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虹色のカケラ  作者: 桐谷瑞香
序章
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序章 雲の広がり始め

 まずは拙作を目に留めて頂き、ありがとうございます。

 この小説は約2年の執筆期間を経て、09/09/28に完結した長編異世界ファンタジー小説となっております。

 かなり長めの話ですが、のんびりと読んで頂ければ嬉しいです。

 また、拙い文章ですが、この小説を読んで何かを感じてくれたら、また最後までお付き合いいただけたら幸いです。

 どうぞよろしくお願い致します。


 では、「虹色のカケラ」をお楽しみください。


 ここに古びた一冊の本がある。表紙を開けるとまず目に飛び込んできたのは、乱雑に書かれた文字だった。



 風は大気と穏やかさを、

 地は大地とぬくもりを、

 水は海と清らかさを、

 火は炎とあたたかみを与える。

 これら四つの循環を乱してはならない。



 次のページからは他の人が書いたのか、また別の筆跡が残されていた。丁寧に書かれているためか、先ほどの字よりは読みやすい。しかしこの国の時代で使っている言語とは違うため、ほとんどの人が読むことはできないだろう。


 そして、古びた本の表紙には赤い石のカケラが埋め込まれていた――――。






 * * *





 午後のとある時間に、一人の女性が優雅にコーヒーを飲んでいた。金色に輝く長い髪の毛を後ろでまとめて結いあげた、二十代半ばの女性はどこか凛とした気配を漂わせている。

 机の上に乗せてある大量の本や部屋中に散らばっている紙がなければ、充分に絵になる光景だった。

 彼女にとってお気に入りの豆を使っているためか、疲れているとはいえ思わず顔もほころんでしまっている。そんな状況でもないとはわかっているが、誰でもひと時の安らぎは必要であった。

 そんな女性を見ながら、二十歳前後の娘が机の前で溜息を吐いている。旅人用のローブを着ており、黒く滑らか髪は頭の上のほうからひとつに結んである。

 コーヒーを飲んでいる女性とは違う、どこか人を惹きつけるような雰囲気があるようだ。

「全く、お茶の時間なら出直しますよ。そんな邪魔をしたくないですし」

「それは心外だわ。お茶の時間じゃないわ、眠気覚ましよ。仕事溜まっていて、今日も部屋には帰らないつもりだから」

 それを聞くと娘ははっとした様子で顔を暗くする。

「すみません……、こんな時期に暇をもらうなんて言ってしまい……」

「あなたが暇をもらうことと、私の仕事が溜まることは全く別問題よ。毎年のことなのだから、いちいちあらたまらなくていいの。少しは違う空気でも吸ってきなさい。……私からもよろしく言っておいてね」

「わかりました。ありがとうございます。それでは、また」

 娘は軽く会釈をして、その部屋をあとにした。

 揺れる黒髪が見えなくなった所で、女性は一気にコーヒーを飲み、気力を入れなおす。

 そして、また仕事でも始めようとした時、突然今、閉じられたばかりのドアが激しく叩かれた。

「入りなさい。何事ですか?」

 扉の先まで届く凛とした声を発し、来るものを出迎える。勢いよく入ってきた男は走ってきたらしく、息が上がっていた。

「サブ、大変です!」

 サブと言われた女性の目の色が瞬間的に変わった。仕事の目へと。

立ち上がり、男の前に立つと簡潔に言葉を出した。

「何が大変か、急いで話しなさい」

「はい。……先ほど、ノクターナル兵士がソルベー島に入ったという、連絡が入りました!」

「なっ……、ソルベー島にですって?」

 多少は予想していたが、まだ大量に兵士がネオジム島の方にいるので大丈夫だろうと思っていた矢先のことだった。眉間にしわがどんどんよっていく。急いで机の本の山を崩しながら、地図を取り出し広げた。

「それで、どの方向に向かっていたかわかる?」

 男は広げられた地図に指を乗せて、動かす。

「北の方に向かったと言う連絡でした。馬や荷物もそれなりにあったようなので、おそらくこの険しい山は越えずに平野部に行くと思われます」

「ということは、一番近い村は……、ここね」

 サブの指がとある村の名にのせる。

「けどここには兵士達が目的としている純血の人はいない。あなたが先日調査した村ですから、間違いないでしょう」

 男は頷く。そしてサブはその村からやや南下したところを見て、眉を顰めた。

「イリデンス……」

「どうかしましたか?」

 サブの表情が厳しくなっていくのが、直接見えない男でさえすぐにわかった。

「……いるわ。この村に一人」

「じゃあ、兵士はこの村に。早くこちらから保護をしなくては」

「そうね。でも普通に行ったら、まず間に合わない。先に使者と銘打って、サポートをする人を、先に行かすのが得策でしょう。それでも日数的に厳しいところかもしれない」

 両者の表情は渋くなるばかりだ。

「そうですね。だいたいこんなところに谷があるから、時間がかかってしまうんですよ。これがなければ、わざわざ迂回しなくてすむんですけどね」

 その言葉にサブは目を丸くした。イリデンスの近くには深そうな谷がある。これを飛び越えればかなりの短縮になりそうだが、距離的に常人では飛び越えられる距離ではない。

 サブの顔の変化に気づいたのか、男は尋ねた。

「なにか名案でも思いついたのですか?」

だがすぐに、思いもよらない言葉で返される。

「――ねえ、さっきこの部屋から出て行った子、まだここら辺にいるだろうから、探して連れてきてくれる?」

「え、ああ、あの子ですね。それがどうして?」

「話は後でするから、急いで探してきて!」

 語尾にはかなり力が入っていた。あまりの気迫に男は行きと同様、足早にその部屋から出て行く。

 サブは髪をかき上げながら、大きく息を吐いた。

「まるで、こっちの動きでも読んでいるよう。いえ、それよりも私達よりは先の動きをしているのか。あと数カ月なのに……、もう少し大人しくしてくれてほしかった。ひとまず、愚痴るのは後にして、先に手紙を書くか」

 一枚の羊皮紙を取り出し、イリデンスの村長宛に、丁寧に文章を連ね始めた。

 ふと窓の外を見ると、西側の空には微かに厚い雲で覆われ始めていた。島全体を雲で覆いそうなくらいの大きさである――。

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