだ。まあそこら辺は、もう少し色んな空気に触れればわかるはずさ」

 アルセドはその言葉に納得できないようで、首を傾かせる。

 スタッツの言うことはもっともだと、クロウスは思っていた。長々と時間を使った話し合いは全く内容を知らない人から見れば、凄いかもしれない。だが内容がスカスカで、沈黙が多いものなら、それは無駄とも言えるだろう。

 量より質が大事――。

 それをアルセドはこの一か月、身を持って体験したはずだが、そこまで知識を発展するまではいってないらしい。元々頭の回転は速い方だが、今回はどうやら知力が体力の方に持っていかれたのだろう。

 そんなことを思いながら、クロウスは壁の向こう側に集中した。

 守ると言った女性がいる、向こう側に。



 資料を受け渡された人達は読み終えると、次々に顔を上げていく。シェーラとて例外ではない。魔法の実態、魔法が有限であるかという実験、そして魔法を使わずに生活をするのは可能なのかという調査まで詳細に書かれた内容を読んで、驚きを隠せない。

 いつどこでそんな調査をしたのか全く知らなかった。ダニエルやルクランシェの様子を見ると、特に驚いた風でもない。部長格や総合部だけが知っていたという所だろう。

 全員が顔を上げたのを見届けると、レイラは話を続けた。

「さて、目は通して頂けたでしょうか? まず、この資料に関して何か質問等がある方は挙手をお願いします」

 すっとレイラの左横の女性が手を挙げた。ノルデンが口を横一文字にしている。

「どうぞ、ノルデンさん」

「……まずはこのデータ全てに言えることですが、果たして真なのでしょうか? 特にある小さな町に一切魔法を使うなと言い、一ヶ月生活をしてもらったらしいですが、本当に全く使っていないのか。そちらのほうで、何人か調査団も一緒に生活していたらしいですが、その人達が実は魔法を使っている所を黙認していたということはないのですか? もしかしたら調査団も使っていた可能性があるのではないでしょうか? あまりにも不安定な要素がありすぎます」

 抑揚をつけつつも簡潔に言う姿に、やはりこの人は島長としての威厳があると納得できる。

 一ヶ月ほど、デターナル島のいくつかの小さな村で魔法を使わないよう生活をしてくれとお願いをし、それができるかどうか調査をしたらしい。(あらかじ)め最低限のもの、擦れば火が出てくるマッチや、簡易の井戸などは設置しておいた。

 そして結果は――、特に暴動も起こることなく、静かに一ヶ月は過ぎたのだ。試しにアンケートを取ったが、始めは慣れずに戸惑うことがあったが、別にそこまで困ることではなかった。夜は小さなランプの光だけで、暗くて大変だったが、現存している風車や水車が流れ続けている間は、別に不自由なことはなかったらしい。

「……確かに人が見て、感じて報告した資料でありますから、信憑性は欠けるかもしれません。ですが、私達の調査団が使ったということは絶対にありません」

「そうはっきり言いきれる理由は?」

「それは魔法が使えない人、逆純血の方で構成されているからです。ですから、調査団が魔法を使うことはできません」

 ノルデンはその言葉に返答が詰まった。レイラはさらに続ける。

「逆純血にとっては、魔法に対してあまりよろしくない思い出ばかりあるでしょう。魔法が使えないが故にいじめられたなど。そのような人達が規則を破ってまで魔法を使っている村人を見たらどう思うでしょうか?」

 シェーラはクロウスのことを思い出す。ほとんどクロウスの過去のことは聞いたことがない。ただ、たまに魔法を使っている人を見ると寂しそうな顔をしていた。ほんの少しの生まれの違いだけで、他の人とは全く違う、不遇な状況に陥ってしまった。それはやはり悔しいのかもしれない。

「また調査後、すぐに実験部の者達が村に訪れて各家を見回りましたが、特に魔法を使った形跡はありませんでした。魔法を使った場合、多少なりともそこの循環が狂うものですから」

 だが全てが客観的に見られるデータではない。レイラにとって、それらは一種の賭けのように思われる。ノルデンは一度口を閉ざし、何か他のことを質問しようと躍起になって資料をひっくり返し始めた。

 やがてノルデンから視線を逸らし、再び全体を見渡す。

「他に何か質問等ある人はいますか?」

 するとノルデンの後ろに立っている護衛の青年が申し訳なさそうに手を挙げ、一歩前に出た。

「あの、本当に魔法はなくなってしまうのでしょうか?」

 レイラより二、三歳若い青年だった。初めて聞く事実なのか、半信半疑の顔だ。レイラは表情を若干緩めながらも、しっかりと受け答える。

「その事実は揺るぎません。魔法はどこから出ていますか、何をきっかけに起こっていますか? どうして魔法で動かしているものが、突然止まるのですか。無限のものなら止まりはしません。有限であるからこそ、時に違う現象が起きるのです」

「それだからと言って、なくなるとは……」

「別の観点から捉えましょう。今はまだ魔法を自由に壮大に使える人がいます。ですが、世代を重ねるにつれて、魔法を操る血は薄れかけ、やがてはほとんど使えなくなってしまうでしょう。それは実際に過去のデータから立証できます。例え魔法が無限であるとしましょう。ですが、血が薄れる実態は揺るがない事実であり、いつかは魔法に頼れなくなります」

 青年は驚いたように目を見開き、そして顔を俯きながらそのまま元いた位置に戻った。

 シェーラはそれを聞いて、なるほどと頷く。純血の母親が魔法を使っている所をほとんど見たことがないせいか、あまり魔法の強さを感じずに過ごしていた。

 だから気にならなかったが、普通の人達は血が薄まっているため、あまり使えない人が多い。小さな火を出したり、小さな畑を肥やしたり、それくらいしかできない。発電所を動かしている人は、魔力が高い人のおかげである。そういう当たり前の事実に今まで考えたことがなかったのだ。

 スードラやウェルナーは難しい顔をしながらも、頷いていた。肯定の意を表していると思われる。今まで何年もの月日を得て、ようやく頷ける段階まで来ていたのだろう。ノルデンも敢えて追及しないのは、そのような経緯があったからかもしれない。

 数分間、誰かが手を挙げるのを待ち続けた。何もなければ、次の段階に行く。むしろ次の段階が主となる内容であるので、このような所で時間を費やしたくないのかもしれない。

 時計をちらっと見て、何も質問や意見がないと判断すると、レイラは次の議題に移った。

「では、魔法が有限であるとして、今後私達はどのように生活していけば――」

「少し待って頂きたい」

 低い声がレイラの言葉を遮る。そんな声を出す人は一人しかいなかった。レイラは困惑そうな様子を悟られまいと、毅然と振舞う。

「何でしょうか、オルディフさん」

 オルディフは時計を見てから、レイラに冷たい視線を送る。

 何か時間を気にする理由でもあるのだろうかと、シェーラも少し身を乗り出して時計を見た。短針はもうすぐ真上を向く。

「これからの魔法の在り方を話し合う予定であるな?」

「そうです。有限とわかったからには、このまま使い続ける利点がありません。ですから――」

「まったく愚かな発言だ」

 かちっと静かな音と共に短針は真上を向く。

 シェーラはその瞬間、心臓が高まり、自分の血が騒いだのを感じた。イリスが危険な目にあったときと同じような感覚が。

 そして次の瞬間、レイラに対して、銀色の光る物体が投げつけられた。



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